お笑い芸人・志村けんさんの半生を描くフジテレビ系スペシャルドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』(27日21:00~)。劇中には『ドリフ大爆笑』の様々なコントシーンが登場するが、そのセットの再現に尽力したのが、アートコーディネーターの平山雄大氏(フジアール)だ。
2009年から『志村けんのバカ殿様』『志村けんのだいじょうぶだぁ』、そして深夜の志村さん冠コント番組シリーズを担当してきた同氏。間近で見た、志村さんのコントへのこだわり、そしてその技術継承への思いを語ってくれた――。
■「直したセットを来週もう1回建ててほしい」
志村さんはコントの収録が始まる前に、必ずセットを1周していたという。自分のイメージしているものがちゃんとできているのかをチェックするためだそうで、平山氏は「その時はめちゃくちゃ緊張します」と振り返る。
「こだわりが強いので、良いときは何もおっしゃらないのですが、違うというところがあると、ギリギリまで直していました。『バカ殿』では一度、収録しなかったこともあります。志村さんが『これじゃダメだから、直したセットを来週もう1回建ててほしい』と言われ、あれは本当に心臓が止まるかと思いました。怒らずに淡々とおっしゃるんです」
仕掛けものも、本番前に確認できるものは全部チェックしていたそう。「変なおじさんがコタツを背負って出てくるというのがあったんですが、『コタツのサイズが小さいな』と言われて、何回も直した記憶があります。ちょっとしたサイズの違いとかには、特に厳しかったかもしれないですね」。
時には、タライを落とすという大役を務めたことも。これも緊張感のある仕事の1つで、「リハーサルがないので、一発勝負なんです。しかも一応合図は出るのですが、結局は自分の判断で落とさなければならない。でも、私は勘が良い方ではなくて…。それでタイミングがずれて失敗しても、よっぽどの大失敗じゃない限り、やり直さないんです。それがそのまま放送されてしまうので、ものすごく緊張しましたね」と、大きなプレッシャーを背負っていた。
■別番組で見せた雰囲気の違いに驚き
それだけに、収録のスタジオは「決して明るい撮影現場ではなかったですね(笑)。志村さんの考えていることがその通りにできるのかを最重視するので、こちらも笑うまでの余裕がないんです。だから、笑い声が響くという感じでは全然なかった。特に、志村さんがスタジオに入ってからは、張り詰めた空気が流れていました」と、画面で見える世界からは想像のつかない雰囲気だったそうだ。
そこまで厳しい姿勢でコントに臨むのは、「自分が笑わせることに対して、プレッシャーを感じていたからではないか」と、長年の関係者は語る。多くの芸人が、キャリアの途中でテレビのコント番組から離れる中、亡くなるその時までレギュラー番組が途切れることなくコントを作り続けていたのだから、その心労は計り知れない。
平山氏は、2019年から『芸能人格付けチェック』(ABCテレビ)も担当しているが、この番組にゲストで来た志村さんに会うと、「コントの収録のときと全然違うんです! あんな笑顔、それまで見たことなかったですよ(笑)。こちらが挨拶したら、優しく微笑みかけてくれて、ちょっとうれしかったですね」と、あまりの雰囲気の違いに驚いたことを振り返った。