平本蓮は、どこまで強くなっているのか─。
この一点がテーマの試合だった。3月6日夜に行われた『RIZIN LANDMARK vol.2』のメインエベント平本蓮vs.鈴木千裕。多くのファンが「朝倉未来に喧嘩を売る23歳のビッグマウス」に注目した。

  • 「朝倉未来を失神させる!」と豪語も、RIZINで2連敗を喫した平本蓮のこれから─。

    開始直後からキックボクシング王者の鈴木千裕にペースを握られた平本蓮(左)。動きに硬さが目立った(写真:RIZIN FF)

しかし、結果は完敗。格闘技ファンの多くは「やっぱりな」と思ったことだろう。大口の代償は大きい。それでも平本は表情に悔しさを滲ませ、瞳に涙を薄っすらと浮かべながらも前を向く。「俺はこんなもんじゃない」と。彼は、何処へ向かうのか?

■「ど真ん中に立つ」発言の末に

「結果は悔しいです、負けました。けど、負けてないです。練習は死に物狂いでやってきたので後悔はない。ただ、練習と試合は別物だった。いまの自分に足らないのは、総合格闘技の(試合)経験。また、すぐにやります。今年はどんどん試合に出る」

3月6日夜、都内のシークレットスペースで開かれた『RIZIN LANDMARK vol.2』のメインエベントで鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)に0-3の判定完敗を喫した直後に、平本蓮(ルーファスポーツ)は、そうコメントした。

総合格闘技戦績1戦1敗ながら、SNSで注目され存在感を高めたことで異例のメインイベンターに抜擢された平本蓮。
強気の発言は、どこまで本当なのか?
約1年3カ月ぶりの彼の闘いを多くのファンが見守った。
K-1のリングで実績を積んだ平本が、総合格闘技に初めて挑んだのは一昨年大晦日『RIZIN.26』。萩原京平(SMOKER GYM)と対戦し、2ラウンドTKOで敗れた。
その後、彼は単身アメリカに渡り武者修行。ウィンスコンシン州ミルウォーキーにある格闘技ジム「ルーファスポーツ」で、現BELLATORバンタム級王者のセルジオ・ぺティスらとトレーニングを積む。そして昨年12月に帰国した後は、元RIZINファイター・石渡伸太郎からも指導を受けていた。

この間、SNS上で朝倉未来を挑発、またタレントの武井壮の発言に噛みつくなど、何かと世間を騒がせる。そして、大胆な発言も繰り返していた。
「遂に俺が、ど真ん中に立つ時がやってきた。衝撃的な勝ち方をする、その時に世界が変わる」
「UFCで王者になれる日本人は平本蓮なんじゃないか、みんながそう思う試合をしてみせる」
「今年は俺が、朝倉未来を失神させてやるよ。でも次の試合を観たら(朝倉は)『闘いたくない』と思うだろうな」

  • 試合後、左眼下を腫らせた顔でメディアからの質問に答える平本蓮。落胆していたが、強気な発言は崩さなかった(写真:RIZIN FF)

■「必ず頂点に立つ、諦めない」

だが、有言実行とはならなかった。
1ラウンドから鈴木に攻め込まれ、右ストレートを浴び、一瞬ヒザをマットに落とすフラッシュダウンを喫す。その後も試合のペースを握ることができず試合終了のゴングを聞く。判定を待つまでもない完敗だった。

平本にもチャンスはあった。
実は、鈴木は両拳を1ラウンド早々に傷めていた。平本の左眼下にストレートパンチを放った際に右拳を壊し、その後のフックパンチで左手の親指のつけ根に激痛をおぼえた。以降、まともにパンチを打つことができなくなっていたのだ。さらに彼はスタミナも切らせていた。
それでも鈴木は、粘り強さと巧さを見せる。組みついて平本をコーナーに押し込み、時間を経過させる作戦に出たのだ。求めていた闘い方ではなかっただろうが、(1ラウンドでポイントを奪っている。ならば逃げ切れる)と考えたのだろう。

この鈴木の策は功を奏す。平本は、彼の苦し紛れの組みつきをいなせない、まだ「一撃を放てる状態」にあったにも関わらず攻めに転じられなかった。
平本は悔しかったことだろう。練習ではできていたはずのことが、リング上でできなかった。 だから、試合後に言った。
「自分に足りないのは経験」だと。

  • グラウンドの展開で鈴木にバックを取られる平本蓮。試合は、鈴木千裕のペースで進んでいった(写真:RIZIN FF)

今回、平本は一気に成り上がるチャンスを逃した。
それは、実力が足らなかったから。
「練習ではできても試合で発揮できない」=「実力不足」だろう。
朝倉未来と対峙するには、まだ多くの時間がかかりそうだ。

イベント終了後にRIZIN榊原信行CEOは言った。
「彼が言う通り、試合経験が必要だと思う。這い上がっていけるかどうか。チャンスは与えたい。今日の試合でカラダに負ったダメージにもよるが、4月の大会にも可能なら出て欲しい」
特異なキャラクター、そしてビッグマウスで自らにプレッシャーをかけ闘い抜こうとする若きファイターは現時点では「実力よりも注目度先行」。
今回は、荷の重いメインエベンターを務めたが、これからは少し肩の力を抜いて闘えるポジションにつくことになろう。

この試合の直後、朝倉未来はこうツイートしている。
「まーこんなもんよ。まだまだ話にならんな」
これに対しどう思うか、とメディアから問われた平本は答えた。
「どうも思わない。俺の方が強い。必ず頂点に立つ、絶対に諦めない」
負けても強気な発言は崩さない。そんな彼には、なぜか期待感を抱いてしまう。ビッグマウスはさておき、格闘技に取り組む真摯な姿勢が見えるからだろう。
「明日から練習を始める」
そうも言った彼は、まだ23歳。強くなるための時間は十分にある。
屈辱をバネに、どこまで這い上がれるのか。平本蓮を今後も注視したい。

※「RIZIN LANDMARK vol.2」は、RIZIN LIVEほか全9社でPPV配信。アーカイブ配信は3月13日(日)23時59分まで。

文/近藤隆夫