会社員が特定支出を自腹で支払った場合、その合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるときは、その超えた部分を給与所得から差し引くことができる制度が「特定支出控除」です。この制度はどのように手続きすればいいのでしょうか。本記事では、特定支出控除の種類と必要となる証明書、申請する方法を解説いたします。

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特定支出控除の種類と証明書

自営業者や個人事業主は、事業所得から必要経費を差し引くことができます。会社員の場合でも、仕事上必要なものを購入したり、仕事に必要な移動のために交通費を支払ったりと、自腹で費用を払うことがありますが、会社員は自腹を切った費用を必要経費として計上できません。

これでは自営業者や個人事業主と比べて、税負担の公平性に欠けてしまいます。そこで1987年に、会社員が負担する経費のうち特定支出として認められるものを給与所得から差し引くことができる「特定支出控除」の制度が創設されました。

しかし、当初は適用判定基準が厳しく、利用者しにくい制度でした。その後、何度かの税制改正を経て適用判定基準などが見直されました。そして、2017年には特定支出を支払った場合、その合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるときは、その超えた部分を給与所得から差し引くことができるよう見直され、多くの人に利用される制度となったのです。

特定支出控除に該当する特定支出の種類

では、特定支出控除として認められる特定支出にはどのような種類があるのでしょうか。その種類と内容を解説します。

勤務必要経費

勤務必要経費は、仕事に必要な書籍や新聞・雑誌などの定期刊行物を購入した費用である「図書費」、制服や作業服、事務服などを購入した費用である「衣服費」、得意先や仕入れ先の仕事上関係のある人に対する接待や贈答の費用である「交際費」が認められています。ただし、勤務必要経費は上限額が決まっており、その限度額は最高65万円となっています。

帰宅旅費

単身赴任をしている人が勤務地から配偶者や家族のいる自宅へ帰省する際の往復運賃や有料道路の通行料金、ガソリン代などに支払った費用は帰宅旅費として認められています。

資格取得費

仕事をするうえで必要となる資格を取得するために支払った費用は、資格取得費として認められています。もし資格試験に通らなかった場合でも、その資格取得に向けて学んだ費用は特定支出にすることができます。

研修費

仕事に必要な技術や知識を習得することを目的に受講した研修の費用は、研修費として認められます。また、研修を受講するための交通費も認められるケースがあります。

転居費

転勤のため新任地へ移動するのに支出した運賃や有料道路の通行料金・燃料代・宿泊代・家具などの運送代は転居費として認められています。このほか、家具などを運搬中に損傷を受けた場合に備えて加入した損害保険の保険料も特定支出に含めることができます。

職務上の旅費

仕事のため勤務地から離れた場所へ出向く際に支払った運賃や有料道路の通行料金などの旅費は、職務上必要であると認められれば特定支出にすることができます。

通勤費

通勤のために支払った運賃などの費用で、会社から支給されず自腹で支払っている部分は特定支出として認められます。また、自動車を利用した通勤の場合も、燃料費や有料道路の通行料金のほか、その車の修理費も特定支出になります。

特定支出控除に必要な証明書

次に、特定支出控除を申告する際に必要となる証明書をご紹介します。

特定支出控除を利用するときは確定申告が必須です。その際には、添付書類として次のような証明書が必要となります。

■特定支出に関する証明書(特定支出に関する証明の依頼書)

特定支出控除を利用する際は、給与支払者からの証明を受ける必要があります。国税庁ホームページには会社に証明を依頼する際に使える所定の書式があるので、入手して証明をもらっておきましょう。

特定支出に関する証明書の一つである「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」は、帰宅旅費の申告に必要なものです。航空会社カウンターや鉄道会社の精算所などで搭乗、乗車した証明をもらっておきましょう。

