キリンホールディングスでは、国内外のアルコール規制の動向や、それを受けた同社の取り組みを発表・啓蒙する"スロードリンク"セミナーを実施した。

国内外の酒類メーカーを取り巻く現状

まず、キリンホールディングス CSV戦略部 藤田仁美氏より、国内外の種類メーカーを取り巻く現状の解説が行われた。

「WHOでは、世界の死因第一位であるNCDs(生活習慣病)による30~70歳までの死亡率を2025年までに25%削減する目標を設定しており、その政策プランには『アルコールの有害使用を少なくとも10%削減すること』が含まれています。またSDGsの17項目のうち目標3のターゲット3.5で、アルコールの有害な摂取の防止と治療の強化も規定されています」と藤田氏。

こういった情勢を受け、責任ある飲酒を推進するNPO組織・IARDに加盟する世界の大手アルコール企業は非常に高い危機感を持っているという。酒類事業存続のため、業界を挙げて有害飲酒の削減に取り組むべきだという認識で一致しており、未成年者飲酒防止の強化などを行っている。

海外の企業各社も、啓発活動や情報提供に取り組む。バドワイザーを手掛けるアンハイザー・ブッシュ・インベブでは2025年末までの目標として、有害飲酒削減を目的としたソーシャルマーケティングキャンペーンやプログラムに対し10億ドルを投資したり、総販売量のうち20%以上をノンアルコール・低アルコールビール製品にするといったアクションを掲げる。

日本においても、国や地方公共団体および酒類関係事業者が連携し、社会全体で不適切な飲酒の誘引を防止するよう働きかけている。一例として、酒類企業のホームページで年齢認証の仕組みが導入されることや、消費者自身が適正な飲酒量を判断できるよう、容器にアルコール量を表示する検討などが挙げられる。

「キリンも、飲酒運転や不適切な飲酒マナー、アルコールハラスメントといった社会問題、また未成年飲酒やアルコール依存症といった健康問題に対し、問題を解決するために積極的な推進を行っています。酒類メーカーとしての責任として、アルコールの有害摂取の根絶に向けた取り組みを着実に進展させていきたい」と藤田氏は述べた。

アルコール有害摂取根絶に向けた、キリンの3本柱

キリンではこの課題に対し「アルコール有害摂取根絶に向けた適正飲酒啓発プログラムの推進」「純アルコール量の製品ラベル表示」「ノンアルコール低アルコール製品の開発&販売数量の拡大」を3本柱に掲げる。

「純アルコール量の製品ラベル表示」については、2024年をめどにビール類(ビール・発泡酒・新ジャンル)及びRTDの350ml缶、500ml缶への表示を行う。これは2027年までに100%完了するという。

「アルコール有害摂取根絶に向けた適正飲酒啓発プログラムの推進」では、取り組みのひとつとしてキリンシティでの「飲み放題中止」を挙げた。キリンシティでは新たな試みとして、適量のお酒を安心して楽しんでもらえる環境を整え「スロードリンク」を推進していくと藤田氏。

"お酒の時間をゆっくり楽しむ"「スロードリンク」とは、キリンが新たに提案していくこれからの時代の飲み方だという。飲む人も飲まない人も個性を尊重し合い、豊かな時を過ごせる社会を目指していくとのこと。

「飲めば強くなる」という誤解

また、コロナ禍での飲酒実態や、現状の「アルハラ」に関する発表も行われた。

キリンが行ったアンケートによると、約3人に1人が「コロナ禍で飲酒頻度・飲酒量とも増えた」と回答している。また、コロナが収束しても「プライベートな飲み会は再開したいものの、仕事関連の飲み会は復活してほしくない」という傾向があるそうだ。

「コロナ禍が収束した後の飲み会について、どのような不安やストレスがあるかを聞いたところ、『会社の飲み会や接待など、行きたくない飲み会に行くストレス』『帰りたいときに帰れなくなりそう』といった意見のほか『アルハラにさらされるのではないか』と回答した方もいました」藤田氏はそう語る。

「アルハラ」とは「アルコール・ハラスメント」の略で、飲酒に関連した嫌がらせ行為や迷惑行為、人権侵害を指す。飲酒の強要やイッキ飲ませ、意図的な酔いつぶし、飲めない人・飲まない人への配慮を欠くことなどが挙げられる。また「お酒は訓練で強くなる」という誤った知識により、多量飲酒の強要につながる可能性もあるという。

こういった状況を受け、キリンでは「適正飲酒」のマナー広告も展開する。

サッカー元日本代表で現FC東京の森重真人選手を起用し「お酒は鍛えても本質的に飲める体質に変わるわけではないこと」「一人ひとりアルコール体質が違い、特に日本人は約半分がお酒に弱い体質であること」を訴求していく。

「ノンアルコール低アルコール製品の開発&販売数量の拡大」の柱では、コロナ禍で高まる健康志向に応え"お腹まわりの脂肪を減らす"機能のあるビールテイスト飲料「カラダFREE」のリニューアルを実施する。

また、メルシャンではノンアルコール飲料に占めるワイン系飲料の販売数が少ないこと、またサングリアが若年層(20~30代女性)に高い認知・飲用意向を持たれていることに着目し、6月29日にはノンアルコールサングリア「モクバル<オレンジ&マンゴーmix、洋なし&パインmix>」を販売する。