東京2020オリンピック・パラリンピックは、来年7月に開催されることになり、各競技の出場予定選手は、気持ちを新たに大舞台でのベストパフォーマンスを目指しています。

本企画では、そんな選手のお1人であるバレーボール女子日本代表登録メンバーの石井優希選手をゲストにお迎えし、選手たちを支えるメディカルスタッフの柱である整形外科の先生方とスポーツ障害について話し合っていただきました。

  • 石井 優希選手 2020年度バレーボール女子日本代表登録メンバー/久光製薬スプリングス所属

バレーボールではオーバーユースによる慢性の障害が多い

金子 「石井さんは現在、オリンピックに向けての第1回国内合宿に入っておられると聞いておりますが、そんな中、本日の座談会のために貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。石井さんは日本バレーボールのプロリーグ1部であるVプレミアリーグに所属する久光製薬スプリングスのアウトサイドヒッターで、2017/2018および2018/2019シーズンの優勝に大きく貢献され、2017/2018シーズンには最高殊勲選手賞も受賞されています。まず、石井さんとバレーボールの出会いについてお聞かせいただけますか」。

石井 「母親がママさんバレーをしておりまして、私が生後2カ月のときにママさんバレーの会場に連れていかれたと聞いていますので、それが最初の出会いということになります。そのママさんバレーに少年・少女バレーボールチームの監督をされている先生がおられましたので、小学2年生のときにご紹介をいただき、それから私自身もバレーボールを始めるようになりました。小学校のときには全国大会も経験し、中学校では地元である岡山県の大会でベスト8に入り、全国都道府県対抗中学大会や日韓交流戦のメンバーにも選んでいただきました。高校も岡山県の就実高校に進学し、春高バレーを2回経験した後に、卒業後は現在の久光製薬スプリングスに入りました」。

金子 「どんなスポーツでも怪我はつきもののようなところがありますが、石井さんは、これまでどのような怪我をされていますか」。

石井 「学生時代には左足首の捻挫と、左足の疲労骨折を経験しています。社会人になってからは、リオデジャネイロオリンピックの直前に右太腿の肉離れを起こしましたが、リハビリを続けながら、大会には間に合わせることができました。そのときの肉離れは陥没して見えるくらい大きかったので、その後もすこし癖になっている感じはあるのですが、それ以外に、これまで大きな怪我はしていません。自分ではバレーボール選手としてはあまり怪我をしないほうではないかと思っています」。

  • 金子 和夫先生 順天堂大学医学部附属順天堂医院副院長 同大医学部整形外科学講座主任教授 1979年順天堂大学医学部卒業。専門分野は股関節外科、人工関節

金子 「林先生はバレーボールのナショナルチームのドクターとして活躍されていますが、バレーボール選手では、どのような怪我が多いのですか」。

「バレーボールはラグビーやサッカーと違って相手チームの選手と体を激しくコンタクトさせることで起こる急性の怪我というのはあまりありません。しかし、ジャンプや着地といった同じ動作を繰り返すことで起こる慢性の怪我は非常に多いのです。特に肩、腰、膝の障害、足首の捻挫、ブロックによる指の脱臼・骨折が多く、肩はスパイクの打ちすぎ、腰、膝はジャンプ着地の繰り返し、あるいはレシーブで足が滑るなどの原因で発生し、これが5大障害とされています。ナショナルチームの選手男女を対象に毎年4~5月に行っているメディカルチェックの最近の結果では、(1)膝関節障害が23.6%で最も多く、次いで(2)足関節障害が21.6%、(3)肩関節障害が19.7%、(4)腰部障害が16.6%、(5)手指障害が14.0%の順になっています。男性では(1)膝、(2)腰、(3)足の順、女性では(1)肩、(2)膝、(3)足の順であり、男女差が認められます」。

  • 林 光俊先生 杏林大学医学部整形外科非常勤講師 1988年杏林大学大学院医学研究科卒業。バレーボールナショナルチームドクター

金子 「私は大学時代にラグビーをやっておりまして、現在も私たちの教室の医師が、ラグビートップリーグのチームや、いくつかの大学ラグビーチームのチームドクターを務めています。また、これは西尾先生から詳しく紹介していただきますが、いくつかのプロサッカーチームのチームドクターも務めています。やはり、ラグビーやサッカーなどと比べると、バレーボールで発生するスポーツ障害はかなり内容が違うという印象を受けますね」。

西尾 「私たちの教室ではラグビー、サッカーを筆頭に多くの医師が様々なスポーツをサポートさせていただいております。私も順天堂大学スポーツ健康科学部で様々な大学生アスリートをサポートする機会をいただいておりますが、それぞれのスポーツの特性に応じて、発生する怪我の内容も大きく異なります」。

慢性の障害では練習を休んだり、中止しにくい

金子 「では次に、実際に治療やリハビリに当たってのお話をお聞きしたいと思いますが、林先生は、バレーボール選手のメディカルチェックでは、どのようなことに最も気を使っておられますか」。

「慢性に起こる障害というのは、ものすごく予防が難しいのです。というのは、障害が発生しつつある過程でも、一応、プレーはできてしまうからです。スパイクにしろ、レシーブにしろ、いくらかパフォーマンスは落ちていても、まったくプレーができなくなっているわけではありません。ですから、傍からは何か気持ちが乗っていないように見えるし、選手も体の異変と考えるより、頑張って乗り越えなければと思ってしまいます。ですから、こうした状態でいち早く体の異変に気付き、それを指摘して、練習量を減らすか中止させ、必要なら治療に導くというのが、まずドクターに求められます」。

  • 西尾 啓史先生 順天堂大学医学部整形外科学講座 スポーツ健康科学部スポーツ科学科 2011年順天堂大学医学部卒業。専門分野は膝関節外科、スポーツ医学

金子 「石井さんにお聞きしますが、何か体の調子がおかしいと感じるときに、自分から練習を休むというのはなかなか言い出しにくいものですか」。

石井 「そうですね。練習を休むというのは、それで試合に出られなくなったりすることにもつながりますし、選手としては、なかなか自分から言い出しにくい面はあります」。

金子 「ただ、体に異変があるのに無理をして練習していると、大怪我につながる危険性があります。また、障害は軽度のうちに手当しないと、重度になってからでは治療しにくくなるということもあります。そういう意味から、ドクターは早め早めにストップをかけるというのは非常に重要なことだと思います」。

西尾 「大学生アスリートにおいても、スポーツの種類を問わず、アキレス腱炎や膝蓋腱炎を起こしているのに受診していないというケースが多いことに驚かされます。そして、その要因を探ってみると、やはり、多少の痛みはあっても頑張るのがスポーツ選手という意識が強いのですね」。

後編に続く。

※本記事は「久光製薬スポーツ座談会 トップアスリートが向き合うスポーツ障害から学ぶーバレーボール選手に多い怪我と予防法ー」より転載しました。