一気にスターダムに乗った『キッズ・リターン』での映画デビューから、25年となる安藤政信。今年は『ゾッキ』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』に続き、早くも3作目の出演作となる『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が公開中だ。

誰も殺さずに一般社会に溶け込んで生活するよう命じられた、岡田准一演じる最強の殺し屋“ファブル”が、巨悪との闘いに挑む映画版の第2弾で、安藤が演じるのは“凄腕の殺し屋”鈴木。バックグラウンドなどは描かれず、謎に包まれている鈴木だが、どこか憎めないキャラクターに仕上がった。

取材に現れた安藤は、ざっくばらんでとても気さく。岡田との共演に「ジャニーズだ、スターだ!」と普通に興奮したとか。また、本作のクランクインが新型コロナの影響で遅れた際には、改めて「自分は、役者で、クリエイティブなことが好きなんだ」と感じたと言い、役者業を含め、写真や新たに挑戦した監督業など、クリエイティブなことへの思いを意欲的に語った。

『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』に出演する安藤政信

安藤政信 撮影:望月ふみ

■鈴木には豊かなグラデーションを出せた

――キャラクター紹介では、凄腕の殺し屋となっている鈴木ですが、ファブルの敵として登場するのに、嫌いになれないキャラクターでした。

(江口)カン監督とは、「キレイでかっこいいといった単純な感じじゃなくて、チャーミングで人間臭い、殺し屋なのに人間臭いなんて変な気がするけれど、でもそれが成立するキャラクターにしたい」と話し合いました。負けを知って悔しさを味わったり、死を前に恐怖を知ったり、すごく豊かなグラデーションを出せたんじゃないかなと思います。

――クールじゃないのがすごくよかったです。

クランクアップしたときにも監督がメールをくれました。「今回、安藤さんの鈴木がとても素敵だった」と。編集作業のときにもそう言ってくれたんです。完成した作品を観て、ファブルのような派手さはないけれど、芝居として豊かな色は出せたのではないかと感じました。

――ファブルを演じた岡田さんは95年、安藤さんは96年と、ほぼ同時期にデビューしていますが、初共演ですね。

ジャニーズの人は、知り合いじゃなくても、毎日のようにどこかで目にしている。自然と自分の記憶のなかに入り込んでいるので、やっぱりすごいと思います。会う前からいつも近くにいる人というか、当たり前のように存在しているので、まさにスターだなと思いますよ。現場でも、スタッフとかも、「みんなが見てきた人がそこにいる!」みたいな感覚がありました。「スターだ!」みたいな。そう思いません?

――もちろん私にとって完全にスターです。でも安藤さんも長く芸能界で活躍されてきた俳優さんなわけで(苦笑)。

オレにとってもスターですよ。(堂本)剛に横浜アリーナに誘ってもらってKinKi Kidsのコンサートに行ったり、(櫻井)翔に誘われて東京ドームに行ったりもしましたが、あんな大きなステージでスポットライトを浴びている姿を見ると興奮しますよ。何万という観客を一体にさせてしまうわけですから。歌って踊って芝居もできる。常人じゃないです。

■20代の頃にニアミスの岡田と、40代になって初共演

――今回の岡田さんはファイトコレオグラファーという、アクションを振り付けるスタッフとしての仕事も兼任しているので、スター=俳優として現場で一緒になるのとはまた違ったのでは?

確かにアクション練習のときから、その場にいましたね。実は20代のときにニアミスしてるんです。

――ニアミス?

20代のころに剛とよく遊んでいて、当時住んでいたマンションに誘われたんです。それで部屋に行ったら、剛が「岡田~」と奥に声かけて。当時、一緒に住んでいたらしいんです。でもそのときは留守で、結局会えず。

――40代になってやっと会えたんですね。

そうなんです。最初に岡田がアクション指導をすると聞いたときは、「別に指導されたくない」とか思っていましたが、動きを直視した瞬間、「わかりました。よろしくお願いします。」となりました。岡田がここまで動けるなんて知らなかったんです。急いで前作を観て納得しました(笑)。

――そして指導も受けて。

舞台挨拶では“師匠”みたいに言いましたけど、単純に岡田から習いたいというのがホントです。岡田は本当に格闘技が好きだし、真摯に向き合っているんだなと感じましたね。

■役者が生業に。思い出した北野武の言葉

――今作の撮影は、新型コロナの影響でクランクインが遅れたそうですね。お芝居ができない状況に置かれたことで、改めて「自分は役者なんだ」と痛感したとコメントされているのを見ました。

去年のあの時期は、作品が中止や延期になり芝居ができない状況でした。役者であれば誰しも「自分たちの仕事はどうなっちゃうんだろう」と考えたと思います。やっぱりオレは芝居しかできないし、クリエイティブなことにしか興味がないと思ったし、再開したときには、現場に行って芝居をすることの喜びをすごく感じました。

――思っていた以上に役者の仕事が好きだと実感した?