■給与所得者の特定支出に関する明細書

確定申告をする際、特定支出の明細書を作成する必要があります。国税庁ホームページには所定の書式があるので、保管しておいた領収書等を確認しながら記入しましょう。

特定支出控除の申告方法

特定支出控除の手続きは確定申告で行います。年末調整では処理できないので注意しましょう。特定支出控除の申告方法は次の通りです。

(1)特定支出に該当する費用の領収書等は保管しておく

確定申告時は、各種費用の「領収書」「レシート」「払込金受取書」など金額や日付、支払先などがわかる書類を確定申告書に添付するか、申告書の提出時に提示する必要があります。これらは、必要書類となる特定支出に関する明細書を作成する際にも利用します。

帰宅旅費の申告では「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」が必要です。移動の際に、空港のカウンターや駅の精算所、乗車した列車の車掌などに依頼して、証明書を交付してもらいましょう。

(2)給与等の支払者の証明書を用意する

特定支出控除の対象となる特定支出は、給与支払者が証明したものでなければ申告できません。そこで、「特定支出に関する証明の依頼書」に必要事項を記入し、会社へ提出して証明書を交付してもらいましょう。証明書は確定申告書に添付します。

(3)給与所得者の特定支出に関する明細書を作成する

保管しておいた領収書などを確認しながら、明細書に必要事項を記入します。会社から補てんされ、かつ補てん部分に所得税が課税されていないときは、補てんされた部分を特定支出から除外しなければなりません。明細書には補てん金額の記入欄があるので、該当するときは必ず記載しましょう。

(4)確定申告書を作成する

確定申告は基本的に2月16日から3月15日(土日祝日の場合は翌日に移動)までに行います。確定申告書は「確定申告書A」を使います。確定申告書Aの用紙は税務署で入手できますが、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、ネット上で申告書を作成できます。確定申告書の詳しい作成方法は、国税庁のホームページをご参照ください。

特定支出控除の申告に必要な証明書の書き方のポイント

特定支出控除の申告には「特定支出に関する証明の依頼書」と「給与所得者の特定支出に関する明細書」を添付します。それぞれの証明書に記入するポイントをご紹介しましょう。

  • 画像は国税庁「給与所得者の特定支出に関する証明書」より

(1)依頼書の上部に必要事項を記入し、会社に提出

(2)会社から証明をもらい、確定申告まで保管

上部に支出に関する必要事項を記入し会社へ提出します。特定支出が会社に認められれば、下部の「特定支出に関する証明書」に証明をもらえるので、確定申告まで保管しておきましょう。

給与所得者の特定支出に関する明細書

  • 画像は国税庁「給与所得者の特定支出に関する明細書」より

「1.特定支出の金額」には、経費ごとに必要事項と支出金額、会社から補てんされた金額のうち非課税部分の金額を記入、その差額を(1)から(9)に記載します。 (10)は(7)+(8)+(9)の合計を記入しますが、勤務必要経費は最高65万円となっていますので、注意しましょう。

(12)の「適用を受ける特定支出の区分の合計」とは金額ではなく、左端の欄にある【区分○】の番号の合計のことです。特定支出の申告をする経費に記載してある区分の番号を合計して記入しましょう。

「2. 特定支出控除適用後の給与所得金額」に記入する際は、源泉徴収票を用意しましょう。「(13)給与等の収入金額の合計額」には、源泉徴収票の「支払金額」を記入します。

「(14)特定支出控除適用前の給与所得金額」は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を記入します。あとは、明細書に書いてある通りに計算して記入しましょう。「(17)特定支出控除の金額」がマイナスになった場合は、特定支出控除の適用はありません。

まとめ

特定支出控除は、会社の証明を受けた特定支出でなければ申告することができません。そのため、該当する経費を支払ったら、会社に「特定支出に関する証明書」の交付を受けます。また、「給与所得者の特定支出に関する明細書」を記入、特定支出に関する証明書とともに確定申告書に添付します。明細書に掲載した経費の領収書などは、確定申告書に添付するか税務署で提示する必要があるので、必ず保管しておきましょう。