レクサスは2035年までにすべての新車販売を電気自動車(EV)にすると宣言した。時代の流れもあるから、それはわかる。ただ、レクサスのガソリンエンジン搭載モデルは、やっぱり楽しい。 新型「NX」の2.4L直列4気筒ターボエンジンと2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに試乗して、そんなことをしみじみと思った。
走りを楽しむなら「350F」
「NX350“F SPORT”」が搭載するパワートレインは最高出力279PS/6,000rpm、最大トルク430Nm/1,700~3,600rpmの2.4L直列4気筒ターボエンジン。高効率のツインスクロールターボ、センター直噴システム、モーター制御の可変冷却システムなどを取り入れた新開発のエンジンで、初代の2.0Lターボに比べると、走りの方向にさらに大きく踏み出したということができそうだ。
トランスミッションはダイレクトシフトの8速AT。駆動方式はレクサス初の電子制御式フルタイムAWDだ。トルクの前後配分はプロペラシャフトを通じ、75:25~50:50の幅で制御する。常に後輪も駆動するので、車速や車体の向きに関係なく姿勢が安定する。ここには「GRヤリス」の開発で培った四輪駆動の知見がいかされているとのこと。ワインディングを駆け抜ける際には、コーナー手前でブレーキング、ステアリングを切ってフロント荷重で車体の向きを変え、エイペックスを過ぎてアクセルオン、後輪が車体の蹴り出しを行いつつ僅かなオーバーステア気味で出口へ、さらにアクセルを踏んで加速、という一連の流れがスムーズかつ見事に決まる。
試乗車はスポーティーバージョンの「Fスポーツ」で、ボディ前後にパフォーマンスダンパーを装着し、サスペンションに減衰力可変のショックアブソーバーを採用していた。350のFスポーツは、ボディの下回りに専用の補強が施されているとのこと。ついでにいうと、ハブベアリングとホイールの締結が、従来のスタッドボルトとハブナットを使って締める方法から、シンプルな球面型のハブボルトによる締結構造に変わったことで、その部分の剛性感もアップしている。
筆者がふだん乗っているメルセデス・ベンツ「W124」などの欧州車は、古くからこの構造を採用しているクルマが多い。剛性というポイントを煮詰めた結果、たどり着いた方法なのだろう。ハブボルト方式はユーザーが自分でタイヤ交換を行う時には少し面倒な作業になるのだが、パンクの確率が低いランフラットタイヤを装着することで、そのあたりを補っているのだろう。
トヨタ製の2.4Lターボエンジンは、高回転まで回しても“快音”は発してくれないけれど、適度な擬音が加えられていてまずまずのサウンドを聴かせてくれる。ドライブモードダイヤルには「スポーツ」の上に「スポーツ+」が用意されていて、音量はこちらの方が顕著になる。足も少し硬くなり、ノーズの向きの変わり方がスポーツカーとまではいかないものの、ほどよく機敏になる。レクサスのいう「すっきりと奥深い」走りは、Fスポーツのこのモードで乗るとよくわかる気がする。無音の電動車では決して味わうことのできない、エンジン音の上下に連動したドライビングのリズム感などが堪能できて、走るのが楽しくなってくるのだ。スポーツ度という尺度で考えると、350Fが一番だ。
エントリーグレード「250」も走りは軽快
試乗した「250」は、グラファイトブラックガラスフレークの炭素のような漆黒と金属の質感を混ぜ合わせたカラーのボディに、ブラックレザーの内装を組み合わせた相当にシックなクルマだった。エントリーグレードとはいえ「バージョンL」の豪華仕様だったので、14インチのタッチディスプレーやヘッドアップディスプレイ(HUD)など、上級グレード同様の装備を備えていたので見劣りすることはなかった。
パワートレインは最高出力201PS/6,600rpm、最大トルク241Nm/4,400rpmの自然吸気2.5L直列4気筒エンジン。他の3モデルがハイオク仕様だったのに対し、こちらは無鉛レギュラーガソリンを使用する経済的なタイプだ。8速ATを介してフロントタイヤを駆動する。
その走りは、自然吸気エンジンらしくアクセルの踏み加減にエンジン回転が正確に反応するので気持ちがいい。車重がターボモデルより100kg以上軽いので、トルクフルとまではいえないけれど、8速ATが絶えず適切なギアを選択し、エンジンの美味しいところをキープし続ける、というものだ。シンプルな構成ながらも、静粛性や乗り心地といった上質感はしっかり残されている。エンジンがもう少しすっきりした音色を奏でてくれると、さらに気持ちよくなれそうだ。
使える新機能「プロアクティブドライビングアシスト」
新型NXには数々の新機能が盛り込まれているのだが、安全運転支援面で筆者が気になったのは「プロアクティブドライビングアシスト」(PDA)だ。試乗前のインストラクションで、「この機能は一般道を走る際に使えますけど、作動が気になる方もいらっしゃると思うので、設定はオフになっています」といわれたので、余計に気になっていた。
PDAは歩行者、自転車、駐車車両に対する減速支援のほか、先行車とカーブに対して減速の支援を自動で行うシステムだ。今回の試乗では山道を下る際、前方を制限速度以下で走る大型のダンプカーがいたので、PDAを作動させてみた。するとNXは、設定した車間に達すると、エンジンやモーターの出力を絞り、それでも足りない時はブレーキを摘んで、車速を自動的に前のクルマに合わせてくれたのだ。そのとき、HUDでは車間を示していた部分が「クルマ」のマークに切り替わり、システムが作動したことを知らせてくれる。長い下り坂の最中に、ブレーキを踏むことなく追従運転を続けてくれるのはまことに楽ちんで、「これは使えるな」と確信した次第だ。名称がもっとシンプルだとわかりやすいのに、とも思ったけれど。
丸1日の試乗を終えて思ったのは、NXであれば、4つあるパワートレインのどれを選んでも間違いないということ。455万円~738万円という価格は、同クラスの欧州プレミアムSUVより有利な設定だ。まだまだ書ききれないほどの新システムを満載した新型NXは、次世代レクサスが目指す未来を見据えたクルマに仕上がっていた。