東武伊勢崎線の久喜駅を発着し、東武スカイツリーラインから東京メトロ日比谷線へ乗り入れる有料座席指定列車「THライナー」。デビュー当日の6月6日、報道関係者向けの乗車体験会も行われ、筆者も「THライナー」の乗り心地を体験することができた。

  • 「THライナー」に使用される東武鉄道の車両70090型

「THライナー」は現在、午前の時間帯に久喜発恵比寿行2本、夕方以降の時間帯に霞ケ関発久喜行5本を設定しており、運転時刻は平日・土休日で異なる。デビュー当日は午前の久喜発恵比寿行で霞ケ関駅まで乗車したが、平日の夕方以降に運転される「THライナー」の利用状況も知りたい。デビューから約1カ月が経過した7月の平日を利用し、霞ケ関駅から久喜駅まで「THライナー」に乗車した。

■「THライナー」70090型、ロングシートで各駅停車の運用も

今回、筆者が乗車した列車は、霞ケ関駅を19時2分に発車する下り「THライナー3号」。駅に着いた後、乗車まで時間があったので、ホームで列車を眺めていたところ、「THライナー」に充当される東武鉄道の車両70090型を見かけた。日比谷線内を各駅停車として運行され、車内の座席はロングシートになっている。背もたれが頭の高さまであり、体を預けて座る乗客の姿も見られた。

  • 70090型の車内。「THライナー」以外での運行時、座席は6人掛けのロングシートになる(画像 : 東武鉄道)

霞ケ関駅のホームで見かけた中目黒方面の列車のうち、2本が70090型だった。その後、2本中1本が各駅停車の北越谷行となって戻ってきた。2本目の70090型が「THライナー3号」として来るようだ。

70090型はロングシート・クロスシートに転換可能な座席を車内に備える。リクライニングはできないものの、背もたれが付いていることもあり、通勤用の車両としては座り心地が良い。クロスシートで使用する際、足もとのペダルを踏みながら回転させ、座席を向かい合わせにすることもできる。

  • 赤い座席がクロスシートとなり、向きも変えられる(6月6日の乗車体験会にて撮影)

  • 青い座席の優先席も座席指定の対象に(6月6日の乗車体験会にて撮影)

車内でフリーWi-Fiも利用可能。クロスシートで「THライナー」として運行される際、ドリンクホルダーとコンセント(AC100V)、荷物フックも使用できる。

「THライナー」は乗車券の他に座席指定券が必要で、料金は日比谷線内の停車駅から新越谷駅、せんげん台駅まで大人580円・こども300円、春日部駅、東武動物公園駅、久喜駅まで大人680円・こども350円。2社をまたぐこともあり、少々割高になってしまうが、JR線の東京~久喜間における平日のグリーン料金780円と比較すると若干安く済む。「THライナー」は全席指定のため、確実に座れる安心感もある。

  • 車内ではフリーWi-Fiを使用可能(6月6日の乗車体験会にて撮影)

  • ドリンクホルダーとコンセントも設置(6月6日の乗車体験会にて撮影)

  • 荷物フックも取り付けられている(6月6日の乗車体験会にて撮影)

「THライナー3号」は19時ちょうどに霞ケ関駅のホームへ入線してきた。筆者が予約した座席は6号車にある。先ほど見かけた各駅停車とは違い、「THライナー」として戻って来た70090型の車内はクロスシートに転換されていた。入線後すぐに発車時刻となり、「THライナー3号」はほぼ定刻に霞ケ関駅を発車する。始発駅とはいえ、停車時間が短いので乗り遅れないように注意が必要だろう。

■混雑する日比谷線を「THライナー」が急行運転

霞ケ関駅を発車した「THライナー3号」は、日比谷線内の銀座駅、茅場町駅、秋葉原駅、上野駅に停車。すべて乗車専用駅となっている。急カーブの多い地下区間をゆっくりとした速度で、大きくフランジ音を鳴らしながら「THライナー3号」は走る。銀座駅までは乗客が少ないように感じられたが、築地駅から一転して増え、徐々に混みつつある様子がうかがえた。

