「彼女はおもむろに顔を上げた」など、「おもむろに」という言葉はしばしば使われる機会がある副詞です。人の動作を表す表現として使われることが多いことは知られていますが、誤用されやすい言葉でもあります。
そこでこの記事では、「おもむろに」の意味や使い方、類語・対義語・英語表現を紹介します。ビジネスシーンなどで誤用しないようこの機会に確認しておきましょう。
「おもむろに」の意味は
「おもむろに」は副詞で、「ゆっくりと落ち着いて行動する様子」を表す言葉です。挙動がゆったりとしていて、焦って行動したり急いで行動したりすることがなく、人がゆっくりと動き始める時に、修飾語としてよく使われます。
漢字で書くと「徐に」
「おもむろに」を漢字で書くと「徐に」ですが、読み方が難しいことから、平仮名で書かれることが多いです。
「徐」という漢字には、「おもむろ」「ゆっくりと」「緩やか」などの意味があります。例えば、「徐行する」とは車がゆっくり走行することを指す言葉です。このことからも「徐」は「ゆっくりと行動する様子」を表す漢字であることがわかります。
誤用しやすいので注意
「おもむろに」は「ゆっくりと」という意味ですが、間違って理解している人が多い言葉です。
文化庁が行った「国語に関する世論調査」の結果では、4割強の人が正しい意味で認識していましたが、4割の人が「不意に」「突然」などの意味だと思っていました。
そのため「おもむろに」を使う際は、間違った理解をされてしまう恐れがある言葉であることを覚えておきましょう。
「おもぶるに」と言われることもある
「おもむろに」は、古い表現では「おもぶるに」と言われることもあります。
しかし、「おもぶるに」は「重々しい」「思わせぶりに」などと音が似ていることから、「おもむろに」と同じように「不意に」と意味を勘違いされやすい言葉です。
「おもぶるに」も「おもむろに」と同様、誤用されやすい点に気を付けましょう。
「おもむろに」の使用例
「おもむろに」の誤った使い方を避けるためにも、具体的な使用例を確認しておきましょう。ここでは、「おもむろに」の使用例と誤用例を紹介します。
「おもむろに」の例文
・彼女は寝ているのかしばらく静かだったが、おもむろに話しかけてきた
・蒸気機関車はおもむろに走り始めた
・問いかけるとしばらく沈黙した後、おもむろに彼は話し始めた
・催促を続けていたら、彼はおもむろに原稿を鞄から取り出した
・彼女はおもむろに財布を開いて、1枚のカードを取り出し手渡した
「おもむろに」はゆっくりとした動作に対して使われる表現です。上記の例のように人がゆっくりと動く際に使うことを覚えておきましょう。
「おもむろに」の誤用例
・犯人はアイスピックをおもむろに彼女に突き立てた
・公園で遊んでいた子どもがおもむろに飛び出してきて、おもむろに車のブレーキをかけた
・彼はおもむろに大きな声で怒鳴り始めた
「おもむろに」は「ゆっくりと」という意味です。上記のような「突然に」という意味での使い方は誤りですので注意しましょう。
「おもむろに」の類語表現
「おもむろに」と似た意味を持つ表現がいくつかあるので覚えておきましょう。ここでは、「おもむろに」を言い換え可能な類語表現をいくつか紹介します。
ゆっくり
「ゆっくり」には「動作が遅い様子」という意味があります。「おもむろに」とほぼ同じような意味で使われており、「おもむろに」を「ゆっくり」や「ゆっくりと」などに言い換え可能です。
・彼女はおもむろに(ゆっくり)顔を上げた
やおら
「やおら」には、「ゆっくりと動作を始める様子」という意味があります。「やおら」は「おもむろに」と同様副詞で、同じような状況で使える表現です。
しかし、「やおら」は「急に」という意味で誤用されるケースもあります。相手が正しい意味で使っているのか、判断する際は注意しましょう。
・彼はしばらく座ったままだったが、何度か呼びかけるとおもむろに(やおら)立ち上がった
徐々に
「おもむろに」の漢字表記と同じ漢字が使われている「徐々に」には「少しずつ進化や変化する様子」という意味があります。
「おもむろに」とほぼ同じ意味ですが、社会の変化など人や物の動作以外にも使われる点が大きな違いです。
・彼はおもむろに(徐々に)立ち上がった
・時代が徐々に移り変わっている
緩やかに
「緩やかに」にはいくつか意味があり、「動きや勢いが激しくない様子」「ゆっくりとした様子」などがあります。「ゆっくりと落ち着いて行動する様子」を意味する「おもむろに」とは意味が共通しており、言い換えて使える言葉です。
・彼に問いかけるとしばらく沈黙した後、おもむろに(緩やかに)話し始めた
「おもむろに」の対義語
「おもむろに」の対義語を紹介します。対義語もあわせて覚えておきましょう。
にわかに
「にわかに」は、「突然に」という意味で、漢字で書くと「俄かに」です。
急に降り出してすぐに収まる雨を「にわか雨」ということからもわかるように、ゆっくりと落ち着いている様子を表す「おもむろに」とは真逆の意味があります。
やにわに
「やにわに」とは「いきなり」「その場ですぐ」などの意味がある副詞です。
漢字で書くと「矢庭に」で、「矢庭」とは「矢を射ている場所」を指します。そこから転じて「その場で、時間をかけずに一気に物ごとを行う様子」となり、「急に」という意味になりました。
「おもむろに」の英語表現
「おもむろに」は英語ではどのように言うのでしょうか。ここでは、「おもむろに」の代表的な英語表現を紹介します。
slowly
slowlyは、「ゆっくり」「遅く」などの意味がある副詞です。「おもむろに」の英語表現として使われることがあるので覚えておきましょう。
・My mother begin to talk slowly.(母はおもむろに話し始めた)
・He slowly read the newspaper.(彼はおもむろに新聞を読んだ)
gently
gentlyの意味は「穏やかに」「徐々に」などで、「おもむろに」の英語表現として使えます。
・She gently opened the lid of that box.(彼女はおもむろに箱のふたを開けた)
・She gently closed her eyes.(彼女はおもむろに目を閉じた)
「おもむろに」は誤用に注意して使いましょう
「おもむろに」は、漢字で書くと「徐に」です。「徐々に」という言葉と同じように、意味は「ゆっくりと動作を始める様子」を表しています。
「おもむろに」は文学作品などで使われる機会も多く、よく知られていますが、「突然に」という意味で誤用されやすい言葉です。間違った理解をしないよう、漢字もあわせて覚えておきましょう。