世の中には、社会的に大きな成果を挙げて成功を収め「一流」と呼ばれる人と、思うように成果を挙げられない人がいます。両者にあるちがいはもちろん様々ですが、一級建築士の八納啓創さんは、「住む家」が大きく関係するといいます。

  • 「住む部屋」を変えれば人生が変わる。一流の人にある共通点 /一級建築士・八納啓創

できれば、少しでも一流の人に近づきたいもの。一流の人が住む家にある共通点を教えてもらいました。

■「家が自分の人生にもたらす意味」への意識

どんな人を一流と呼ぶかという定義はさておき、わたしがこれまで実際に会ってきた一流の人、あるいはのちに一流になっていく人たちは、総じて「自分が住む家に対する意識が高い」という共通点があります。

その意識とは様々で、たとえば、大好きで強い愛着を持っているエリアや家に住むという意識もそうですし、あるいは「住む家が自分の人生にもたらす意味」に対する強い意識もそうです。

「住む家が自分の人生にもたらす意味」を強く意識している人のケースには、とても面白い例があります。その人は社会的に大きな成功を手にしたそれこそ一流の人ですが、学生時代にはいわゆる「四畳半風呂なしトイレ共同」という、とても一流とはいえないような部屋に住んでいたそうです。しかも、わざわざ意識的にそういう部屋に住んだといいます。

その理由は、「身をもって低収入の生活を知るため」だったそう。そういう物件の家賃は、東京なら3万円程度ですから、月収が10〜15万円もあれば十分に生活できます。そのことを実感しておけば、仮に人生でなんらかの大きな失敗をしたとしても、アルバイトでもなんでもして生きていくことができると思えます。だからこそ、若くして起業するといった思い切ったチャレンジができたというのです。

なかには、同じような発想を持って、若いときにあえて家なしの状態にして屋外で生活した人もいます。アルバイト生活どころか、「家がなくても人間は生きていけるんだ!」と実際の行動を通じて感じているのですから、その人は強いですよね。その強さがあるから、守りに入ることなくチャレンジができるのでしょう。

■残念な人のなかには、妥協と恐れがある

一方、一流の人とは異なり、成果を挙げられない残念な人ともいうべき人たちには、先の例とは対照的に守りに入っている面が見られます。

学生時代は、親からの仕送りの額に見合ったそれなりの部屋を選ぶことが多いと思います。学校を卒業して社会人になったときも、部屋のレベルを下げることを嫌がり、学生時代の部屋の家賃に少しだけ上乗せしたような家賃の部屋を選ぶことが多いようです。

その流れを見ると、慎ましく堅実に生きているようにも思えるかもしれませんが、現実はちがいます。「こういう堅実な生活がいい」とか「自分にはこの部屋が合っているし、この部屋が好きだ」といったふうに、住む部屋に対して積極的な意識やこだわりがなく、その代わりにあるのは妥協と恐れです。

「いまの給料で住めるのはこの程度の部屋だろう」というふうに妥協し、一方で、自身の生活レベルを下げることを極端に怖がっています。つまり、意識が家そのものに向いておらず、家賃などスペックにしか目が向いていないということ。これでは、「自分が住む家に対する意識が低い」といえます。

もちろん、そのように守りに入っていれば、先の「四畳半の人」たちのようなチャレンジ精神は育ちません。そうして、日々の仕事においても失敗を恐れてチャレンジできないため、大きな成果を挙げることもできないのだとわたしは考えています。

■一流の人は、自宅に対する意識が高い

話は「住まい」から少しそれますが、一流の人たちは、ただ食べるための仕事である「ライスワーク」ではなく、ライフワークを仕事にすることによろこびを見出しているようにも思います。わたしの考えるライフワークとは、場合によっては自分のなかの大切ななにかと引き換えにしてでもやり抜きたいことです。

仕事に対してそんな強い気持ちを持っているからこそ、多少のことではへこたれず、逆境にも打ち勝って一流へと昇り詰めていくのでしょう。

わたしが懇意にしてもらっている、アメリカ在住のある実業家もそんなひとりです。いま、その人は年商2億ドルを誇る大企業グループのトップですが、もちろんそこに至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。何度となく、破産しかけたといいます。

そんなとき、奥様がこういったそうです。「もし破産したら、会社をはじめたばかりのときのような小さな家に戻って一からやり直せばいいじゃない。わたしは全然平気よ」と。その言葉を胸に再スタートを切ったことで、いまの彼と会社があります。

だからこそその人は、「妻が気に入る好きな場所以外には絶対に住まない」と強くいいます。自身をつねにいちばん近くで支えてくれた奥様が気にいる家がベストであり、そうでない家は論外だというわけです。これもやはり、「自分が住む家に対する意識が高い」という一流の人の共通点を表している例でしょう。

■家を通じて自分が叶えたい夢を設定する

では、どうすればそんな一流の人に近づけるのでしょうか? わたしは、先にお伝えした「四畳半の人」のように、「住む家が自分の人生にもたらす意味」をしっかり考えることこそがいちばんだと考えます。

「四畳半の人」は、将来、どんと大きな勝負をするときに、恐れからチャレンジを避けるようなことにならないよう、夢をかなえるための下支えとして四畳半に住みました。それが、当時の彼にとっての「住む家が自分の人生にもたらす意味」です。

それと同じように、「自分の夢を叶えるためには、どんな家に住めばいいのか?」「その家に住むことが、自分の人生になにを与えてくれるのか?」というふうに自分自身に問いかけてみてください。そうすることで、自分が住むべきエリアや家というものが自然と見つかるように思います。

若い人のなかには、東京の六本木など家賃相場の高いエリアにある、それこそ四畳半のような狭いワンルームに住んでいる人もいます。そのエリアに住むからこそ得られるコネクションや日々の気づきというものもあるでしょうね。そのことが、自分の夢の実現に直結していると意識できているのであれば、どんなに狭くともその住まいはその人にとって大いに意味があるものです。

わたしの友人には、「作家になるんだ!」と意気込んで、大阪から鎌倉に引っ越した元予備校講師がいます。文豪の街としても知られる鎌倉の空気を吸って生活するなかで、その友人は本当に作家になってベストセラーを出しましたよ。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子