瀬尾まいこ氏による小説の実写映画『そして、バトンは渡された』が29日より公開される。血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も苗字が変わった森宮優子(永野芽郁)&義理の父親・森宮さん(田中圭)、そして夫を何度も変えて自由奔放に生きる魔性の女・梨花(石原さとみ)&泣き虫な義理の娘のみぃたん(稲垣来泉)と、2つの血のつながらない家族のある秘密を描く同作は、公開前から話題を呼んでいる。
今回は、親子役となった石原&稲垣にインタビュー。石原は自身初の母親役で、娘のみぃたんに愛を注ぎつつ魔性の女としての一面も持つ女性に。そしてNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(16年)や『アンナチュラル』(18年)、『糸』(20年)など立て続けにヒット作に出演し天才子役として注目されている稲垣は「泣き虫」というキャラクター通り色々な感情で泣くシーンにも挑んだ。仲の良い2人の撮影の裏側や、石原から稲垣へのアドバイスなど、話を聞いた。
■撮影も絶対大丈夫だと確信
――今回親子役となりましたが、お互いの印象はいかがでしたか?
石原:(本作でみぃたんの実の父親・水戸さんを演じた)大森南朋さんと監督と4人で台本の読み合わせをしたのが最初で、その時は声が印象的だなと思いました。そこからクランクイン前に2人でコミュニケーションをとる時間を持たせてもらって、「ずっと笑ってるなあ」「ああ、この子が笑えば世の中、全員笑うんじゃないかな」と思うくらいハッピーな子だったので、これからの撮影も絶対大丈夫だと確信を持ちました。
稲垣:ホン読みの時には「パパはパパだな」って思った(笑)。オーラがパパだった。
石原:大森さんでしょう? もう役が出来上がってた。
稲垣:ヒゲが生えてて、撮影の時には剃ってたかなあ?
石原:よく覚えてるね!
稲垣:ヒゲを剃ったら、もっと、ぶわん!! ってパパオーラが……。
石原:増えてた! わかる(笑)
――逆に、石原さんのママ感は出てましたか?
稲垣:出てた! すごかった。
石原:本当に!? 嬉しい。でもやっぱり、血の繋がらない親子という設定だから、フラットな感じはありました。最初から1人の女の子として見られる感じがして、それは私が来泉ちゃんに対して抱く印象とリンクしていました。最初の出会いから順番に撮ってくれたので、すごくありがたいスケジュールでした。
稲垣:親子になろうと思ってやっていたわけじゃなくて、撮影していない時間と撮影してる時が同じ感覚で。1回だけ、さとみちゃんに「好きな男の子いるの?」と聞かれたのは覚えてる。で、「いないなあ」と言ったら「嘘でしょ~!?」って言われた。
2人:(爆笑)
稲垣:あと、なぞなぞクイズもして。
石原:面白かったなあ。けっこう難しくて、私たちは答えがわかっても大森さんがわからなくて(笑)。特別な意識をせずに、ずっとしゃべってずっとコミュニケーションをとっていました。
――今回石原さんの演じた梨花さんはちょっと奔放で自由な感じだったと思うんですけど、そういうお母さんはどうですか?
稲垣:作中で、梨花さんがいっぱいみぃたんや梨花さん自身の高いお洋服を買ってくるシーンがあって、その時にみぃたんが「そんなに買っていいの? うち、お米ないよ」と言うんです。そしたら梨花さんがパンの耳を無料でもらってきて、工夫しておいしくしてくれて。本当にみぃたんのことが好きなんだなあというのがわかるから、 嬉しいと思います。
石原:愛が伝わってよかった。でも「お米ないよ」って、ちゃんとつっこんでくれるんだよね(笑)
稲垣:お米は食べたい(笑)
■「アドバイスできるような大人」になりたい
――稲垣さんが今10歳とのことですが、石原さんは自分の10歳の頃を思い返してみて、違いなどは感じましたか?
石原:自分は、子供の時にあまり大人と触れ合うことがなかったなと思います。親に友達が多いので、親の友達が家に来て抱っこしてもらうようなことはありましたけど、話したり遊んだりということがなかったので、くるみんはどういう大人になっていくんだろう? 私が通ってない道を進んでいくんだろうな。誰とでもコミュニケーションが取れる子になりそう。
――稲垣さんは、お仕事で大人の人と接するのは楽しいですか?
