――ところで、そのもっと前、2014年頃ですが、芸名を変えられて、下の名前だけにされたと思いますが、そこにはどういう思いがありましたか?

深い理由はないんです。不便だったんです。

――不便?

そうです(笑)。長渕文音で最初にデビューして、2012年~14年までニューヨークに行っていて、そこでたくさんの演劇を学び、帰国するわけですが、日本の現場では常々思っていたことは、すごく単純なことなのですが、「長渕さん!」と呼ばれるわけですよ。「長渕さん入ります!」と現場で言われると、これが父のことを指す固有名詞になっていて、「長渕さん」と聞くと、頭の中に絶対「剛さん」が出てきますよね? それがすごく違和感というか、回りもざわついちゃうんです(笑)

――おっしゃるとおりですね。まず連想しますね。

そういうことが多々ありまして、同一人物が同じ業界にいたら名前を変えるみたいな、そういう感覚で改名しました。

――事務的な理由という(笑)

そうですね(笑)。苗字を取って独り立ちしてやろう、みたいなことではなく、周囲がざわざわすることが連続したので、それでただ変えただけです。

――我々素人の想像では、巨大な苗字が重いからとか、そういう勝手な想像をしていました。

ないです、ないです。固有名詞として成り立ってしまっているので、そういう意味でのやりにくさみたいなものを解消したかっただけです。

――今回のように主演作が決まった際に、ご報告などされているのでしょうか。何かアドバイスなどはありましたか?

私ももう大人なので、デビュー当時に比べたらアドバイスなどはないですね。ノータッチです。だから今回もまったくなかったです。基本的に、両親はほめないんです。この歳になるとあまり注意してくれる人もいないですし、ダメ出ししてくれる存在のほうがありがたい。それが私にとっては、両親。詳細には言わないですが、「もうちょっとあの芝居、考えたほうがいいんじゃないの?」みたいなことは言われるので、ありがたいなって思っています。

――ご両親の言葉で心に残っている一言はありますか?

デビュー前ですが、とにかく礼儀はちゃんとしなさいと。あいさつはちゃんとするように両親に言われました。俳優として、というより人としての礼儀です。そのあたりは、めちゃくちゃ厳しいです。礼儀、あいさつ、義理人情。そういう教育を受けて育ちました。

――そういうご両親の影響が、自分の表現に出ているなと思うことはありますか?

あります。母が仕事をしている姿は見ていないのですが、父親がひとつの作品に立ち向かう姿は見ていました。彼は本当にストイックだし、一切の妥協をしないし、自分が納得するまでとことん追求する性格なので、それは血として少なからず、私の中に入っているような気はします。

――あれだけの人々を感動させる音楽は素晴らしいですよね。

すごいと思います。私もひとりのアーティストとしてすごく尊敬していますし、本当に偉大な父親だと思っていますし、本当に背中が大きいんですよ。ずっと追いかけていきたいなって思っています。

――こういう女優になりたいみたいな目標はあるのですか?

なんでも器用にこなせればよいのですが、私は器用じゃないというか、すごく不器用なんですよね。だから不器用なりにいろいろなことができればいいなと思います。デビューの頃から言い続けていますが、リヴ・タイラーが大好きなんです。今彼女は表舞台に出ていないのですが、『アルマゲドン』でヒロインをやり、お父様(スティーブン・タイラー)がテーマ曲を歌っていて、あの関係性がすごくうらやましかったんです。

――なるほど、関係性が似ていますね!

もうそっくりなんです(笑)。彼女はリヴ・タイラーで名をとどろかせたわけですから、彼女の生き方がすごくかっこいい。生き方にロックなテイストも入っているし、少なからずお父さんの影響もあるのだろうなと思いながら、それはデビュー当時から変わっていない夢ですね。いつか私の作品で、主題歌やってもらえたらいいな(笑)

■プロフィール
文音(あやね)
1988年3月17日生まれ。東京都出身。父はシンガーソングライター・俳優の長渕剛、母は女優の志穂美悦子。2008年10月公開の映画『三本木農業高校、馬術部』(監督:佐々部清)の主役として女優デビュー。第33回報知映画賞新人賞、第32回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。2012年9月から1年半、ニューヨークへ演劇留学し、帰国後はドラマ・映画と女優としての活躍を広げた。近年の主な出演映画に『八重子のハミング』(16)、『イタズラなKiss THE MOVIEシリーズ』(16/17)、『ばぁちゃんロード』(18)などがある。本作『いけいけ!バカオンナ~我が道を行け~』でコメディに初挑戦した。