「地域でいちばん愛されるサロンを目指して」「生涯美容師の実現へ」というビジョンのもと、1986年の創業以来、美容室業界に旋風を巻き起こしてきたアルテ サロン ホールディングス(東京証券取引所市場JASDAQスタンダード 証券コード:2406)創業会長CVOの吉原直樹氏。今回は前回に引き続き、そんな吉原氏と、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が「未来の美容室サロン経営」をテーマに対談を行いました。

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  • AI時代のハイブリッド型美容室サロン経営 ~美容師は教養を身につけることでより輝く~【後編】

バブル崩壊が追い風に

井上一生氏(以下、井上氏):業績を伸ばしていた1990年代は、バブル崩壊の影響も色濃かったと思いますが、なぜ業績を伸ばすことができたのでしょうか?

吉原直樹氏(以下、吉原氏):バブル崩壊がむしろ好機になりました。一等地の物件が空いたんです。それまでは、美容室は2階以上で開業することが多かったのですが、1階で開業できるようになりました。

また、銀行が担保至上主義から事業性評価にシフトしていく頃でもあり、保証協会の枠が1500万円だったのが3000万円、5000万円、1億円と上がっていきました。神奈川と東京で合計2億円の枠ができた。それで一気に業績を伸ばすことができたわけです。

井上:パッケージ化・パターン化されたビジネスであれば、銀行も判断しやすくなり、融資も下りやすくなりますね。バブル崩壊が追い風になったわけですね。そういう意味では、コロナ経済の今も追い風と言えるかもしれません。

吉原:そうですね。感覚的には、15年ほどのサイクルでマーケティング方法や雇用の在り方などが新しくなっていると思います。「〇〇DX」が流行っていますが、各業界で新しい風が吹いている。コロナ禍がそれを加速させている面もありますね。

美容室業界もパラダイムシフトは避けられない

井上:吉原会長が感じている業界のパラダイムシフトはどのようなものでしょうか?

吉原:軸が変わってきていると感じます。私は美容室サロン経営の3大要素として、「求人」「集客」「教育」、さらに長く経営するならば「組織」を加えて"4大要素"と呼んでいるのですが、これらがすべて変わってきています。

例えば、求人の方法では、新聞広告がとらばーゆになり、SNSになり。集客の方法として口コミがチラシになり、ハンティングになり、ホットペッパービューティーになり、SNSになり。今なら、Instagramをやっていないとダメです。それも、数年で変化していくでしょう。

また、美容室サロンのスタイルや顧客のニーズも変化しており、大きくは3つに分かれていきます。ひとつ目は「個性」に重点を置く美容室。このスタイルの美容室は、デザインや技術、その美容師が好きであることが顧客のニーズです。ふたつ目は「チーム」に重点を置く美容室。ここは総合力が顧客のニーズです。3つ目は「安い価格」に重点を置く美容室。低価格や髪のメンテナンスが顧客のニーズです。例えば病院でも、「この専門医やドクターに診てもらいたい」「大きな総合病院で診てもらいたい」「とりあえず診てもらって薬を処方してくれればいい」というように複数のニーズがあります。美容室サロンも、多様なニーズにそれぞれが応えていく形になるでしょう。

独立の仕方も多様化していきます。「面貸」などで小規模に独立することもできますから、今は必ずしも大きな店舗を構える必要はありません。美容師の働き方も独立の方法も多様化しますし、指導者に回る人もいるでしょう。若い人や他業界からの新しい風が入ってくることで、この業界もどんどん変わっていくと思います。

AI時代を勝ち残るには「教養」が不可欠

井上:吉原会長は、これからどのように美容室業界を革新していくのでしょうか?

吉原:時代とともに、業界も多様化しハイブリッドになっていきます。それは、自社も自分も同じです。美容室サロン経営の4大要素である「求人」「集客」「教育」「組織」のすべてがハイブリッドになっていきますから、時代に合う形に適応させていきます。また、日本で培ってきた美容師の技術や経営・マネジメントのノウハウをアジアにも広げていく計画でいます。

さらに、今は「メーカー」「ディーラー」と「美容室/サロン」「美容学校」がそれぞれ分かれていますが、これらもハイブリッドになっていくと思います。例えば、美容室でシャンプーやリンスなどを買おう場合、定価で購入することになりますが、ネットの方が安いですし情報も豊富です。これでは、美容室で買うことがデメリットになってしまい、矛盾があります。美容室で買う意味や価値がないといけない。美容室でしか買えない商品であったり、総合的な美容コンサルティングなどの高い付加価値も必要です。

井上:なるほど。AIやロボットが普及する未来でも、確かな技術があり、総合的なコンサルティングができれば、美容師さんの価値はもっと上がりますね。吉原会長は、そんな新しい時代に美容師が必要なものは何だと感じますか?

吉原:究極の付加価値は教養だと思います。居心地の良い美容室をつくるのも、人を育てるのもやはり人です。人となりや立ち居振る舞いにも教養は現れます。技術にも教養にも終わりはありません。日々磨いていくものですから、現状に満足せず常に向上心を持っていきたいですね。