「労災保険」という言葉は社会人であれば誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。

しかし、「一人親方労災保険」という言葉を聞いたことはありますか? そもそも「一人親方」とはどのような人のことを指すものなのでしょうか。

本記事では、「一人親方労災保険」について、その役割や保険料としてかかる金額の求め方、補償内容などについてくわしくご紹介します。

  • 「一人親方労災保険」とは

    「一人親方労災保険」について紹介します

一人親方労災保険とは?

「一人親方労災保険」の「一人親方」とは、従業員を雇わずに、個人で仕事を請け負っている自営業者のことをいいます。主に建築業において多く見られる形態で、会社員などとは異なり、「労働者」ではなく、いち「事業主」としての扱いになります。

そのため、従来は労働者を対象として作られた労災保険には加入できず、職場でなにか労働災害が発生したとしても、元請け企業からの労災保険の適用が受けられない状況でした。

しかし、「事業主」という肩書きであっても、実態は「労働者」に極めて近いことから、「事業主」も労災保険に入れるようにするべきだ、と「一人親方」であっても労災保険に特別に加入できるようにと作られたのが「一人親方労災保険特別加入制度」、通称「一人親方労災保険」です。

そもそも「一人親方」とは?

「一人親方」とは、建設業をはじめとする個人事業などで、従業員を一切雇わずに、自身や家族などだけで仕事を請け負っている自営業者、または、年間100日未満の労働者を使用している事業者のことをいいます。

「一人親方」の範囲としては、以下のような事業者などが挙げられます。

・個人タクシーや個人の貨物運送業など、自動車を利用して行う旅客事業や自動車、自転車を利用して行う貨物の運送事業

・左官や大工、とび職人など、土木や建設などの工作物の建設、改造、修理、破壊、原状回復などを行う事業

・林業の事業

・医薬品の配置販売事業

・漁船による水産物の捕獲事業

・再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などを行う事業

そのほかにも、一人親方と同一に生計を立てている家族内の従事者(専従者)も「一人親方労災保険」の加入対象となっています。

また、2021年4月からは対象者の範囲が広がり、柔道整復師の事業を行っている人や高年齢者が新たに開始する事業や社会貢献事業を行う人も「一人親方労災保険」に加入できるようになっています。

  • 「一人親方労災保険」とは

    「一人親方」とは、従業員を雇わずに、個人で仕事を請け負っている自営業者のことです

一人親方労災保険にかかる金額

「一人親方」であれば、現場に入る際に一人親方労災保険に加入しているかどうかということは、万が一業務上で事故が起きたときの補償だけでなく、仕事の受注量にも関わってくる問題です。

「一人親方労災保険」は任意加入ですが、加入すると決めた場合に、果たしてどのくらいの費用が必要になるのかを「加入時の費用」、「保険料」、「年度更新費用」に分けてご紹介していきます。

ちなみに、「一人親方労災保険」の特別加入の手続きは、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体が行います。ここでは、労働局が承認している「一人親方団体労災センター」で加入した場合にかかるそれぞれの費用をみていきましょう。

加入時の費用

まずは、加入時にかかる費用です。「一人親方労災保険」への特別加入をする場合は、初年度の入会手続き費用として1,000円が必要となっています。

組合費

続いて組合費です。ここでいう組合費とは、「一人親方団体労災センター」の事務手数料のことを指します。毎月500円×加入月数分を支払うことになりますが、保険年度の途中から入会する場合は、年度内の残りの加入月数に応じて計算されます。

保険料

労災保険料に関しては、選択した給付基礎日額によって決まります。

給付基礎日額には3,500円~25,000円まで16段階あり、自分で選択するようになっています。たとえば、保険年度の初めである4月に入会し、給付基礎日額が3,500円だった場合は年間保険料が22,986円、給付基礎日額が10,000円だった場合は65,700円、最高の25,000円だった場合は164,250円となっています。

同様の給付基礎日額で、9月に入会した場合は、9月から3月末までの保険料を支払うことになるので、保険料はそれぞれ13,410円、38,322円、95,796円となっています。ちなみにこの給付基礎日額は、毎年4月に変更することが可能です。

