スポーツバイク「YZF-R1M」をはじめ、多くのバイクを手掛けるヤマハ発動機。ある日公式のInstagramに投稿した画像が話題を呼びました。
「『マフラー』な『マフラー』できました~!」と添えられたコメントとともに投稿されたのが、こちら。
バイクの排気を浄化し、排気音を抑えるパーツ「マフラー」のようですが、緻密に編まれた柄や、暖かく柔らかそうな質感は、首に巻く「マフラー」そのもの。なんと同社のバイク「YZF-R1M」のマフラーをモチーフにしたあみぐるみ製のマフラーだそう。
なぜバイクを手掛けるヤマハ発動機が手芸作品を投稿するのでしょうか。ヤマハ発動機 ブランドマーケティング部の三宅英典さんに話を伺いました。
かっこいいバイクがカワイイ手芸作品に!?
――今回のマフラーだけでなく、2021年の春に投稿された羊毛フェルトの「YZF-R1Mマスク」など、ヤマハ発動機のアカウントではたびたび手芸作品が話題になっています。ユーザーの方からの反応はいかがですか?
手芸作品は2018年から投稿しており、Instagramの投稿に寄せられたいいねの数やコメントを見ても好意的な内容が多いように感じます。ヤマハのSNSを担当する社員も、最初の頃は「何ですかそれ?」という反応だったのですが、最近は「待ってました!」という感じで受け止めてくれています(笑)。
――バイクのヤマハと手芸、かなり意外な組み合わせです。投稿を企画したきっかけは?
私たちヤマハ発動機のWebサイトを訪れる方のプロフィールを見ると、9割が男性なんです。最近は女性の方も増えていますが、それでも圧倒的に男性が多い状況です。そのようななか、「『ヤマハ発動機』の名前をより多くの人に知ってもらい、良い印象を持ってもらうにはどうすればよいか」という課題がありました。
――より多くの人にアプローチするための手段が「手芸」だったんですね。
料理や写真など"趣味"に関連した内容は好意的に見てくれる内容が多いと感じ、趣味に関連する情報を発信しようとリサーチしました。その時に「手芸」というテーマが挙がったのです。
総務省の調べによると、国内の手芸人口(1年間で1回でも手芸をしたことをある人)は約1200万人、そのうち95%が女性と言われています。手芸に関連するコンテンツを発信することで、これまで「ヤマハ発動機」を知らなかった女性層にもアプローチができるのではないかと考えたのがきっかけです。
――手芸には様々な楽しみ方がありますが、なぜ「あみぐるみ」「羊毛フェルト」を選んだのでしょうか?
ヤマハ発動機は、バイクやマリンスポーツ製品などを取り扱っています。それらの製品を立体物として作って手に取って愛でてほしいと思い、立体物が作れるあみぐるみや羊毛フェルトの作品を企画・投稿しています。
また猫や犬といった可愛らしいあみぐるみはSNSでよく見かけますが、弊社がやっても二番煎じになってしまう。差別化したいという思いもあり、自社製品をモチーフにした作品を手掛けるようになりました。
「YZF-R1Mマフラー」のこだわりは?
――いずれも本格的な作品です。企画から投稿まではどんな流れで作られているのでしょうか。
まず「こんなモチーフで作りたいな」とアイデアを出して、制作協力や監修を依頼している日本あみぐるみ協会さんや日本羊毛フェルト協会さんに相談します。「YZF-R1Mマスク」はコロナ禍の2021年春に発表しましたが、実際は1年半ほど前から考えていました。羊毛フェルト作家の方がInstagramで「羊毛フェルトで動物のマスクを作った」と投稿されていたのを見て、インスピレーションを受けました。
そこから作家の方との打ち合わせを通してブラッシュアップし、試作品を作る流れです。先方もプロなので、「できない」とは言わずアイデアを具現化してくださるんですよね。
――担当される手芸作家の方も、バイクがお好きな方々なのでしょうか……?
いえ、詳しい方とは限りません。写真を見てもらっただけではわかりづらいのですが、細かな部分まで再現してもらいたく「YZF-R1Mマスク」と「YZF-R1Mマフラー」の制作を依頼する際は1/12サイズの「YZF-R1M」プラモデルを渡して作ってもらいました。中途半端なものはどこにも受け入れられないので、やるならとことん面白く、リアルに作りたいと考えています。
――「YZF-R1Mマフラー」こだわった部分は?
「YZF-R1Mマフラー」の特徴的なポイントは、4本のエキゾーストパイプです。エンジンから、マフラーの先端にあるサイレンサーをつなぐ部分ですね。
――先端に行くにつれて、ベージュから焦げ茶がかったグラデーションになっていておしゃれですね、
こちらは実際の「YZF-R1M」のマフラーです。エキゾーストパイプの先端はエンジンに繋がっており、熱い排気を受ける影響で色が変わります。これをマフラーでも再現してもらいました。
――バイクを知っている方なら思わずニヤリとしてしまう色合いなんですね。
他にも、サイレンサーの部分では実際のバイクと同様に先端が斜めになっていたり、サイレンサーパイプが少し飛び出していたりとこだわっています。またチャンバーの部分は作家の方からのアイデアで、小物が収納できるポケットがついているので実用性もバッチリです。
――こだわりが詰まったマフラー、苦労された点はありますか?
リアルに作りたいという思いはありますが、手芸なのでどうしてもデフォルメが必要な場合もあります。どこまで作り込んで、どこを省略するかは難しいですね。
また「凄いね」で終わらず、ユーザーの方が作って手に取ってもらえるよう編み図や使用する材料の紹介もしています。制作を依頼する際は、難しさと作りやすさのバランスも考えてもらいます。
――マスクやマフラーなど意外性のある作品ばかりですが、今後はどのような展開をされる予定でしょうか。
「フロントマスクのマスク」「マフラーのマフラー」といったダジャレのシリーズは今後未定です(笑)。ただユーザーにWebサイトに来てもらい、知ってもらうためのコンテンツなので、鮮度を保てるよう定期的でも不定期でも新しい作品を追加していきたいと考えています。
なお、ヤマハ発動機Webサイトの「あみぐるみ・羊毛フェルト」のコンテンツでは、作り方動画での解説も掲載しています。サイズ感や編むときの順番など、チャレンジする際はぜひ参考にしてください。