トヨタ自動車の本格的クロスカントリー4輪駆動(4WD)車である「ランドクルーザー」(通称:ランクル)が14年ぶりにフルモデルチェンジした。新たな型式は「300型」だ。グレードはガソリンエンジン搭載車が「GR SPORT」「ZX」「VX」「AX」「GX」の5種類(価格の高い順、510万円~770万円)、ディーゼルエンジン搭載車が「GR SPORT」「ZX」の2種類(800万円、760万円)。今回はディーゼルのZXに試乗した。
持ち味は継承、走行感覚は?
特徴的で迫力のある新型ランドクルーザーの顔つきは、待ち合わせ場所の100mほど手前からでも目についた。車体の大きさも相まって、ランドクルーザーにはたぐいまれなる存在感がある。折からのブームでSUVの種類は激増したが、ランクルは最も目立つ1台といえるのではないだろうか。乗っていると周りの人々から注目が集まり、視線を感じることもあった。
運転席に座って目につくのは、12.3インチの大画面だ。ここにナビゲーションの地図や空調の設定状況などが映し出される。その下には空調やシートヒーターなどの調節スイッチが並ぶ。いずれも、十分な視認性と操作性を備えたスイッチ類だ。基本操作を画面タッチ式ではなくスイッチとしているのは、世界のあらゆる地域で、未舗装路もいとわず走ることが求められるランクルらしいところだ。
新型ランクルで初採用となったのが、指紋認証式のイグニッションスイッチだ。世界での高い人気による盗難への懸念が背景にあるのだろう。
運転していて伝わってくる感覚に前型と大きく変わった印象はない。ランクルの安心感や信頼性は不変だ。近年のSUVは、舗装路での運転しやすさや快適性を重視する傾向があるが、ランクルは世界各地の道なき道で万全の走破性を発揮することが期待される車種である。新型の乗り味からは、路面の如何を問わずタイヤを的確に接地させるサスペンションの動きを感じた。
そうした乗り味からは、少しフワフワするような、ゆるい印象を受けるかもしれない。しかしそれこそが、砂漠も、岩場も、泥濘路もいとわず前進し続けられることの保証となる。
走行感覚としては、前型のレクサス仕様である「LX」に似ていることに気づいた。LXの基本構造はランクルそのものなのだが、より上質で、また都市部や高速道路での利用にも重点を置き、簡単にいえばやや硬めの乗り心地というか、落ち着きのある走りをする。そのため、サスペンションにも改良が施されている。ランクルの新型はLXのように、少しシャキッとしたような、舗装路での安定感を高めた印象がある。
そこには、電子制御による走行モードの効果もあるだろう。「ZX」グレードではエコ/コンフォート/ノーマル/スポーツS/スポーツS+/カスタムから走行モードを選べるが、普段の運転で安定性と快適性の調和を求めるならノーマルがいい。
コンフォートは、よりゆったりとやわらかな乗り味となる。スポーツSは高速道路を走行する際に落ち着きが高まった。エコはアクセル操作に対する出力の出方が少なめとなるが、いざ必要なときにはアクセルペダルを深く踏み込めば十分な加速が得られる。スポーツS+はやや硬すぎる印象があり、路面の影響を受けやすい。
ディーゼルエンジンモデルの魅力は
排気量が3.3LのV型6気筒ディーゼルツインターボエンジンは、最大トルクがガソリンエンジンより50Nm大きい700Nmもあり、わずかにアクセルペダルを踏み込んだだけで、2.5トン以上という巨体をものともせずに走らせる。これには約200kgという車両重量の軽量化も効果をもたらしているだろうが、低回転で最大の力を発揮するディーゼルエンジンならではのたくましさだ。
いかにもディーゼルエンジンだと思わせる振動や騒音は、車内にいる分にはほとんど意識させられない。室内は静粛性があって快適だ。10速という多段の自動変速機が組み合わされており、発進後の加速も滑らかである。ただ、低回転から負荷の高い状態(強い加速や登り坂など)でアクセルペダルを踏み込んだときは、ガラガラというディーゼル車特有の騒音が耳に届いた。
ちなみに、アクセルペダルを床まで踏みつけて全速力での加速を試すと、高回転域まで軽やかに回り、ガソリンエンジンを選ぶ必要性を感じさせないくらいに軽快だった。エンジン回転の限界をメーターで知らせるレッドゾーンを超えてもなお、回り続けそうなくらいだ。近年のディーゼルターボエンジンの進化は、驚くべき水準にある。
ディーゼルエンジンを搭載するZXの燃費は9.7km/L(WLTCモード)。ガソリンエンジンを積む「ZX」に比べると、燃費性能は1.7km/L以上も優れている。ガソリン車はプレミアムガソリン仕様(ハイオク仕様)なので、燃料価格も軽油なら1Lあたり30円ほど安く済む。この違いにより、給油の際にも穏やかな心持ちでいられる。
後席は座面と床との間に適度な差があって、きちんとした姿勢で座ることができた。腰を落ち着け、快適に過ごすことができるシートだ。だが、どの走行モードにおいても上下の揺れは大きめだった。
高速道路では運転支援機能も試した。
支援機能は今日のごく一般的な水準だったのだが、車線維持機能に関しては、車線の中央を維持する性能をもっと強めたほうが、安心感が高まるのではないかと思った。というのも、ランクルは車幅が2m近く(1.98m)あり、運転席からの眺めは常に車線幅ギリギリに感じるので、車線内にどっしり構えて走る様子を実感できた方が、大型トラックやバスなどと並走する際の安心感が高まるのではないか考えるからだ。
そのうえで、車線のどちらかに寄って走りたいとドライバーがハンドル操作した場合は、その位置で車線内を維持するような機能が使えると、交通状況に応じた車線維持が可能になり、運転者の意思が反映されるだろう。このような機能はプジョーなどがすでに実用化している。
2m近い車幅は、一般道でも緊張感をもたらした。ことに人通りの多い道で対向車とすれ違う場面では、歩行者の安全を確保しつつ対向車との間合いをとるため、車両の左右に神経を使った。とはいえ、ランクルを手に入れようとする人は、そうしたことは前提として受け入れているものと考えらえれる。
総括として、新型ランドクルーザー「ZX」のディーゼルターボ車は、従来に比べると走りはより安定し、クロスカントリー4WDとしての持ち味はそのままキープしつつ、そのうえで走行中の静粛性や快適性が高まっていた。アクセルペダルをそれほど深く踏み込まなくても十分な加速が得られるディーゼルターボ車は、車体の大きさも相まって、「そんなに慌ててもしょうがない」という気分にさせてくれる。ゆったりと移動を楽しむ心持ちとなり、優雅な気分も味わわせてくれた。
初代からすでに世界累計1,000万台以上の販売実績を持つランクルは、この先もさらに販売記録を更新していくのだろうとただ感心させられるのであった。