三菱自動車工業はコンパクトSUV「エクリプス クロス」にプラグインハイブリッド(PHEV)モデルを追加した。ガソリンエンジン搭載車より価格は高いものの、上手に乗ればほとんど電気だけで走れるため、ガソリン代を抑えられるのがPHEVの特徴のひとつだ。そこで気になるのは、エクリプス クロスのPHEVを購入した場合、ガソリンエンジン車に対し、そのうち元が取れるのかどうかということ。開発陣に聞いてみた。

  • 三菱自動車の新型「エクリプス クロス」

    三菱自動車の新型「エクリプス クロス」。写真のPHEVモデルはフル充電で57.3キロ(WLTPモード)を走行可能だという。電気だけで走っていればランニングコストは抑えられそうなので、そのうち、ガソリンエンジン搭載車に対して元が取れるのでは?

「RAV4」がライバル?

新型「エクリプス クロス」には1.5L直噴ターボエンジン搭載車とPHEVの2種類がある。価格はガソリンエンジン搭載車が253.11万円~334.62万円、PHEVが384.89万円~447.7万円で差額は100万円以上。燃費はガソリンの2WDで13.4km/L、4WDで12.4km/L。PHEVは16.4km/Lだ。

ただ、PHEVは充電しておけば基本的に電気自動車(EV)と同じ走り方をするので、ガソリンは(ほとんど)使わない。なので、車自体の価格は高くても、ランニングコストを含めた全体のコストを考えた場合、PHEVで元を取ることも可能なのではないだろうか。そのあたりについて、三菱自動車 商品戦略本部 商品企画の山慶之さんに聞いてみた。

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    新型「エクリプス クロス」のPHEVに試乗し、開発陣に話を聞く機会があったので、元が取れるのかどうかをストレートに聞いてみた

――乗り方次第では、ほとんどガソリンを使わずに過ごせることがPHEVの利点だと思うのですが、率直にいって、上手に乗れば元は取れますか?

三菱自動車の山さん:私は以前、販売会社で営業をしていたことがあります。その際にも、電力プランや1日あたりの走行距離などのデータを使って、試算ツールでPHEVとガソリンエンジン搭載モデルのコストを比較してみたことがあるのですが、正直にいいますと、(価格差分は)取り返せません。30年乗っていただけるというのなら話は別ですが、PHEVが総合的なコストでガソリン車を上回ることはないんです。

ただ、電気代とガソリン代の差を考えると、ランニングコストでPHEVに分があることは間違いないです。自動車税も2年間は減税になりますので、ご購入後の家計への影響という意味では、少なくて済むと思います。

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    PHEVを買って元を取るのはかなり難しいらしいが……

――なるほど。PHEVの方が総合的にお得ですよ、とはいえないわけですね。

山さん:はい。でも、乗り味、静かさ、なめらかさ、レスポンスの良さなどで見比べてもらえれば、PHEVは車格が1クラス高いクルマであるかのように感じてもらえると思います。

――お得感よりも車格感で訴求したいと。

山さん:私が販売会社で営業をしていたときは「アウトランダー」しかなかったんですが、お客様にガソリンエンジン車とPHEVを乗り比べていただくと、よく「PHEVのほうは高級車に乗っている感じがする」といっていただけました。もともとガソリンモデルの購入を検討していた方でも、PHEVに試乗してみるとその違いにお気づきになり、「当初の予算はオーバーだけど、こっちにしよう」といっていただけるケースも結構あったんです。

――価格差に納得してもらった上で、PHEVを選んでもらえるケースが多かったんですね。

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    PHEVには乗らなければ分からない魅力があるようだ

