「時価総額世界一のトヨタがテスラに抜かれる」。このニュースは自動車業界の新たな潮流を象徴する出来事として、産業界に波紋を投げかけました。どうして市場はテスラを評価するのか? その実力、強みとは何なのか? ものづくりの現場に詳しく、テスラ車に試乗したばかりという理系YouTuberものづくり太郎が技術オンチの人でもわかるように優しく解説します。

  • 「テスラの時価総額」はなぜトヨタを超えた? /理系YouTuberものづくり太郎

■テスラは自動車業界におけるマイクロソフト!?

――2020年7月にテスラが自動車業界で時価総額世界一のトヨタを抜きました。規模ではトヨタが圧倒していますが、どうして抜かれちゃったんでしょう?

僕は株のプロではないので、株価の動向をとやかく言えませんが、要するに電気自動車(EV)やテスラに対する投資家の期待値が高いということですね。

テスラはこれまで車作りに資本を投資し続けてきましたが、ずっと赤字でした。しかし、2020年の7月に発表された四半期決算では初めて4期連続の黒字を達成しています。そうなると将来さらなる量産効果が生まれてきます。

――伸びしろがすごいと。価格もかなり下がってきています。

テスラは2021年度中には完全自動運転車を出荷する予定ですが、その後はロボタクシー事業を展開すると言っています。

この事業はオーナーに自動運転車を販売し、オーナーはタクシー事業を展開、一方、テスラはタクシーを運行するクラウド「Tesla Network」を提供し、その利用料を定額で得るというモデルです。要はコンピュータのソフトと同じ構造で、車におけるマイクロソフトを目指す考え方です。

今世界で年間約9000万台の車が販売されていますが、仮にその3分の1が自動運転化されるとすると、3000万ライセンスを販売できる可能性があります。1台単価50万円としても15兆円の市場が生まれます。ここを征すれば莫大な利益を稼げるはずです。

■EV化は世界的なトレンド

――ところで自動運転っていま、どのあたりまで来てるんですか?

自動運転はその基準がレベル0から5まであります(表参照、レベル0はドライバーがすべてを操作)が、国ごとに定義が微妙に異なります。例えばA国では事故率が人間の3分の1以下でないとレベル5と認めないなどです。

中国のオートXという企業は2020年12月、深圳で初めて完全自動運転車の試験走行を行ったと発表しました。日本ではホンダのレジェンドがやっとレベル3と認められた段階です。

――運転しながら寝てても大丈夫な状態ですか?

寝てちゃダメ(笑)。レベル3は条件付き運転自動化で、高速道路での車線変更支援や渋滞時の自動運転ができるという段階です。レベル3、4は部分的な自動化で、5になるとハンドルが不要になります。

――いまレベル3ということは、10年後ぐらいには完全自動化になる?

おそらくもっと早く来ます。政府は2030年代半ばまでに新車販売のうち電動車を100%とする目標を掲げていますから、法規制や保険などの整備も含めて流れは今後加速すると思います。

テスラも自動運転のノウハウを外販すると言っているので、むしろそれを買っちゃった方が早いかもしれない。

――もはやEVシフトは世界の潮流ということですね。

そうです。アメリカのカリフォルニア州は2025年にトラックも含めて新車の100%をEV化します。イギリスも2030年までに内燃機関(ハイブリッドは除く)搭載車の販売を禁止すると言っています。

パリは2030年までにガソリン車の乗り入れを禁止、ノルウェーは2025年、オランダは2030年までに100%ZEV(Zero Emission Vehicle:排出ガスを一切出さない自動車)化を目指します。

中国はその流れを見越して世界の蓄電池の3分の1を握っています。こうした全世界的な潮流は止められません。

また、市場の将来予測をする場合、メーカー単位で追っても意味はなくて、こうした各国の規制に注目する必要があります。

■進化のカギは「垂直統合開発」にあり

――改めてテスラの強みってどこにあるんですか?

先日試乗してみましたが、正直スペック的な部分で言うと部品のたて付けがイマイチだったり、ドアを閉める時の音に重みがなく高級感も感じません。

性能面では圧倒的な加速、自動運転の精度、専用配電設備などのインフラ整備、デジタルトランスフォーメーション(DX)による絶え間ない進化などが強みです。

DXについては、車の進化を左右するECU(Engine Control UnitあるいはElectronic Control Unit)がガソリン車は通常30個前後搭載しているのに対し、テスラでは3個に集約しています。

これによって個々のユニットがブラックボックス化するのを防ぎ、容易にソフトウェアの更新が可能になります。実際、車載カメラの認識物体数が増加したり、音声認識の精度も向上し続けています。

――開発は社内ですか?あるいは関連企業などに外注?

テスラの進化のカギになるのが「垂直統合開発」です。コアの技術に関しては、自社開発にこだわり、基礎から生産技術までを一気通貫で行っています。

例えば半導体、電池、ソフトウェア、ECU、工場設備、そして配電設備などはすべて自社開発しています。その効果は絶大で、例えば米国工場で培った生産現場の知見を活かし、上海工場を着工からわずか357日で立ち上げました。

――次々と新機種が登場するのもiPhoneみたいですね。

アップルミュージックのようにサブスクのサービスが柱になってきている点も似ています。DX時代は常に最適な価値体験を提供した者が勝ちます。そのためにはまず一気にEV市場のシェアを獲得することが大事です。

なぜ1位になることが大事かわかりますか? 売上がでかいと量産効果でコストが下がり、粗利益を稼ぎやすい。次にユーザーの情報を一番多く収集できます。結果、価格設定も自らコントロールできるということです。1位であることはめちゃくちゃ大事なんです。

■テスラにとっては車は社会変革の道具

――でも年間販売台数ではトヨタが約1000万台(2019年)、テスラは約37万台と30倍近い開きがあります。

株式市場は今の規模ではなくて、企業のDXや提供する価値体験で見ているということだと思います。このメガトレンドは変わらないので、トヨタはその前提でサプライヤー保護と未来戦略を分けて考えないといけない。釈迦に説法ですけど。

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――将来は、実際の生産台数でもトヨタを凌駕することになりますか?

さすがにそれはわかりません。1つ言えるのは、トヨタとテスラは目指すものが全く異なる会社だということです。

トヨタが「可動性を社会の可能性に変える」を理念に掲げ、自動車から社会に付加価値を生み出すことを目的とするのに対し、テスラは「持続可能なエネルギー社会への変革」を目指しています。

なので、自動車はあくまでその社会を実現するための道具にしか過ぎないのです。この先、世界の人口が増加し続けて、環境破壊が加速し、社会の不安定要因が増加していった時、テスラの必要性が今よりも増していく可能性は十分に予測できます。