マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、20年春の「コロナ・ショック」以降、経済を支援するために強力な金融緩和を続けてきました。政策金利をほぼゼロ(0.00~0.25%)まで一気に引き下げてその水準を維持、国債などを購入して市場に資金を放出するQE(量的緩和)も再開しました(前回はリーマン・ショック後の2008~13年に断続的に実施)。

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、20年春の「コロナ・ショック」以降、経済を支援するために強力な金融緩和を続けてきました。政策金利をほぼゼロ(0.00~0.25%)まで一気に引き下げてその水準を維持、国債などを購入して市場に資金を放出するQE(量的緩和)も再開しました(前回はリーマン・ショック後の2008~13年に断続的に実施)。

米FRBは金融政策の正常化を模索

足もとで、オミクロン株の感染拡大が続いており、米国経済もコロナの呪縛から解放されたわけではありません。それでも、金融緩和や財政出動の効果もあって、米国経済は堅調な状況が続いています。そして、世界的にインフレが高騰するなかで、多くの主要中央銀行と同様に昨年後半にはFRBも金融政策の正常化を模索するようになりました。

FRBは昨年11月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、QEを段階的に縮小・終了させるテーパリングを決定。順当にいけば、QEは22年半ばに終了する予定でした。しかし、翌12月のFOMCでテーパリングのスピードアップが決定され、QEの終了予定は22年3へと前倒しされました。

22年中に3回の利上げも 12月のFOMC後に公表された「ドット・プロット(あるいはドット・チャート)」は大変興味深いものでした。これは、FOMCに参加する18人の政策金利見通しを一人一つの点(ドット)として示したもの。各個人の見解であり、そのためバラツキは大きいものの、市場はその中央値をFRB自身の予想として受け止める傾向があります。

  • FOMCのドット・プロット

12月の「ドット・プロット」の中央値は、22年中に3回、23年中に3回、24年中に2回の利上げを示していました(1回につき0.25%の利上げと想定)。そのため、市場では22年の前半中、それも早ければテーパリングが完了する3月にも利上げが実施されるとの見方が急浮上しました。昨年9月に公表された前回の「ドット・プロット」の中央値では22年中の利上げは0.5回でした(参加者が偶数だったため、中央値は0回と1回の平均で示されるため)。

QT(量的引き締め)の開始も

さらに興味深いことに、今年1月5日に公表された12月FOMCの議事録によれば、「利上げ開始後の比較的早い時期に、FRBのバランスシートの規模を縮小し始めることが適切になりうると、一部の参加者は指摘した」とのこと。FRBはQE(量的緩和)によって購入した債券を保有するため、QEが終了してもバランスシート(総資産)の規模は維持されます。これに対して保有債券を積極的に売却する、あるいは満期償還される債券の再投資を停止すれば、バランスシートは縮小します。これをQT(量的引き締め)と呼び、保有債券の売却は「積極的なQT」、再投資の停止は「消極的なQT」と位置付けることができます。まずは「消極的なQT」が念頭にあるはずです。

仮に22年中の早い段階で最初の利上げが実施されるならば、QTもすぐに始まるかもしれません。1月11日の上院銀行委員会の公聴会で、パウエル議長は「(バランスシートを)今年のある時点で自然に縮小させ始める」と語りました。

前回の金融政策正常化のケース

前回の金融政策の正常化には長い年月がかかりました。2008年のリーマン・ショック後、FRBはゼロ金利政策に踏み切り、さらに断続的にQEを実施しました。FRBがテーパリングを行ったのが14年1-10月、最初の利上げは15年12月、2回目の利上げは16年12月でした。そして、QTが始まったのは、4回目の利上げが実施された後の17年10月でした。

  • 金融政策正常化プロセスの比較(リーマン・ショック後VSコロナ・ショック後)

思わぬ悪影響も

FRBは今回、インフレの高騰に対応するため、テーパリング、利上げ、QTといった金融政策の正常化策を矢継ぎ早に繰り出す構えのようです。ただ、世界最大の経済を持つ米国の金融政策の転換は、世界の金融市場から注目されています。FRBが金融政策の正常化を急げば、世界的な株価の下落や新興国通貨の危機など思わぬ悪影響が生じる可能性もあり、注意深く見守る必要があるでしょう。