スバルが2020年8月20日に先行予約の受け付けを開始したスポーツワゴン「レヴォーグ」。フルモデルチェンジは10月15日の予定だが、すでにディーラーには多くの問い合わせが入っていると聞く。購入権当者からの注目を集めているのが、最新の安全運転支援機能「アイサイトX」だ。
高速道路の強い味方に?
実は、レヴォーグが搭載するアイサイトには、既存のアイサイトを正常進化させた進化版の「アイサイト」と、その進化版アイサイトにより高度な運転支援機能を組み合わせた「アイサイトX」の2種類がある。今回は、いち早く体験できた「アイサイトX」について紹介したい。
アイサイトXは、アイサイトのセンシング機能に準天頂衛星「みちびき」を使った高精度GPS情報と3D高精度地図データを組み合わせることで実現した運転支援機能だ。高速道路などの自動車専用道路で使用することができる。
アイサイトXで実現した新機能はまさに、自動車専用道路で「あったら便利だな」と思うものばかり。具体的には、渋滞中にステアリングを握り続けなくてもよくなる「渋滞時ハンズオフアシスト」、渋滞時に何度も繰り返す必要のある発進・停止を自動化する「渋滞時発進アシスト」、ウィンカー操作だけで自動的に車線変更を行う「アクティブレーンチェンジアシスト」、カーブや料金所の前に差し掛かると適切な速度に制御する「カーブ前速度制御・料金所前速度制御」、緊急時に車両を自動的に停車させる「ドライバー異常時対応システム」の5つの機能が使用可能になった。
操作は簡単。アイサイトの全車速域ACCとステアリングアシストを組み合わせた「ツーリングアシスト」機能を起動しているときに使用可能条件がそろうと、メーター内に専用アイコンが表示されるので、それを確認したらアイサイトX専用ボタンで機能を起動すればいい
次に、具体的な装備と機能を見ていこう。アイサイトX搭載車では、12.3インチのフル液晶メーターパネルが標準装備となっている。アイサイトXの機能と稼働状況を瞬時にドライバーに理解させるため、より多様な表示を実現する目的で採用となった装備だ。通常表示では、回転計と速度計の中央にアイサイトの機能を表示する。メーター表示モードを切り替えると、速度表示などをデジタル化してアイサイトを中心に表示させたり、メーターパネル全体に地図を表示させたりすることもできる。アイサイトの表示はアニメーション化されているので、状況はつかみやすい。
早速、アイサイトXの機能を体験してみた。テストコースでの体験だが、コース内は1方向にしかクルマが走行せず、人や自転車もいないため、条件は自動車専用道路と同等だ。
アイサイトの操作は基本的に、これまでと同じ。だから使いやすい。デジタルとなったメーターも視認性が良く、何よりアイサイト機能がアニメ化されたことで、分かりやすさと先進感が増した。もちろん、アイサイトX作動中も、渋滞時ハンズオフ以外の状況では常にステアリングを握り、前方を注視している必要がある。
まずはアイサイトXを起動し、車速とステアリングのアシスト制御を試してみた。直線や緩やかなカーブでは従来のアイサイト「ツーリングアシスト」でも滑らかな走行を見せてくれたが、きついカーブに遭遇するとドライバーがブレーキを掛けなくてはならなくなったり、一時的に機能がオフとなったりするケースがあった。
アイサイトXでは、その煩わしさが解消していた。カーブの手前で侵入速度が高すぎると、アイサイトXが適切な速度まで減速してくれるし、カーブを過ぎれば加速もしてくれる。つまり、アシスト機能を連続して活用できるように仕上がっているのだ。何より、そのスムーズな加減速には驚いた。「カーブ手前で急いでブレーキ」という感じではなく、よどみのない滑らかな走りなのだ。開発者によれば、アイサイトXの制御では「上手い人が運転している感覚」を重視したという。機械的な動きではなく、あくまで人の感覚を大切にしているのだ。