筆者が乗った「THライナー3号」の6号車も次第に乗客が増え、上野駅を発車する時点で、満席とまではいかないものの、約半分の座席が埋まった様子だった。この乗車率のまま、次の停車駅である新越谷駅まで、ほぼノンストップの運転となる。

  • 東京の地下を曲がりくねりながら走行(6月6日の乗車体験会にて撮影)

  • 北千住駅で乗務員交代が行われる。乗客の乗降りはできない(6月6日の乗車体験会にて撮影)

高架に上がって南千住駅を通過した後、進行方向右手から東武スカイツリーラインの線路と列車が見える。やがて北千住駅のホームに入り、「THライナー3号」は停まるが、乗務員交代が行われるだけでドアは開かない。ホームを見ると、各駅停車を待つ利用者の列ができており、帰宅ラッシュの時間が続いていることを実感した。

■東武スカイツリーラインを快走、70090型の普通を抜く場面も

北千住駅から先は東武スカイツリーラインとなる。「THライナー」は新越谷駅、せんげん台駅、春日部駅、東武動物公園駅に停車し、終点の久喜駅へ向かう。西新井駅の手前まで緩行線を走り、日比谷線内と比べて速度は上がるものの、先行列車との間隔が詰まることもあってか、しばらくは加減速を繰り返しながらの走行となった。

  • 西新井駅手前の渡り線(6月6日の乗車体験会にて撮影)

西新井駅手前の渡り線で緩行線から急行線に転線すると、次第に速度が上がる。草加駅では先行していた70090型の普通(北越谷行)を追い抜いた。同じ形式の車両でも、クロスシートの座席指定列車と、ロングシートの各駅停車という、性格の異なる2通りの運用を柔軟にこなしていることを再確認できた。

ここで筆者が乗っていた6号車の様子を確認したところ、スマートフォンを操作する人が大半だったが、中には乗車前に購入したお酒を飲む人、靴を脱いで楽な姿勢を取る人もいた。有料の指定席ということで敷居の高さを感じる人もいるかもしれないが、確実に座れる利点を生かし、たまには降車駅までゆったり過ごす日があっても良いのではないかと感じる。

「THライナー」は西新井駅、草加駅、越谷駅といった急行が停車する駅も通過する。新越谷駅に停車した後、越谷駅を通過する際、東京メトロ半蔵門線から乗り入れて来た急行を追い抜いた。せんげん台駅では3番線ホームに停車し、隣の4番線ホームに停車していた70000系の各駅停車と接続。70000系とその派生系列である70090型は外観が似ているものの、70000系は赤のカラーリング、70090型は黒のカラーリングが目立つため、違いがわかりやすい。

  • 春日部駅で東武アーバンパークライン(野田線)と接続(6月6日の乗車体験会にて撮影)

  • 和戸~久喜間では車窓に田園風景が広がる(6月6日の乗車体験会にて撮影)

春日部駅で東武アーバンパークライン(野田線)、東武動物公園駅で東武日光線の列車に乗り換えられる。東武動物公園駅を発車した「THライナー3号」は、終点の久喜駅へラストスパート。通過駅は1駅のみだが、駅間距離が長い。すでに20時を過ぎており、外は真っ暗でなにも見えなかった。

久喜駅が近づき、自動アナウンスが流れ始めた。「THライナー3号」は減速を開始し、右手の車窓に留置中の列車を見ながら2番線ホームへ。定刻通り20時19分の到着だった。久喜駅からは同駅20時25分発の特急「りょうもう43号」(浅草発伊勢崎行)、同駅20時32分発の普通(久喜発館林行)に乗り換えることができる。

  • 久喜駅に到着。あたりはすっかり暗くなっていた

平日夜間の下り「THライナー」に乗車してみて、満席とはならなかったものの、それなりの数の利用者がいた印象だった。東京メトロ日比谷線・東武スカイツリーラインを直通で利用する乗客の中にも、やはり「確実に座れる列車で目的地へ」と考える人はいるようだ。浅草駅発着の特急列車も多く運行される東武スカイツリーラインにおいて、都心の上野・銀座・霞ケ関方面へ直通する「THライナー」が沿線の利用者に定着するのかどうか。引き続き注目したい。