「コーヒーを飲むように、日常的に抹茶を飲む文化を創りたい」と語るのは、World Matcha Inc (本社:アメリカ カリフォルニア州サンマテオ市)CEOの塚田英次郎氏。塚田氏は、サントリーで長くお茶ビジネスに携わり、業界にイノベーションを起こしてきました。

そんな塚田氏が、次に起こすイノベーションの舞台は世界。40歳をすぎてなぜ起業し、なぜ世界を舞台にチャレンジを続けるのか。本稿では、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が、そんな塚田英次郎氏と対談を行いました。

  • New Matcha文化を世界に浸透させるMaaS・Cuzen Matcha/空禅抹茶【前編】

大企業にいることは「リスク」

井上一生氏(以下、井上):塚田さん、本日はありがとうございます。塚田さんはサントリーでも確かな役職に就かれていたのに、なぜそこから飛び出し起業しようという決断ができたのでしょうか?

塚田英次郎氏(以下、塚田):「大企業にいることはリスクが高い」というのが、スタンフォード大学で出会った教えです。衝撃でした。大企業では、自分でコントロールできる領域や意思決定できる領域が極めて少ない。というか、「ない」と言っても間違いではないと思います。巨大な組織は、なかなか動きません。どちらかといえば、巨大な組織に適合して牙を抜かれたタイプの人が出世するという傾向もありますから、なかなか大企業でイノベーションは起きないと感じていました。

それなら、自分で起業してビジネスをした方が良いと考えました。それと、自己資金でやるのではダメで、「他人が出資したいと思えるビジネス」をつくりあげようとスタンフォードで教えられました。自己資金だけだと限界がすぐにきてしまいますし、家庭が揺らぐとビジネスを続けられません。自分のお金だけで始めるのは、ラクはラクなのですが、信頼を傷つけないようにしっかり綿密にやる、実行することが重要だと思います。

井上:起業されたのは、40歳頃のことですよね。言わば「オッサン起業の勇気」というか、とても応援したくなります。私のメンターはサイゼリヤ創業者の正垣泰彦さんなのですが、30代前半の頃に「起業するなら42歳までに」と言われました。

塚田:起業のベストなタイミングは人によって違うと思います。スタンフォード大学で学ぶ機会をいただけたことが人生の岐路になっていますし、MBA留学させてもらった恩返しをまずは会社にしたかった。起業を本気で意識し始めたのは、留学から7~8年経ってからでした。担当した『伊右衛門 特茶』がヒットして、「良いものができた」という実感もあり、これでひと段落ついたと納得できたため、起業する方向で人生を歩みはじめました。

当初は、サントリーに残りながらイントレプレナーシップで、米国で社内起業という道を歩んでいたのですが、その後、会社の方針転換もあり、日本の本社に戻りました。その後はしばらく悩みましたが、アメリカにおける抹茶の可能性を確信していましたし、「だれかがいずれやるだろう。だったら、自分がやろう」という気持ちが強くなっていました。今でも、起業はあのタイミングしかなかったと感じています。たまたま、様々な要素が組み合わさったのでしょうね。

学生時代の人脈が起業後に活きる

井上:偶然だけど必然だったわけですね。塚田さんは、開成高校から東大に進学されていますが、学生時代の人脈が今のビジネスに活かされているとお聞きしました。

塚田:そうですね。サントリーに勤めているときはわからなかったのですが、起業してから開成や東大の人脈ってすごいんだなと感じました。かなり助けられていますね。

井上:やはり、学生の頃から起業したいという意識はお持ちだったのですか?

塚田:いいえ、まったくそんなことはなかったです。「なにをしたいかわからなかった」のが正直なところです。開成に合格した後も、なにをしたいかわからなかった。若くして自分の進む道を決めているクラスメートが羨ましかったですね。進路は高校2年くらいから真剣に考え始めたのですが、決め手に欠けてしまい、入口で道筋が決まってしまう大学が多いなか、東大は最初の2年は一般教養でいろいろな分野をつまみ食いできるので、得意の数学を活かして理科一類に行きました。途中から経済に興味を持ちましたが、それでも卒業後の道は見えていませんでした。

サントリーに就職するきっかけになったのは、マーケティングの片平教授から「マーケティングを仕事にしたいならメーカーにいきなさい」と言われたことです。ものづくりやブランディングに関心がありましたし、ラグビーもやっていたのでサントリーを選びました。自分の価値観にフィットするとも感じていたので。

井上:理系で入って文系、マーケティングの世界へというのも興味深いですね。サントリーでは『伊右衛門 特茶』以外にもたくさんのプロジェクトに携われたとか。

塚田:お茶以外にも『DAKARA』や『Gokuri』などに携わりました。若かったのでその感性を活かせたというのもあると思います。それで、会社からMBA留学を勧められてスタンフォード大学に留学させていただきました。英語は得意ではなかったので必死でしたね。行ってからも本当に大変でした。

MatchaのMaaS・Cuzen Matcha/空禅抹茶

井上:サントリーでお茶を極めて、起業してさらにお茶のビジネスを世界で展開するチャレンジスピリットが本当に素晴らしいです。塚田さんの「Cuzen Matcha/空禅抹茶(クウゼンマッチャ)」は、どのようなビジネスなのでしょうか?

塚田:「Cuzen Matcha/空禅抹茶」は、一言で言えば「抹茶エスプレッソマシン(のようなもの)」 です。昨年10月からアメリカで販売を始めて、ハリウッドセレブなど普段は会えない人にもご愛飲いただいています。私は、勝手に「抹茶のMaaS(抹茶のサービス化)」と呼んでいますが、抹茶エスプレッソマシンとリーフを販売しています。

アメリカのTIME誌が選出する「Best Inventions of 2020」にも選ばれ、CES 2020イノベーション賞やSan Francisco Design Week Awards 2020, Future of Foods賞、Dezeen Awards 2020 Design Longlist、iF Design Award 2021なども受賞することができました。

Cuzen Matcha/空禅抹茶は、碾きたてフレッシュな抹茶の美味しさをご自宅で簡単に楽しんでいただくために開発しました。Matcha マシン(抹茶エスプレッソマシン)と、専用のMatcha リーフ(碾茶 てんちゃ=抹茶を碾く前の茶葉)から、碾きたてならではの美味しさが特徴の「フレッシュ抹茶」をつくります。Matcha マシンは、抹茶を碾いて点てる機能だけではなく、茶室にある円窓(えんそう)をも連想させるデザインに仕上げました。シンプルでありながら、禅にも通づる上質な世界観を表現しています。また、Matcha リーフ(碾茶)は、九州で土づくりからこだわって育てられたオーガニックを使用しています。茶葉をまるごと摂取する抹茶だからこそ、品質と安心にこだわった自信作です。

井上:まさに世界で戦えるMatchaですね。次回は、なぜアメリカで起業したのかもお聞かせください。

(次回に続く……)