ストレスは自律神経を乱し、交感神経が過剰に優位になることで血管が収縮。血圧や血糖値を高め、血管を傷つけて心疾患や脳疾患の原因となる怖いものです。血流の悪化により全身の細胞に栄養と酸素が行き渡らず、内臓をも傷つけます。そして、腸の蠕動運動の働きが弱くなることで便秘などの原因となり、腸内環境を悪化さてしまいます。
腸内環境と免疫力は密な関係にありますから、ストレスというのは免疫力を高める妨げになるものなのです。もちろん、ストレスを完全にゼロにすることはできませんから、真っ正面から受け止めていたら身が持ちません。大切なのは、ストレスをうまく受け流すこと——。自律神経研究の第一人者として知られる、順天堂大学医学部教授・小林弘幸先生がおすすめする、免疫力を高める「昼の習慣」を紹介します。
■怒りが収まらないときは、階段を上り下り
「怒り」を覚える瞬間は、仕事をしていれば誰にだって当然ありますし、プライベートでも起こります。
しかし、「怒り」はなにひとつ恩恵をもたらしません。爆発的な感情で乱れた自律神経は、およそ3時間は交感神経が異常に優位になったまま元に戻らないといわれています。そして血管の収縮、血圧上昇、血糖値の上昇によって、自分の血管と内臓が傷つき、ひいては健康と免疫力が損なわれるだけなのです。また、血圧の上がり方も激しいため、脳梗塞や脳出血、心臓発作の引き金にもなり得ます。
周囲の人間にとっても不快でしかないそんな感情は、さっさと振り払ってしまいましょう。
対話中の怒りであれば深呼吸をするなどして、ゆっくりと話をして、努めて冷静に相手と向き合うことです。それでも収まらない怒りは、身体を動かして整えます。
職場であれば非常階段に行き、1~2フロア分の上り下りを行いましょう。ゆっくりとリズミカルな動作を繰り返し、副交感神経を働かせていきます。ただし、激しく上り下りすると交感神経を刺激してしまうので注意してください。
このほか、癒しの音楽を聴くなど、怒りを鎮める方法はたくさんありますが、まじめな人、正義感の強い人ほど、なかなか怒りを手放せないことがあります。
そんなときは、自分の怒りを「自律神経のせい」にしてしまいましょう。自分の忍耐力の弱さや性格をなげく必要はありません。感情は人間のホルモンや神経が生み出すものであり、怒りは自律神経の乱れが引き起こす歪みに過ぎないのです。
怒りに向き合って貴重な時間を費やすより、自分が楽しいと感じることに時間を費やすべきです。
■座り過ぎに要注意! すきま時間のストレッチで腸を動かそう
デスクワークの人にとってはあたりまえの、長時間の座り姿勢。実は、肥満や糖尿病、がんや心筋梗塞、狭心症などのリスクを高めることがわかっていて、世界保健機関(WHO)でも警鐘を鳴らしている危険な習慣です。
さらに、座ったままの姿勢でいることは、腸の蠕動運動を滞らせます。午前中は交感神経の働きで止まっている腸も、昼食後には蠕動運動をはじめなければならないのに、座り姿勢が続くことでその活動が停滞してしまうのです。
そこで、たまに席を立って、後屈・前屈のストレッチで身体を動かしましょう。お腹の上段(肋骨のすぐ下)をつかんでぎゅっとしぼり、息を大きく吸いながら後屈し、息を吐きながら前屈します。続いて、お腹の中段(おへその真横)、下段(腰骨のすぐ上)と手でつかむ位置を変え、上段・中段・下段それぞれ8回を目安に行います。
お腹の深部に手で圧力をかけることで腸を刺激し、蠕動運動をうながすことができます。
■30秒のタッピングで、いつでも手軽にリラックス!
さらに手軽なリラックスの手段は、「タッピング」です。顔や頭を指で30秒ほどトントン叩くだけ。仕事中なら、トイレに行ったときがちょうどいいかもしれません。
顔や頭には副交感神経の働きを高めるツボがたくさんあります。ツボを刺激することで自律神経のバランスを整え、腸の働きも改善しましょう。
タッピングは仕事中だけでなく、出勤前や眠る前など、いつでも行って構いません。とくに、毎食後にタッピングを行うと消化・吸収がスムーズになるのでおすすめです。ただし、行う前後には必ず手指を清潔にしてください。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 写真/川しまゆうこ イラスト/えんぴつ