たかが目玉焼き、されど目玉焼き。いざつくってみると卵の黄身の位置がずれたり、黄身が割れたり、固くなりすぎたりして、ちょうどいい塩梅に仕上げるのが、意外に難しい。ハムエッグやベーコンエッグのほか、ハンバーグやナポリタンの上に載せて味の変化を楽しめるのも目玉焼きの魅力。自宅でも、お店のように黄身がとろとろのまま、真ん中におさまった状態に仕上げる方法を、日本橋たいめいけん三代目茂出木浩司シェフに聞いてみた。

  • プロが教える卵料理の基本ワザ /たいめいけん茂出木シェフ直伝! とろり目玉焼き

名店の伝統を守りつつ、常に進化を目指す

よく三代目が店をつぶすと言われますが、僕自身テレビ出演やデリカの出店などいろいろな挑戦をして、日本全国に「たいめいけん」という名前を広めることができました。祖父の代から続く「たいめいけん」の味を、しっかり守ることはあたり前。でも守るだけじゃなく、時代の変化を見据えて、自分で何ができるかを考え、いろいろな試みをしていくことが大事だと考えています。

コロナのこともありますし、老舗の名店だからといってどんどんお客様が来てくれる、という世の中ではありません。「たいめいけん」というブランド、伝統の味、お店の雰囲気、サービスを守りながら、今のお客様に評価していただき、ファンになっていただくために、日々切磋琢磨しています。今から作るハンバーグも昔は隠し味に日本酒を使っていましたが、いまはシェリー酒でフランベして味のアクセントにしています。

「たいめいけん」のハンバーグは牛ヒレ肉100%

材料(4個分)

●牛ひき肉………………………500g
●たまねぎ(小みじん切り)……1/2個
●A(つなぎ・調味料)
卵黄………………………………1個分
パン粉……………………………25g
牛乳………………………………大さじ2
ナツメグ少々
塩、こしょう少々
●シェリー酒……………………大さじ3
●バター…………………………大さじ2
●サラダ油………………………適宜
●デミグラスソース……………適宜
●にんじんのグラッセ(お好みで)
●いんげん(お好みで)
●フライドポテト(お好みで)

ではハンバーグをつくっていきます。今日はあらかじめ焼ける状態にしていますが、ご自宅でタネから作る場合は、まずみじん切りしたタマネギをバターでさっと炒め、さましておきます。次にボウルに牛ひき肉、炒めたタマネギ、調味料(レシピA)を入れたら、手で勢いよくかき混ぜ、粘りが出るまでよくもみ込みます。次にこれを4等分したら、団子状に丸めて両手でキャッチボールするようにして空気を抜きます。まな板の上で形を整えて、厚さ1.5cmの小判型にします。

お店では山形牛のヒレ肉100%のミンチを使用していますが、ご家庭では合い挽きなどお好みで大丈夫です。では焼いていきます。フライパンにハンバーグがひたひたになるくらい、たっぷりめのサラダ油を入れて熱し、静かにハンバーグを入れます。火が通りにくい真ん中部分を指でへこませます。

フライパンをゆすって火のあたる位置を変えながら、強火で片面を焼きます。きれいな焼き色がついたら裏返し、さらに焼き色をつけた段階でいったん油を捨てます。

次に新しい油を少し足して、200度のオーブンに入れ、中まで火を通します。オーブンがない場合は、フライパンにフタをして、弱火で4~5分間蒸し焼きにします。

その間に付け合わせのベーコンを焼きます。お店ではハンバーグにヒレ肉を使用しているので、脂を補完する意味でベーコンを付け合わせますが、合い挽き肉の場合はなくても大丈夫です。

ベーコンはベーコンプレスを重しに使うときれいに仕上がります。ない場合は替わりにアルミ鍋などの底を使っても結構です。ベーコンはカリカリになるくらい、しっかりと焼いたほうがおいしいです。

ハンバーグを竹串で刺してみて、澄んだ汁が出てきたらオーブンから取り出します。油を捨てて強火にして、風味付けのシェリー酒をふり入れ、アルコール分を飛ばします。

初代の頃は日本酒を使っていましたが、ここしばらくはシェリー酒でフランベしています。お店ではティオペペという、飲んでもおいしいお酒を使用しています。

目玉焼き専用のフライパンを使用

では本題の目玉焼きです。これは目玉焼き専用のフライパンで焼きます。お店では中尾アルミというメーカーの一人前用の小さなフライパンを使用しています。卵を割るときには器を二つ用意して、黄身と白身に分けておきます。

【目玉焼きをきれいにつくるポイント】

フライパンに少し油をひいてまず白身を先に焼きます。焼けてきたらセンターに黄身をゆっくりと載せていきます。分けなくてもできますが、こちらのほうが確実に黄身が真ん中に来ます。

黄身はあとでデミグラスソースと合わせるので生の状態で大丈夫です。最後は目玉焼きがフライパンからはがれるように強火にし、白身が固まってきたらフライ返しで取り出します。全体で焼いている時間は約5分くらいです。

最後に付け合わせのにんじんのグラッセ、いんげん、フライドポテトなどを盛り付けます。盛り付けに関してはその人のセンスで大丈夫です。自分でおいしそうと思うバランスで盛り付けてください。最後に玉子焼きをハンバーグの上に載せたらハンバーグの完成です。

難局を乗り越えた先に、新しい「たいめいけん」がある

飲食業界にとってコロナの影響はかなり深刻な問題です。これから店を閉じる同業者も少なくないでしょう。僕の場合、意外に?危機対応能力には長けていて、飛沫防止シートの情報をキャッチした瞬間に業者を手配して、3日後にはお店に配置を終えていました。コロナには絶対負けたくなかったので、マスクも無償で配ったり、アルコール消毒などもいち早く徹底するようにして、感染対策を万全にしたうえで営業を継続しました。

おかげさまで従業員、お客様に感染者は出ていません。これからも厳しい戦いが続きますが、新店の予定もありますし、日本橋の再開発に伴って本店も近い将来、生まれ変わる予定です。ここはみんなで助け合って難局を乗り切り、いつかこの時代を振り返って、笑い話にできる日が来たらいいなと心から思います。