料金所の手前でも、速度が高すぎると減速してくれる。その際、どのレーンを進むかはドライバーがステアリング操作で選択しなければならないものの、直線道路上に設けられた料金所では、減速を行ってくれるだけでもかなり便利そうだ。もちろん、料金所通過後には設定速度まで加速してくれる。
自動車線変更アシストの「アクティブレーンチェンジ」は、ウィンカーを操作するだけで車線変更をしてくれる機能だ。ドライバーがウィンカーを出すと、アイサイトXは進入する車線と前後車両を確認。安全と判断するとステアリングを制御し、車線を変更してくれる。もちろん、その動作も滑らかだ。後続車の接近などにより車線変更が危険だと判断した場合は警告を出し、車線変更を行わない。
高速道路で最も煩わしく、ドライバーが疲れを感じやすい状況といえば、やはり渋滞だ。アイサイトXでは、時速約50キロ以下で条件がそろうと、渋滞時ハンズオフ機能が作動し、画面内の表示でドライバーに知らせる。この時点で、ドライバーはステアリング操作から解放される。
もちろん、ドライバーには前方を監視する義務があるので、アイサイトXは車内の赤外線カメラでドライバーの視線の方向を監視している。もし前方を注視していないと判断すれば、警告を出す。それでもドライバーが反応しなければ、システムがOFFになる仕組みだ。それでも、ドライバーとしては、前走車に合わせた細かな運転操作から解放されるメリットは大きいと感じた。
最後は「ドライバー異常時対応システム」だ。これは、もしもの時にクルマを安全に停車させる機能であるため、今回は疑似的に、運転が行えなくなったドライバーを装うため、右側の窓から外を見ていた。すると、すぐに車両はドライバーにステアリングを握るよう警告を発し、それでも対応しないと、緊急停止機能が作動。ゆっくりと減速をしながらホーンで周囲に警告しつつ、車線内走行を維持しながら、最終的には停車した。
減速から停車までは、ハザードとホーンで周囲に緊急状態であることを周知する。停車時もハザードとホーンによる周囲警告は継続し、電動パーキングブレーキで車両を完全停車させた後はアクセル操作の無効化まで行う。決してお世話になりたくない機能だが、乗員の安全確保だけでなく、2次災害を防ぐという意味でも効果は大きいだろう。
余談ではあるが、システム作動のために視線を外してみて感じたのは、クルマの制御の自然さだった。まるで、助手席に乗っているような気分になるほど、その制御はスムーズ。それだけ、アイサイトXの運転支援は人の運転感覚に近いのである。
「アイサイトX」は安全運転のお手本?
アイサイトXの高度運転支援機能は、これまでのアイサイトに比べると、より自動運転の未来を感じさせるものとなっていた。ただ、スバルらしいのは、「自動運転」であることを強調していないところ。あくまでドライバーの疲労を軽減し、運転や目的地での活動を楽しんでもらうためのサポートという位置づけなのだ。
もちろん、アイサイトXも万能ではない。地図データのない新しい自動車専用道路やGPSが捕捉できないトンネル内などでは、同機能が利用できないからだ。それでも、新型レヴォーグから採用が始まるアイサイトXはロングドライブの際、従来のアイサイトよりも頼れる存在になっていることは間違いない。
さらに、今回はアイサイトによる新たなメリットも見いだせた。それは、アイサイトXのスムーズな運転が、ドライバーの良き手本となる可能性だ。慣れれば慣れるほど、ドライバーは自己流の運転をしてしまいがち。その点、アイサイトXの運転支援は穏やかで、乗員も快適な運転制御ができている。ドライバーは前方監視義務があるため、アイサイトXの動きを注視している必要があるので、アイサイトXの制御と自身の運転とを照らし合わせ、気が付くこともあるのではないかと考えたのである。
それだけ、アイサイトXの運転支援は作り込んであると感じられたのだ。だからこそ、公道でどれだけの腕前を披露してくれるのか、気になって仕方がない。早く、リアルワールドにおけるアイサイトXの実力と疲労軽減効果を試してみたいと感じた試乗体験であった。