情報システム部の手を煩わせず、音響機器を管理するには
前編では、欧米を中心にヘッドセットを会社全体で一括購入・支給、そして管理まで行っている企業が増えているということに触れました。しかし、日本ではその意識はまだ高まっていないのが現状です。
情報システム部門がヘッドセットを一括購入・管理することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、すべての従業員に同じ音声環境を提供することで、会社でもテレワーク時でもオンライン会議への参加を円滑に進めることができます。従業員はわからないことやトラブルが発生したとしても、自社の情報システム部にすぐ問い合わせれば解決してもらえることによって、ストレスなく音響機器を使用できるのです。こうした積み重ねは、従業員の生産性ひいては会社の業績にも影響していくことでしょう。
その一方で、日々社内の機器・システム管理に奔走する情報システム部門にとっては、社内のヘッドセットの管理という新たな業務が加わることになり、さらなる負荷がかかってしまうのも事実です。では、情報システム部門がヘッドセットの管理を容易にするには、どうすればよいのでしょうか?
一番オススメなのが、ヘッドセットベンダーやシステムインテグレターなどが提供する、マネジメントツールを活用することです。
ヘッドセットの管理ツールで何ができるのか?
社用パソコンの場合、資産管理の意味合いでステッカーに管理番号を記載して貼ることもありますが、パソコンに比べて安価で資産とみなされにくいヘッドセットはそうもいきません。余談ですが、パソコン周辺機器であるマウスも同様に、管理番号が付与されていないことも少なくありません。
ヘッドセットがマウスと異なるのは、従業員それぞれに使いたい音響機器には好みがあることです。会社で一括購入するいっても、ある従業員は両耳タイプ、またある従業員は片耳タイプなど、全従業員がまったく同じ製品を使うのではなく、さまざまな製品が入り乱れて使われる傾向にあります。こうした場合、情報システム部門の管理も複雑になります。
そこで、情報システム部門が、クラウド型やアプリタイプのマネジメントツールを使うことで、従業員の誰が・どのデバイスを利用しているのかを容易にトラッキングすることが可能となります。また、音響設定を情報システム部側で集中管理・設定することもできます。
さらに、従業員がヘッドセットを使用して打ち合わせに参加しているかどうかを把握することも可能です。また、そのヘッドセットが1日どれぐらいの時間利用されているかも把握できます。従業員のヘルスケアの観点から、通話相手が怒鳴った場合など過大な音量を制限し、音響に関するイベントを監視して、データを提供できるマネジメントツールもあります。
加えて、マネジメントツールで収集したデータは社内で必要なオンライン会議のアカウント数を投資判断する際の材料にもなります。というのも、マネジメントツールでは、自社だけでなく、顧客企業のZoom Meetings、Microsoft Teams、Cisco Webex、Google Meetなどの使用頻度を確認したうえで、社内で推奨会議ツールを選択する、といった使用方法も可能なのです。例えば、あるオンライン会議ツールの頻度が多ければ、利用を集中させて投資対効果を高めることも可能でしょう。
なお、近年、欧米ではコールセンターやコンタクトセンターを在宅勤務で運用しようとする動きもあります。コールセンターやコンタクトセンターをリモートワークへ移行するには、CTI(Computer Telephony Integration)とともにヘッドセットのマネジメントツールを導入することで、より高い精度でオペレーターの業務をトラッキングできるようになるでしょう。
周辺機器研修をオンライン動画で済ませるケースも
ヘッドセットを全社で一括購入・管理しようという動きは、コロナ禍以前より欧米では一般的になりつつあり、新入社員の入社段階で、パソコンとヘッドセットを同時に支給する企業が多く見られます。情報システム部門が管理できるマネジメントツールも、欧米企業では先んじて導入が進んでいます。特に、広大な国土に大きな街が点在し、その各地に大きな企業があるオーストラリアは、ヘッドセットの一括購入・管理に積極的な企業が多い傾向にあります。
こうした背景には、欧米企業ではコロナ禍以前よりテレワークを採用する企業が少なくなく、ヘッドセットがきちんと使われているのか実態を知りたいという企業側の事情が大きいようです。
また、全従業員が同一のヘッドセットの利用は、会社が用意するマニュアルが一種類で済むというメリットもあります。たとえば、アメリカ・ボストンにあるボストン公立学校では、コロナ禍でオンライン授業をはじめるにあたり、教職員向けにヘッドセットやオンライン授業に使うツールの説明動画をアップロードしています。
全社一括で同じベンダーの機器を購入・管理し、説明動画やFAQシートを用意してしまえば、情報システム部への問い合わせが減り、ヘッドセットの運用の手間が軽減されることになるでしょう。
使い勝手の悪いキーボードやマウスを使い続ける企業はいない
パンデミックが落ち着いた後も、オンライン会議がなくなることはない でしょう。テレワークの導入を余儀なくされた企業・従業員は、オンライン会議の音や映像の品質、設定・管理の手間などが業務の生産性に大きく影響していることに気づきはじめています。
使い勝手の悪いキーボードや、マウスといったPC周辺機器を使い続ける企業がないのと同様に、会議に適していない、使い勝手の悪いヘッドセットを使い続けることはお勧めできません。
だからこそ、会社は、会議に最適なヘッドセットを会社自身が選択し一括購入・管理し、従業員の生産性の維持・向上に努めていくことが求められます。結果としてそれが会社の成長につながっていくからです。その時、ヘッドセットを管理する情報システム部門は、マネジメントツールなどを上手に利用して自身の業務負荷を軽減していくことが重要なのです。
ビジネスパーソン1人につき1台のヘッドセットが一般的になった今、この機会にヘッドセットの購入・運用方法を見直してみるのはいかがでしょうか。
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