世界中で、新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務が浸透したことで、テレワークに対する長年の誤解が解消されました。かつて、オフィス外では業務が遂行できないのではないかと疑っていた経営陣や管理職が、現在ではテレワークが従業員の生産性、緊急事態におけるBCP対策、ワークライフバランス、精神的な健康、コスト、および環境に及ぼすメリットを認識したように見受けられるからです。

しかし、日本生産性本部が7月21日に発表した調査「働く人の意識調査」(第2回)の結果によると、回答者の75.6%が新型コロナウイルスが収束した後もテレワーク続けたいという意向を示すなか、テレワークの実施率は5月調査時の3割から2割まで減少し、緊急事態宣言解除後にオフィス回帰が進んでいることが明らかになりました。

  • コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか 資料:日本生産性本部「働く人の意識調査」(第2回)

  • テレワークの実施率 資料:日本生産性本部「働く人の意識調査」(第2回)

政府もテレワークを推進していますが、このように、日本企業ではテレワークが定着していないのが実情です。そこで、データを基に、企業が今後もテレワークを続けるべき3つの理由を説明しましょう。

費用削減が可能に

Gartner Groupが実施した調査によると、CFOの74%が新型コロナウイルス収束後も人員とコスト管理計画の一環としてテレワークの恒久化を検討しています。また、Citrixが米国でCentre of Economics and Business Research(Cebr)の協力で行った調査によると、週に2日をテレワークにするだけでも、ガソリン代と通勤費および通勤時間がなくなることによって1,070億ドルを超えるコスト削減というベネフィットを従業員が得られていることが判明しました。

加えて、BYOD(私物端末の業務利用)の推進もコスト削減の一環と言えます。BYODはハードウェア、通信、およびサポートとトレーニングの3つの分野で費用削減に貢献する可能性があります。Cisco SystemsのInternet Business Solutions Groupによれば、BYODの導入により、企業が削減可能な金額は従業員1名当たり年間3,150ドルと推定されています。これにはデバイス本体の費用、データ接続プラン、および従業員1名当たり年間1,518ドル相当の時間の節約が含まれています。

BYODはコスト削減だけでなく、生産性にも貢献すると言われています。具体的には、モバイルワーカー間のコラボレーションを通じ、1日当たり1時間相当の生産性向上あるいは生産性の17%向上をもたらすと推定されています。

新たな人材プールの確保

テレワークを導入することで、地方在住者、子育て・介護従事者、定年退職者、およびギグワーカーなど、従来の雇用対象から外れた人々が採用対象となります。Cebrはこのような未開発の人材プールを活性化することにより、米国経済にGDPの10.2%に相当する2兆ドルを超える効果が生じると予想しています。

日本においては、2025年には約800万人いる団塊の世代が後期高齢者(75歳)となり、総人口に占める65歳以上の人口の割合が現在の26.9%から30%へ上昇すると推計され、日本は超高齢化社会を迎えます。いわゆる「2025年問題」が切迫し、労働力の不足が議論されています。

2019年にCitrixが米国で調査会社OnePollと協力して5000人のナレッジワーカーを対象にした調査では、回答者の86%が、キャリアの成功に影響を与える要因として「年齢」を挙げています。さらに、回答者の69%は「障害や健康上の問題」をキャリアの進歩に影響を与える可能性があると回答しています。柔軟な働き方を採用することは、労働人口を維持していく上では必須であり、働き手に不安や負担がかからず、どこからでも働ける在宅勤務システムの整備は、喫緊の課題と言えます。

SDGs(持続可能な開発目標)がさらに進展

Citrixが、ウォーリック大学コンピュータサイエンス学部で行った調査では、週に2日をテレワークにするだけでも教職員の通勤から発生する二酸化炭素排出が40%削減され、柔軟な勤務形態による二酸化炭素排出の削減は年間2億1,400万トンに達するという推計もあります。

米国企業の1000名を対象にした調査では、ミレニアル世代の4割近くが企業の持続可能性を理由に仕事を選んでおり、従業員の10%以上が、5000~1万ドルの減給を受けても構わないと答えています。1997年以降に生まれた人々を指すZ世代と言われる若い人材は、給与額よりも企業の倫理面を重視し、環境への関心も高く、環境に責任を持つ企業を選択する傾向があります。

テレワークは、プリンタで使用する紙や排気ガスの削減など、環境問題に効果的な面も多く、テレワークを導入する企業は、SDGsに取り組む会社としてのブランディングも可能です。

また、Citrix Canadaが調査会社のOnePollと連携して750人のカナダ人ワーカーを対象として、リモートワークに関して行った調査では、Z世代のうち、83%はリモートワークが可能な企業を好むとし、また66%はグリーンイニシアティブを重視する企業で働きたいと回答しています。

企業が最高の人材を獲得するとともに、既存の人材を維持したいと望むなら、これらの調査結果を認識することが極めて重要になります。

仕事は、私たちが集まる場所ではなく、私たちが行うものです。在宅勤務やテレワークに対する懐疑的な見方や誤解がいまだに多く、利用可能なテクノロジーやコラボレーションツールの数々に対する混乱もあります。しかし、柔軟性のある仕事の採用を加速させ、「労働力」という言葉の理解を再定義できるように、ビジネス文化の核心にどのように取り組むかについて話し合う必要があるように思えます。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)


シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社
セールスエンジニアリング本部 エンタープライズSE部 部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセールスとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。