年度更新費用

「一人親方団体労災センター」で「一人親方労災保険」に加入した場合は、年度更新手数料は一切かかりませんが、毎年3月の指定期日までに、次年度の労災保険料と組合費を納付する必要があります。

  • 「一人親方労災保険」の費用

    「一人親方労災保険」の費用をご紹介しました

保険加入時に健康診断が必要となるケース

以下で説明する「粉じん作業を行う業務」「振動工具を使用する業務」「鉛業務」「有機溶剤業務」などの業務をする「一人親方」に関しては、「一人親方労災保険」に加入する際に、健康診断が必要となることがあります。

粉じん作業を行う業務

「粉じん作業を行う業務」に通算で3年以上従事している方は、加入時に「じん肺健康診断」を受ける必要があります。くわしくは以下の作業をしている方が対象です。

・鉱物や土石、岩石などを掘削する場所で作業されている方

・鉱物や土石、岩石などの裁断や彫り、それらを仕上げする場所で作業を行っている方

・研磨剤を使用しながら鉱物や土石、岩石などを研磨したり、ばりをとったり、金属を裁断したりするよう場所で作業している方

・セメント・フライアッシュ、もしくは炭素原料や炭素製品、または粉末状の鉱石を乾燥させ、袋詰めにし、積み込みや積み降ろしを行うような場所で作業に当たっている方

振動工具を使用する業務

「振動工具を使用する業務」に通算で1年以上従事している方は、加入時に「振動障害健康診断」を受ける必要があります。「振動工具を使用する業務」に当てはまる方は、コーキングハンマー、エンジンカッター、チェーンソーやスィング研削盤などの振動工具を取り扱う業務を行っている方が対象です。

鉛業務

「鉛業務」に通算で6か月以上従事している方は、加入時に「鉛中毒健康診断」を受ける必要があります。「鉛業務」に当てはまる方は、以下の通りです。

・自然換気がうまくできない場所においてはんだ付けの業務を行っている方

・鉛化合物を含んでいる釉薬を使用して行なう施釉、もしくは施釉を行なった物の焼成の業務を行っている方

・鉛装置を砕いたり、溶接したり、切断したりする業務を行っている方

・合成樹脂またはゴムの製品、鉛を含んだ塗料もしくは鉛化合物を含む絵具、ガラス、農薬や接着剤などの製造工程において鉛などの溶融、砕石、ふるいわけや混合などの業務を行っている方

有機溶剤業務

「有機溶剤業務」に通算で6か月以上従事している方は、加入時に「有機溶剤中毒健康診断」を受ける必要があります。有機溶剤とは、主にN・N-ジメチルホルムアミド、トリクロルエチレンやテトラクロルエチレンなどのことをいいます。

  • 保険加入時に健康診断が必要となる場合

    業務内容によっては、「一人親方労災保険」の加入時に健康診断が必要となる場合があります

一人親方の労災保険給付の補償内容

一人親方で「労災保険」に特別加入している方が対象の保険給付についても、労働者の場合とほぼ同様に規定されており、業務上での怪我や事故、通勤をしている過程で傷病を被ったときに保険給付を行っています。

なお、労災保険には本体給付とは別に、ボーナス(賞与)などの3か月を超える期間ごとに支払われる賃金が給付額に反映される特別支給金があります。ボーナスのない特別加入者は、一般的な労災保険とは特別支給金の算出方法が異なりますので注意が必要です。

療養補償給付以外の給付に関しては、一人親方は労働者の場合とは異なり、給付基礎日額の基準となる平均賃金に相当する額というものがありません。その代わりに、法律によって給付基礎日額が定められており、その中から自分の収入に合うものを選んだ上で、得られる給付金額が決定されます。

  • 「一人親方の労災保険給付」の補償内容

    一人親方の保険給付については、労働者の場合とほぼ同様に決められています

一人親方労災保険は事業主の味方

労働者と実質同じような働き方をしている「一人親方」も、国によって労災保険への加入が認められています。「一人親方労災保険」に加入する場合は、業種によって健康診断が必要であったり、給付基礎日額が定められていたりと、労働者とは少し異なる部分があります。

自分の身は自分で守るということは大切なことです。「一人親方労災保険」への加入の有無が、直接売り上げに影響してしまう可能性もありますので、よく検討した上で加入しておくのがいいでしょう。