稲垣:楽しいです。もともとお話するのが好きだから、空き時間とかもすっごいしゃべって……。
石原:声、枯れてたもんね(笑)
稲垣:撮影中に変な声になって、しゃっくりをずっと我慢してて、台詞を忘れたことが1回あった気がする(笑)
――「こういう大人になりたいな」と思うことはありますか?
稲垣:8歳くらいの時だったかな、ある役者さんが「悲しいとか嬉しいとか、学校で感じた感情が色々あると思うけど、その感情が演技にもつながってくるから」と言ってくださって、そういうことを言えるような役者さんになりたい。
石原:アドバイスできるような大人だね。自分が気づいたことを、忘れないように持っておくといいかも。
――ちなみに、石原さんからのアドバイスは何かありますか…?
石原:なんだろう……「楽しい気もするけど、そこまで楽しくない」みたいな中間の感情が、実はあると思うんです。笑顔って1つじゃないから、そういう時の自分の笑顔も、動画や写真などで客観視したら、お芝居に活かせるんだろうなと思います。「ダメな笑顔」を再現しなきゃいけない時もたくさんあるから。今は自撮り社会なので、好きな写真、好きな顔が固定されちゃうと、もったいないなあという気持ちはあるかもしれません。
――今作で優子(永野芽郁)が最初浮かべていた笑顔にも近いものがありますね。
石原:凝り固まった笑顔がちゃんと笑えるようになる瞬間が表現できたり、笑顔の幅があるとすごく素敵で、今回の芽郁ちゃんを見ていても思いました。私は1回、マネージャーさんに雑誌の撮影でOKの写真とNGの写真を見比べさせてもらったことがあって。「これが女性向けで、これが男性向け」とか、「これは我が出ていて、これは出ていない」とか。それを見た時に自分の表情の幅や、NGになる時の理由がはっきりとわかりました。どうすればダメな表情を少なくできるかも、逆にダメな表情の表現の仕方もわかったので、知ることは大事だなと思いました。
――めちゃくちゃ深いアドバイスですね。稲垣さんは、この作品ではどういう表現をしたことが印象に残っていますか?
稲垣:この作品で頑張ったのは、みぃたんが泣くシーンです。すっごく多くて、それが「悲しい」とか「いやだな」とか、全部違う感情でした。見てる人たちにどう伝わるのか、前田監督が細かく教えてくださったので、やりやすかったけど、頑張りました。
石原:みぃたんが泣くシーンが多すぎて! 実際の撮影では、作中の何十倍も泣いてるということを伝えたい!(笑)
――泣くシーンでは、学校での感情を思い出したりしたんですか?
稲垣:学校では、あまり泣いたことはないかも……みぃたんに少しでも近づけるように、観に来てくれてる人が「みぃたんだな」と思ってくれるように、この涙は「友達と離れるのがいやだな」とか、この涙は「前の家に戻りたいな」とか、みぃたんそのものになりました。みぃたんの感情での涙でした。
石原:本当に、嘘がなかった。これは前田監督のおかげだと思います。私に対してもそうですけど、ちゃんと嘘がないように、役者に対して感情の準備をしてくださった。しかも諦めずに何度も繰り返して下さったので、作品にも表れています。観ている方も、嬉しい涙、悔しい涙、色んな種類の涙を受け取ってもらって、最後には温かい涙を流してもらえたらと思います。
■石原さとみ
1986年12月24日生まれ、東京都出身。『わたしのグランパ』(03年)でデビューし、同作で第27回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『てるてる家族』(03年)で、第41回ゴールデン・アロー賞放送新人賞、最優秀新人賞を受賞。『シン・ゴジラ』(16年)、『忍びの国』(17年)、『決算 忠臣蔵』(19年)などに出演。
■稲垣来泉
2011年1月5日生まれ。キッズファッション雑誌のモデルとして活躍するほか、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(16年)をはじめ、『アンナチュラル』『この世界の片隅に』(18年)など子役としてTVドラマを中心に出演。さらに、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19年)、『記憶屋 あなたを忘れない』『糸』(20年)などにも出演。