左脳が「論理的思考」を司るのに対して、右脳が「直感的思考」を司るということは多くの人が知るところでしょう。また、左脳は身体の右側、右脳は逆に身体の左側の機能を司っていることも有名です。それらを踏まえると、左手をよく使う左利きの人は直感力に秀でているとも考えられそうです。

「まさにそのとおり」というのは、自身も左利きであり、『1万人以上の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)という著書を上梓した脳内科医の加藤俊徳先生。左利きの人が直感力に優れている理由、利き手にかかわらず直感力を磨く方法を教えてもらいました。

■脳がアウトプットする直感には必ず意味がある

左利きの人は、右利きの人に比べて「直感」に優れているというのがわたしの持論のひとつです。そういえる理由は、直感を司る脳の部位にあります。

じつは、左手の動作を司る運動系の部位のすぐ後ろにオーバーラップするように直感を司る部位があるのです。そのため、左手をよく使う左利きの人は、それだけ直感を司る脳の部位もよく使い、鍛えていることになります。そうして、直感力というものが伸びていくのです。

もちろん、いかに直感に優れているからといって、頭に浮かんだことがそのまま仕事など実社会で活かせるということはそう多くありません。それこそ、直感というと単なる思いつきだとかあてずっぽうというふうに認識されることもあるでしょう。

でも、自分の五感を通じてつねに多くの情報をインプットし続けている脳がアウトプットとして生み出す直感というものには、必ずなんらかの意味があるとわたしは考えます。その直感が持つ意味や、それぞれの直感のあいだにあるつながりをきちんと見出すことさえできれば、その直感は大いに実社会で活かせるものになるでしょう。

そうするために、わたしが10代の頃から40年以上にわたって続けているのが、自分の頭に浮かんだ直感をノートに書きとめるというもの。思い浮かんだ直感は、論理的になんらかの意味を見出だせるものではないということがほとんどで、まさに単なる思いつきです。でも、そういうものであってもメモを取り続けるのです。

そうすると、ノートを見返しているうちに、3週間前のメモと1週間前のメモ、今日のメモのあいだに突然つながりが見えてくるということがあります。「ああ、こういうことか!」「だったら、こう考えることもできるのではないか?」と思考が広がり、直感が、単なる思いつきから実社会で活かせるものに変わった瞬間です。

■論理的思考以前の直感が世の中を変える

先の「単なる思いつき」の話ではありませんが、昨今のビジネスシーンではロジカル・シンキング、論理的思考というものがとにかく重要だと考えられがちです。

ただ、わたしは多くの人が勘違いしていると思うのです。論理的思考の前にある、直感こそが本来、重要なのです。いまは常識となってそれこそ論理的に説明できる多くの事象も、その解明は直感からはじまったものです。

その真偽はともかく、物理学者のニュートンはリンゴが木から落ちる様子を見て万有引力の法則を発見したという有名な逸話があります。リンゴを見て得た「あらゆるものに引力というものがあるのではないか?」という直感は、その時点ではそれこそ単なる思いつきでした。

でも、ニュートンはそこから数学を用いてその直感が真理だということを証明します。この証明が、論理的思考です。ただ、それ以前の「あらゆるものに引力というものがあるのではないか?」という直感がなければ、そのあとの論理的思考も、そしていまや常識となった万有引力の法則も存在しません。そこに、直感の重要性があります。世の中を変えるような大きなアイデアやビジネスプランも、そのはじまりの多くは直感なのです。

もちろん、論理的思考が必要ないといいたいわけではありません。直感を単なる思いつきで終わらせてしまえば、せっかく脳が生んでくれた直感を無駄にしてしまいます。重要なのは、直感力と論理的思考力の双方をしっかり鍛えることです。

先にお伝えしたわたしのノート習慣は、まさに論理的思考力を鍛えるためのもの。直感を単なる思いつきで終わらせず、その直感が持つ意味、それぞれの直感のあいだにあるつながりを見出すということは、論理的に思考するということに他なりません。

論理的思考を司る左脳を使う頻度が、右利きの人と比べると相対的に低い左利きの人はもちろん、右利きの人にとってもこのノート習慣は有用なものになるはずですから、ぜひみなさんの生活に取り入れてほしいと思います。

■論理的思考力、直感力をともに伸ばすノート習慣

そして、このノート習慣は、じつは論理的思考力と同時に直感力を鍛えるものでもあります。

先に、自分の頭に浮かんだ直感をノートに書きとめるとお伝えしました。でも、書きとめるものについては、仕事のアイデアにつながりそうなことというような限定はしません。目に入ったもの、耳がとらえた音など、とにかく気になったありとあらゆることをメモしましょう。

散歩をしていて、近所の民家の軒先にぶら下がっている柿が気になったらそれをメモする。ふらっと入った画廊で「この絵が好きだな」と思ったなら、その絵の特徴なども含めてそのことをメモする。あるいは、たまたま耳にした音楽が気に入ったらメモするといった具合です。

「気になる」ということは、自分では意識していなくとも脳の直感を司る部分が「これには意味があるよ」と自分に投げかけているということ。つまり、そうして蓄積していくメモは直感の種ともいえるものであり、「気になる」ことをメモすることはその直感の種を発見することに意識的になり、直感の種を見つける感覚を磨いていくということになります。こうして、直感力が鍛えられていくとわたしは考えます。

もちろん、せっかくのメモをそのままにはしないでください。せっかく脳が「これには意味があるよ」と投げかけてくれたのですから、「どうしてこの絵が好きになったんだろう…」「どうしてこの音楽にひきつけられたのだろう…」というふうに、しっかり考えてみましょう。そうすることで、脳のなかに直感を言語化する仕組みができ上がり、論理的思考力を伸ばすこともできます。

大切なのは、とにかくやることに尽きます。直感力というと先天的なものだと考える人も多いと思いますが、わたしはそうは考えません。直感も脳が生み出すものである以上、それを司る部分を鍛えれば、直感力もしっかり伸ばしていけます。直感力が先天的なものだと多くの人が考えているのであれば、チャンスです。そう考える人たちは直感力を伸ばそうなどとしないのですから。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人