好きだし、オレが生活できることって何なんだろうと考えると、やっぱり“表現”しかないんだなと。自分にとって芝居と監督と写真。クリエイティブにしか興味がないし、そのためにはお金がないとできないから、まずオレは役者なんだなって。

――『キッズ・リターン』から25年が経ちますが、去年は仕事に対しての意識が大きく変わった年だったのでしょうか?

去年の外出自粛期間明けは、芝居を本当に楽しいと感じました。でも人生が大きく切り替わったのは、プライベートが変化して、自分だけじゃなくて「食わせていく」という意識が出来たときだと思います。『キッズ・リターン』の撮影の終わりくらいのときに、(北野)武さんから、「20代は自分が好きな映画や作品だけを選んで、ブームで終わらないようにだけ考えていけばいいよ。そのあと、嫌でも働かなきゃいけない時期がくるかもしれないから」と言われたんです。当時は若かったから、あまりピンと来ていなかったんですけど、武さんが言っていたのはこのことなのかな、と感じた瞬間がありましたね。

――生業になった。

ドラマとか以前はやりたくないと思っていたけれど、それも変に考えが偏り過ぎていただけだということにもやっと気づきました(笑)。実際に携わってみると、映画と変わらないし、作ることにみんな真摯に向き合っていて、もっと寛容に早い時期に受け入れていてもよかったのかなと思いました。

■役者が一番だけど、写真も監督業もやっていきたい

――写真家としても活動されていて、ここ数年はプロとしてお仕事されてますね。

写真自体は20代のころからやっていたんですけど、ここ3年くらい、仕事としてきちんとやっています。今までドメスティックにやっていたものを、写真家としてもっと自信を持ってもいいよなと思って、雑誌の『GQ』とかに見せたら気に入ってもらえたんです。そこから雑誌やファッションショーでも撮っています。写真はとにかく好きなんです。岡田のアクションと同じように。それを仕事にしたいなと思うようになりました。

――監督業も。

山田孝之が立ち上げた、短編映画制作プロジェクトの「MIRRORLIAR FILMS」に誘われました。これまでも監督はやりたいと思っていたんですけど、タイミングがなかったんです。今まで人の映画やドラマに対しても率直な感想を言ってきたから、自分が監督したとき受け入れられるだろうかと不安はありましたがやるしかないと。この仕事が好きだし、できるんだったらやろうと思って「頑張るわ!」と張り切ってやったら4時間越えました(笑)

――えっ!?

ひと作品15分という規定なんですけど、頑張った結果、4時間半くらいになっちゃって(笑)。四苦八苦して、なんとか15分にしました。

――ディレクターズカット版を作るというのは。

ピクチャーロックをかけたんだから、もういいやと。長編をやるなら次作です。この作品を観て、オレにも撮れるんじゃないかと思ってもらえたら嬉しいですね。

――企画で一度やったというより、監督としての第一歩なんですね。

イベントとして監督するということは全然考えてないです。今回役者もスタッフも贅沢すぎるぐらいのメンバーが集まってくたんです。しかも支払えた金額は本当に些少でした。「次はオレの映画でみんなを世界に連れて行くから!」と熱く語ってたんですけど、みんなもう海外の映画祭は経験済みでした。

――あはは! 監督業も期待ですが、これからの展望を教えてください。

写真家としても、ファッションショーを撮影したり、展覧会とか個展をやって、集客できる仕事にしたいです。ちゃんと仕事としてやっていきたい。あとは自分は映画が好きで、役者として20数年間映画に携わってきましたが、今度は作る側としても関わっていきたい。といっても役者として出ることは、もちろん一番大切にしています。

――安藤さんは寡作なスタイルが好みなのかと思っていたので、熱い気持ちが伺えて嬉しいです。

いろいろやっていきたいですよ。なにか途中から話が『ザ・ファブル』を外れちゃいましたけど(苦笑)。今回の完成作を観て、(江口)カン監督の演出と編集力がとにかくすごいと思いました。岡田が考えたアクションはエンターテインメント性もすごくあるし、本人自らやっていて、自分は役者として辿り着けない領域だと思うけれど、それをまとめた監督の編集もすごくうまい。クライマックスの平手(友梨奈)さん演じるヒナコが、人生を走馬灯のように見る点描的な映像も、すごくドラマチックだったし、とてもスケール感のある作品だと思います。

■安藤政信
1975年5月19日生まれ、神奈川県出身。96年に北野武監督の映画『キッズ・リターン』でデビューし、日本アカデミー賞新人賞ほか多くの賞を受賞した。『バトル・ロワイアル』『サトラレ』などで印象を残し、09年にはチェン・カイコー監督作『花の生涯~梅蘭芳~』で海外進出を果たした。近年の主な出演作に映画『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』『デイアンドナイト』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、ドラマ、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』『DIVER-特殊潜入班-』『理想のオトコ』など。写真家としても雑誌『GQ』などで活動。また短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」で初監督を務める。