――エクリプス クロスのPHEVって、いいタイミングで発売になったといいますか、何か追い風のようなものを感じていませんか? まず、SUVはブームというよりも自動車市場の主流になりつつあるような気がしますし、同じくSUV×PHEVという組み合わせのトヨタ自動車「RAV4」は、発売と同時に売り切れるほどの人気ぶりでした。それに、ここへきてクルマの電動化に関するニュースが増えています。エクリプス クロスは大きすぎず、日本で運転しやすいサイズ感である上、価格もRAV4や輸入車のPHEVより安いので、注目を集めるのではないでしょうか。

山さん:クルマの開発期間は大体、3年くらいかかるものなのですが、正直にいいますと、トヨタさんがRAV4にPHEVを追加するという情報は、つかめていませんでした。なので、「先に出されてしまった!」という感じはあったのですが、RAV4のPHEVが出てから新型エクリプス クロスの発売までには時間があったので、価格戦略も含め、考える時間があったとはいえると思います。

SUVのPHEVという意味では、これまで「アウトランダー」のみでやってきたのですが、エクリプス クロスにPHEVを追加するにあたっては「エントリーPHEV」という位置づけにして、世の中にもう少し、PHEVを広げたいという思いがありました。トヨタさんが「RAV4」で奇しくも宣伝してくださったおかげで、そういう意味でもPHEVの知名度は上がっていると思います(笑)。

  • トヨタの「RAV4 PHV」

    トヨタ自動車が6月8日に発売したプラグインハイブリッド車「RAV4 PHV」。469万円~539万円で月間販売目標は300台だったが、生産能力を上回る受注が入ったため、年度内の生産対応分をもって受注を一時停止している

――RAV4の一件で「PHEVってよさそうだな」と思った人もいたでしょうね。

山さん:エクリプス クロスのPHEVは約380万円からの設定ですが、補助金を受け取ると実質的には360万円くらいからというスターティングプライスになります。そうすると、RAV4であればハイブリッド車(HV)と同じくらいの価格になるんです。エクリプス クロスはコンパクトSUVとして発売したので、「RAV4がライバル」などとはいったこともないのですが、価格戦略で考えると、1クラス上のSUVのHV勢までを巻き込んで戦いを仕掛けていけるのかなと思っています。

新型エクリプス クロスは前型に比べ、全長が140mm伸びて4,500mmを超えています。これにより後席の足元や荷室は拡大していますし、サイズ的にも実際の使い勝手としても、車格が上がったと感じていただけると思います。HVに対してPHEVは、補助金が出ること、EVとして長い距離を走れること、「V2H」(Vehicle to Home=専用の機器を使ってクルマから住宅に給電する機能のこと。エンジンでの発電も合わせると最大10日分の電力が取り出せるそうなので、停電のときなどに心強い)を使えることなど、商品力としても十分に戦っていけると考えます。

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    新型「エクリプス クロス」のボディサイズは全長4,545mm、全幅1,805mm、全高1,685mm

――ガソリンエンジン車との外観上の違いは、PHEVのロゴが入っているかどうかくらいですね。PHEVの特別感は、もう少しあってもよかったのではないでしょうか? 例えば、車体の一部を青や黄色にして、クリーンな感じや電気で走る感じを表現するとか……。

山さん:当社としては今後、クルマを電動化していくにあたり、PHEVを当たり前のものとしていきたいんです。だから、特別な差異化は行っていません。ただ、特別感が欲しいという話もありましたので、PHEVの最上級グレードではボディ下部をボディ同色で塗装しています。

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    ボディの下の方がボディカラー(ホワイトダイヤモンド)と同色で塗装されている。他のグレードだと、この部分は黒い

――月間販売目標は1,000台ですが、そのうちPHEVは何割くらいの想定ですか?

山さん:7割くらいです。

――もしも、PHEVの人気が想定以上で、思ったよりも台数が売れた場合、バッテリーが足りなくなるなどの理由で、販売を一時休止にしなければいけなくなるような可能性はありますか?

山さん:今のところ、供給面に問題はないです。むしろ、「もう無理です」っていうくらい売れて欲しいですね(笑)。