テレビ東京で生まれた『テレビ演劇 サクセス荘』シリーズがまさかの映画化となり、現在『映画演劇 サクセス荘 〜侵略者Sと西荻窪の奇跡〜』が全国で公開されている。同作は都会の片隅にひっそりと佇む一軒のアパート「サクセス荘」を舞台に、芸人、漫画家、占い師、料理人など個性豊かな住人の物語を描いている人気シリーズで、「本番一発勝負」が特徴だ。

映画でも同じく一発撮りで勝負し、住人である和田雅成、高橋健介、高野洸、高木俊(※高ははしごだか)、黒羽麻璃央、spi、立石俊樹、有澤樟太郎、荒牧慶彦、定本楓馬、玉城裕規、寺山武志、小西詠斗、唐橋充(劇中部屋番号順)に加え、ゲストとして佐藤流司、北園涼、橋本祥平、北村諒が謎のセレブ集団・通称S4として登場する。今回は番組を担当する漆間宏一プロデューサーにインタビューし、作品の意図や映画化への思い、テレビプロデューサーから見た2.5次元というジャンルなどについて話を聞いた。

2021年12月31日から公開中の『映画演劇 サクセス荘 ~侵略者Sと西荻窪の奇跡~』

■当初から長期シリーズを目指していた

――『サクセス荘』が2019年にスタートして、シリーズ3期、『サクセス荘mini』、『マルチ演劇』、そして今回の『映画演劇』と展開を広げています。そもそも始まりとしてはどういう意図だったんですか?

いわゆる2.5次元で活躍している俳優の方達の活動は舞台がメインなので、映像でも活躍してほしいということがあり、ネルケプランニングのファウンダーである松田誠さんの提案でドラマの企画を進めていきました。テレビ東京のドラマチームにとっても、主に2.5次元のフィールドで活躍されている俳優さんたちについてはまだ未知数だったし、新鮮だったことを思い出します。僕自身はもともとtvkで『俺旅。』など、2.5次元の俳優たちと旅する番組などを担当してテレ東に転職してきていたので、彼らの魅力も理解していたつもりですし、一緒に仕事をしていくことにもなじみがありました。

――こんなに長期シリーズ化するというのは、予想されていたんですか?

結果として長期シリーズになったから胸を張って言えるんですが、シリーズ当初から『サザエさん』とか『こち亀』みたいに長期作品になっていったら面白いねという話をしていました。ドラマの1クールだと12話~13話で終わりですが、ある種バラエティやアニメみたいに末長く楽しんでいただける作品にしたい、という目論見はありました。

――テレ東さんには『ウレロ☆』シリーズなどもありますし、こういった形式も得意なのかなというイメージがあります。あとはぶっちゃけ撮影コストも通常のドラマよりかからないで面白いものができるのかな? と思っていたのですが、正直な思惑としてはいかがですか?

もちろん、テレビ東京には潤沢な予算がないので、ロケや撮影日数などのコストがあまりかからないというところは、正直ありがたいです(笑)。でも実際は、スケジュールの問題が大きいです。通常のドラマの撮影は長くて3カ月くらいかかります。『サクセス荘』に出演しているキャストは常に舞台で忙しいので、このメンバーで通常のドラマ撮影ができる日を考えると、何年後だ!? ということになってしまう。なので、舞台で鍛えられている彼らならではの「本番一発撮り」がスタイルとしてもマッチしていたのだなと、改めて思います。

――例えば、スケジュールが許せばここで一緒にやったメンバーをほかのドラマにキャスティングしたいとか、そういう話になってきたりもするのでしょうか?

僕自身は違う作品のご縁があったらいいなと思っています。例えば最近だと小西くんも『じゃない方の彼女』のスピンオフドラマ『じゃないの夜 ~恋は突然、生まれない。~』に出演してもらっていましたし、局内でどういう人が良いかなと尋ねられたら、推薦と言ったらおかしいかもしれませんが、「こういう俳優さん、いますよ」といったお話もできます。『サクセス荘』があることできっかけが増えていったら嬉しく、それぞれが個性のある俳優さんなので、ドラマの内容に合う方だったらぜひ出ていただきたいです。他局の企画でも「サクセス荘を見て起用しました」という話も聞きますし、そういうきっかけにもなってくれたら嬉しいです。他局への出演は全然「悔しい」とは思わないです(笑)

