話題は、同社のニューノーマルにおける働き方の改革に移る。

山本氏は、「全社員がリモートワークネイティブな働き手として生き生きと働く姿を目指して、4つの軸で具体的な改革を進めています」と語る。

4つの軸で具体的な改革

4つの軸とは、「Open」「Flexible」「3C」「Digital」だ。

  • ニューノーマルにおける働き方の検討軸

Openでは、コミュニケーションやマネジメントのあり方を指し、オープンなコミュニケーションと対話型マネジメントの定着を目指しているという。

Flexibleは、制度やルール面の整備だ。時間や場所にとらわれない働き方を実現する、制度やルール作りを目指しているとのこと。

3Cは発想・創造・コラボレーションを指し、これをキーワードにオフィスのあり方を見直していくという。

Digitalは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ活用を指す。まだ紙が残っているプロセスの電子化や、データ活用により、効率的で効果的な仕事のやり方を目指すとしている。

1つ目軸「Open」

1つめの軸のOpenについて、山本氏は「リモートだからこそオープンであることが求められます」と語る。意識して情報をオープンにし、オープンに会話していくことで、情報格差が無くなりスピードや生産性に繋がるという。

マネジメント面では、メンバー個々の対話を大事にすることで、仕事に対するモチベーションの向上を目指しているとのこと。

これらについては、何か1つの方策で万全ではなく、多様な角度からの取り組みが必要だと考えているという。

その実現のために、「リモートワークハンドブック」「Planner」「1 on 1(ワンオンワン)」「NeWork(ニュワーク)」「Thanks Go」「パルスサーベイ」「健康施策」の7つの仕組みを通じて取り組んでいると山本氏は語る。

  • コミュニケーションやマネジメントを支える仕組み

1番目のリモートワークハンドブックは、読んで字の通り、リモートワークならではのTipsやマナーをまとめたもの。その中には例えば、オンライン会議の参加者のうち1人だけがリモート参加だった場合の運用ルールがあり、山本氏によると「リモート参加者が疎外感を感じないための配慮」だという。

オンライン会議は他者との同期が必要な場合に実施するが、同期が必要無い場合はチャット使用を推奨しているとのこと。ただし、その場合も情報格差を少なくするため、1対1のチャットよりもメンバー全員が含まれるチャネルなどの利用を推奨している。

  • リモートワークハンドブック

この他、ITシステムの利用による資料のバージョン管理の自動化やリアルタイムの共同編集を進めたり、雑談を推奨したり、多様な環境への理解や尊重を求めているとのこと。

こうしたことをマナーやルールとして定着させることで、リモートワークをストレス無く、かつ生産的にできると山本氏は語った。

続くPlannerは、マイクロソフトのタスク管理ソフトだ。

リモートワークでは「仕事の状況が見えず不安だ」「見えないから効率がよくない」という声が聞かれるが、NTT Comでは業務の可視化がリモートワークの生産性向上に非常に重要だと考えているという。

そのため同社は、Plannerで業務を可視化しているとのことだ。これにより、各自のミッションやタスクの保有状況や進捗が可視化でき、重複作業などを減らせる上に、誰かに相談したり連携しやすくなったりすると山本氏は解説する。

また山本氏は、部署を管理するマネージャーにとっても、進捗が見えることでサポートしやすくなるというメリットがあると語った。

  • Microsoft Plannerによる業務の可視化

3つめは、1 on 1ミーティング。山本氏によると、これは「メンバーが主役の、メンバーのための時間です」とのことだ。

これを通じて認識や方向性のすり合わせに加えて、メンバーが力を発揮するための支援、体調面や精神面のケア、さらには心理的な安全性の向上などを目指しているという。

この取り組みはまだ開始したばかりだそうだが、「この1対1の対話によるコミュニケーションを通じて、一人一人の継続的な成長を支援してきたいと考えています」と、山本氏は今後の展開を示唆した。

  • 1 on 1ミーティングの様子

4つめのNeWorkは、同社が2020年8月に提供開始したオンラインワークスペース型のWeb会議サービスだ。リモートワークでは、職場の様子を見られない、他の人の声が聞こえない、気軽に話しかけにくいといったもどかしさを感じやすいが、同サービスではこうした不満を解消してくれるという。

同サービスでは、部屋やメンバーの様子をひと目で把握でき、誰がどういう状況にあるかもわかるとのこと。これにより、ちょっと話しかけたり集まって議論したりといった、以前のオフラインでの働き方に近いことができるという。こうしたことから、新たなひらめきが生まれたり課題解決の糸口がつかめたりといった、同サービスの魅力を山本氏は語る。

  • NeWorkのイメージ

山本氏は同サービスについて、「リモートワークネイティブを目指す私たちにとって、無くてはならないツールになるはずです」と力説した。

5つめのThanks Goは、同社のグループ会社であるPhone Appliのサービスで、NTT Comは2020年10月に導入し始めたとのこと。これは、感謝の気持ちを贈り合うサービスで、「リモートワークだからこそ感謝を言語化して伝えよう」(山本氏)との意図から導入したという。

  • Thanks Goのイメージ

「『ありがとう』は、魔法のギフトです。伝え合うことで仲間意識が高まりますし、仕事も円滑に進む。そんな潤滑油になってくれることを期待しています」と、山本氏はその将来性に期待を示す。

なお同サービスは、2020年10月から名称を「PHONE APPLI THANKS」に変更した。

6つめのパルスサーベイは、社員に対する定期的な調査。毎月同じ5つの質問に答えてもらうというもので、その内容は「職場の人間関係は良好ですか?」「よく眠れていますか?」といった簡単なものだ。

