この記事では、「ほかす」とはどういう意味なのか、その語源や使われている地域を紹介します。また、どのように使われているのかを例文も交えて解説します。
「ほかす」の意味は?
「ほかす」とは、「物を捨てる」ことを意味し、その由来や語源については諸説あります。
「放る」「放下する」などの言葉が派生してできたという説が有力とされ、「そのまま放りっぱなしにする」「放置する」という意味がやがて最終的に「捨てる」につながっているといわれているようです。
「ほかす」の語源になっている説を2つ紹介します。
ほかすの語源は「放下す」という説
「ほかす」の語源になっている説として有力なのが「放下す(ほうかす)」という言葉です。
「放下(ほうか」とは、中世・近世に行われた大道芸を表す言葉でもあり、手品や曲芸をしていたとされています。すべてを放擲(ほうてき)し、無我の境地にはいることを「放下す」といっていました。
また、品玉(しなだま)や輪鼓(りゅうご)をほうり投げたり、小切子(こきりこ)を打ったりしながら行う歌舞などの曲芸を演じる下級の芸能者を指す言葉と変化したともいわれています。笹を背負った姿で演じる演目や、頭巾を被って演じる演目があったそうです。
「物を捨てる」という現代での使われ方とは少しイメージが離れていますが、移動しながら曲芸を行う大道芸が言葉を広めていったという説もあります。
この他「放下す(ほうかす)」の意味には、単純な「物を捨てる」以外もあります。
- 投げ捨てること。投げおろすこと。下におろすこと
- 捨て去ること。捨ててかえりみないこと。放棄。放置
現代では「物を捨てる」といえばゴミ箱に捨てたり、ゴミ集積所に捨てたりすることが一般的です。
しかし、語源とされる「放下(ほうか)」には、投げる、放置するという意味合いが強いことから、かつての「捨てる」は「放置する」といった意味合いであったことがわかります。
仏教における「放下(ほうげ)」
「放下」は「ほうか」という読み方の他に「ほうげ」と読むことができます。これは、仏教における「禅」の用語です。
読み方に違いがあるものの、「放り投げること」「捨て去ること」と意味は変わりません。
しかし、禅の考え方では「ものごとに執着せず、迷いを捨て去ること」の意味が強くあります。これは、とらわれる心の状態を捨てて、ただひたすらに念仏することを説いているのです。そのため、単純な「物」というよりは、精神的な世界で用いられる言葉といえます。
「捨てる」を「ほかす」という都道府県はどこ?
「ものを捨てる」という意味をもった「ほかす」は、大阪府、京都府、奈良県、三重県、滋賀県、兵庫県、和歌山県などの近畿地方や金沢、能登などの西日本で使われることが多いです。
しかし西日本のなかでも言葉の使い方に違いがあるため、西日本の誰しもが知っている言葉ではありません。
一方、関東地方や東北地方では「ほかす」はほとんど使われず、馴染みのない言葉です。
その他の地方では「ものを捨てる」ことを、
- ほかる(愛知県、岐阜県など)
- ひっぽかす、うっちゃる(静岡など)
という言葉が方言として使われています。地域によって全く違う表現をする言葉であることがわかりますね。
ほかすを使った例文を紹介
「ほかす」を使うとどのような文章になるのでしょうか。 実際に「ほかす」を使った例文を紹介していきます。
「それ、もういらんさかいほかしといて」 (それ、もういらないから捨てておいて)
「新しい家電を買ったから、古い家電はほかそう」 (新しい家電を買ったから、古い家電は捨てよう)
「物を大事にして、簡単にほかしたらあかんよ」 (物を大事に使って、簡単に捨てるようなことはしたらいけないよ)
「そのゴミ、ほっとこか」 (そのゴミ、捨てておこうか)
「その新聞紙、もったいないからほかさんといて」 (その新聞紙、もったいないから捨てないでね)
「その服、ほかすんやったら、うちの妹にくれへん?」 (その服、捨てるなら、私の妹にくれませんか?)
このように、「ほかす」は普段の生活でも使われやすい言葉であることがわかります。意味を知っておくと、誰かが「ほかす」が使った時などに正しく理解できるでしょう。
「ほかす」は物を捨てるという意味で西日本の方言
今回は「物を捨てる」という意味をもつ方言「ほかす」について紹介しました。語源は「放下す」という言葉が有力だといわれいますが、大道芸を表す言葉や、仏教の教えのひとつである「放下(ほうげ)」にも関連するなど諸説あります。
そのため、現代では「ほかす」の一般的な意味は「物を捨てる」ですが、精神的な考え方での「ものごとに執着をせず、迷いを捨て去ること」も「ほかす」の語源とする説もあるようです。
「ほかす」は近畿や金沢などの西日本で多く使われていますが、西日本内でもさまざまな言葉が分布しており、一概に「この地方で使っている」とは言えません。話している相手に「ほかす」の意味が通じていないなと思ったら、言い換えをして伝わるように話す工夫が必要でしょう。