■最初は「特殊な世界なのかな」と思っていた

――「本番一発撮り」という形式のまま映画化にいたるというのは、なかなか例がないようにも思います。

局内に映画を担当しているチームもあるので、ドラマから映画というのは部署的には違和感なかったです。意気込んで映画化したというより、松田さんももとから映画の話をしていたり、どんどん仕掛けていきたいと思っていたので、その姿勢の中で生まれてきた企画という感覚です。ここまでドラマシリーズを重ねられたことも大きかったと思います。

――2021年末から2022年にかけては、2.5次元の映画の公開が続いていて、盛り上がっているのかなという感じもあります。

そうなんですよね。僕らも1作品を送り出しているだけなので、ムーブメントを起こしたいと目論んでいるわけではないんですけど、こうやって公開のタイミングが重なっているのはいいことで、注目が集まり、知ってもらえる機会が増えるんじゃないかと期待しています。

――実際にテレビプロデューサーとしてはどういう風に見られているのでしょうか? 「テレ東の中では新鮮だった」というお話でしたが、遠い存在だったというような感覚はあるんですか?

僕自身もやっぱり最初は「特殊な世界なのかな」と思っていたところがあって、でも仕事の中で彼らと触れていると、当たり前なんですけどそれぞれが個性を持ったいち俳優であるということがよくわかります。ジャンルとして発展するのは良いことでもあるし、フィルターをかけられることでもあると思うんです。もしそれで距離が遠いと感じてしまう人がいれば、それはもったいないことなのではないか、と。もしまだ「2.5次元とは?」というスタートの人がいらっしゃったら、一度『サクセス荘』に触れていただけると嬉しいです。

――プロデューサーから見ての彼らの魅力はどういうところにあると思いますか?

やっぱり、めちゃくちゃ集中力があると思います。ほかの役者さんがないわけではないんですけど、この作品は本番一発撮りの上に、申し訳ないことに1週間前に脚本が送られる、ということもあったりするので……そこからセリフを覚えて演技プランを練って、撮影当日に立ち位置を覚えて本番と考えると、とてつもないですね。しかも1日に何本も撮影して、映画に関しては95分間。よく「本当に1回しか撮ってないんですか?」と聞かれるけど、本当に1回しか撮ってません。なかなか通常のドラマ撮影にないものだと思いますし、本当に毎回ドキュメンタリーを撮っている気分になります。

あとはこれまでの撮影も重ねているし、皆さん他の舞台でも共演する機会が多いだろうから、チームワークがすごいと思いながら見ています。そこがこの作品の魅力でもあるんだろうなと思っていて、たとえばみんながみんな仕切っていたら、回らなかったりするんです。誰がどれの役まわりになるかという関係性を、それぞれが理解して演じていただいているのがすごく大きいなと思います。

――そのチームワークに今回、映画版で4人がゲストとして登場しますが、どういう意図でキャスティングされたんですか?

映画ではドラマのメンバーが総出演するので、そこに負けないゲストは誰だろうという話になりました。敵として対立構造を取ってもらうので、経験値も含めてそこのバランスを担っていただける方にお願いをしました。ゲストで来るということは、初めての本番一発撮りで、しかも95分。その相談ができるだけの経験をされている方という点が大きかったですし、オファーに関してはやはり企画・プロデュースの松田さんのお力が大きいです。

――ちなみに、松田さんと一緒にお仕事して「すごいな」と思うのはどんなところでしょうか?

僕は『サクセス荘』からのご縁なんですが、常に工夫を忘れない方だということです。全てのことに「こうしたらもっと面白くなるんじゃないか」という発想を持たれているのが、エンターテイナーだなと思います。もちろん僕らもそういう気持ちで一つ一つの作品に本気で向き合っているんですが、忙しくなってくると「面白いからこれでいいか」と終わってしまいそうになることもある。でも『サクセス荘』を通じて、そんな時に「まだ1つ先があるんじゃないかな」といったことは考えるようになりました。

――最後に、映画だからこそ注目してほしいというところがあれば。

ドラマの時は些細な日常から起こる話を紡いでいましたが、映画はセットが2つあり、脚本のスケールも大きな話になっています。95分間の彼らがつないでいったチームワークなどがより濃く出ているので注目していただければ!と言いつつ、ふだんの雰囲気もあるので力を入れずに楽しんでいただきたいです。

■漆間宏一プロデューサー
2019年テレビ東京入社。担当した番組に『猫』『捨ててよ、安達さん。』(20年)、『東京放置食堂』『八月は夜のバッティングセンターで。』(21年)など。

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