結果の良し悪しではなく変化に着目し、モチベーションやメンタルの変調の早期発見に繋げようという意図から実施しているとのこと。変調が見えた時には、上司が1 on 1ミーティングの場などで個別にケアし、必要に応じて外部の相談機関のサポートを受けられる体制を整えているという。

  • パルスサーベイのイメージ

7つめは、健康施策。リモートワークの広がりや外出自粛などの影響で「コロナ太り」が話題になるなど、運動不足への懸念が強まっている。

同社ではこれに対して、多様な健康施策を取り入れているという。例えば、同社のラグビー部であるシャイニングアークスの選手によるリモート体操や、歩く歩数を競う大会である「Com-Walk」、日々の食事に目を向けていただくための「Com-Meal」といった施策を展開しているとのことだ。

  • 健康施策

同社のリモートワーク施策の実例として、前述したNeWorkの開発チームがあるという。同チームは全員がリモートワークの環境の中、2カ月間で新サービスを開発したとのことだ。

プロダクトマネージャーを務めるアプリケーションサービス部の大野氏によると、同チームは内製でアジャイル開発ができるメンバーを複数の組織やグループ会社から20人ほど集めた、混成チームだったという。

オフィスでの顔合わせができず初めて会うメンバーもいたため、大野氏は迅速に開発を進めるため、チームとしてルールを明文化したり誰でも発言しやすい場を設定したりしたとのこと。

「これにより、全メンバーが一体となってワンチームでリモートの開発が進められたのではないかと考えております」と、大野氏は振り返る。

開発に際しては、オンラインホワイトボードなど各種のオンラインツールを駆使したとのこと。 沓澤氏は「なかなか全員で集まることができない中で、情報共有の一手段としてホワイトボードを活用したことは、非常に上手くいった案件でした」と語る。

フルリモートワークの状況下でスピーディーに開発するために、大野氏は開発メンバーとの会話の量を増やすよう心掛けたという。

「プロジェクトの期間が短く、ドキュメントを1から書き起こしてドキュメントができたら開発するといった流れでは間に合わなかったので、今回は開発メンバーととにかく会話を重ねて、会話でドキュメントを補完しながら進めていくという進め方をしました」(大野氏)。

  • NeWork開発チームの大野氏と沓澤氏

2つ目の軸「Flexible」

ここまでは、同社のニューノーマルにおける働き方に関する4つの検討軸のうち、1つめのOpenの領域についての紹介だった。

続いては、2つめのFlexibleについての解説だ。

これに関して山本氏は、「時間や場所にとらわれない、よりフレキシブルな働き方を実現すべく、見直しを行っています」と語る。

服務関係の制度の見直し

まずは、服務関係の制度の見直し。

その1つめは、リモートワークの回数制限の撤廃と、フレックスタイム制のコアタイムを無くして1日の最低勤務時間を3時間に見直したことだ。これにより、「時間と場所の柔軟性が格段に高まります」(山本氏)という。

  • 服務制度の見直しポイント

給与制度緒見直し

2つめは、給与制度緒見直しだ。

自宅でのリモートワークにより掛かる通信費や光熱費を目的に、リモートワーク手当を創設した。これは、リモートワークを実施した日数に応じて支払うとのこと。

併せて、通勤費も実費相当額に見直した。 通勤費の精算では、同社サービスである「Smart Go」を利用する予定という。 コーポレートカードを利用するため社員の立て替えを無くすことができ、モバイルSuicaと連携して申請の手間も軽減できると山本氏は語る。

  • 給与制度の見直しポイント

オフィスのあり方

3つめは、オフィスのあり方の見直し。

山本氏はリモートワークが常態化した現在、オフィスの目的を問い直して価値を再定義する必要に迫られているという。

3つ目の軸「3C」

3Cについて同社では、オフィスの価値を「Change」「Creation」「Collaboration」からなる「3つのC」のコンセプトにまとめ、今後のオフィス設計を行っていくことにしたとのこと。

Changeは、ギアチェンジ、マインドチェンジ、リセット/リフレッシュを意図しているという。

  • オフィスの関する3つのC

新たなオフィスは、自分でモードの切り替えやペースを上げたい時や気持ちをリセット/リフレッシュしたい時に来る場で、自らの能力を高める場であってほしいという意図を込めていると山本氏は語る。

Creationのコンセプトとしては、活発な議論により新たな着想を得たり、刺激を受けて新しい価値を生み出せたりする場にしたいという。

Collaborationは、共創・協働。最新のソリューションや製品を体感できるショーケースや、ユーザー企業やパートナー会社と技術や考えを交流し、一緒に新たな価値を創り上げる場にしたいとのことだ。

4つ目の軸「Digita」l

4つめのキーワードはDigital。同社の契約プロセスでは、社内の意思決定までは電子化していたが、その後は紙ベースだったという。

この電子化にあたり、まずSTEP1として電子帳簿保存法に対応し、これまで紙で保存していた契約書類を電子化して保存することから始めるとのこと。

STEP2では電子印影の投入、STEP3では検収サインの電子化など、社内で完結するものは全て電子化するという。

最終的には、顧客と取り交わす契約書も電子化し、紙が一切無くなるオール電子化を2020年度中に目指すと山本氏は語った。

また、社内の多様な問い合わせ業務も、チャットボットの導入により効率化に取り組んでいるとのことだ。

  • 契約プロセスの電子化