どんなタイプの製品設計においても、例えば走行距離の最大化が要求される電気自動車のセルから、プラント稼働率を維持するためにバッテリの長寿命化が不可欠なバッテリ駆動式IoTセンサまで、電源管理は電子機器のエンジニアにとって極めて切迫した課題となり、単に一組の静的な電源レールを設計するだけではすまなくなっています。

現在、電源設計者には、急速に変化する負荷条件に対応し、過渡電圧を抑えて厳しい許容誤差をクリアする電源レールを設計することが求められ、ますますスペースの制約が厳しくなる筐体にすべての部品を収めなければなりません。そこで今回は、コンバータノイズの管理、製造や認証に関する課題、基板面積のさらなる小型化というニーズに注目しつつ、電源設計者が直面している重要な課題をいくつか取り上げてみたいと思います。

はじめに

電源設計者の役割は変化し続けています。現在では、太陽光、環境発電技術、バッテリ、PoE、誘導充電、電力線といった幅広い動力源が利用できることに加えて、各電源レールの仕様という面でも、電源に関して対応すべき要件は大幅に多様化しています。半導体の革新が進み、ますます高度になったことで、パワーバジェットに関するニーズも広がる一方です。それは環境発電を動力源とする低消費電力の無線SoCデバイスから、演算処理を行うFPGAや推論プロセッサに使用される、シーケンス制御を備えた大電流の複数電源レールまで多岐にわたります。

過渡電圧とEMIへの対処

過渡電圧は、さまざまな動力源から供給される電源レールで発生する場合があります。

産業用モータ駆動に使用するような、電圧変化率の大きなスイッチングは、非常に大きな過渡電圧が発生する原因として知られています。受動部品で構成されるフィルタを使ってこのような過渡電圧を抑制しないと、スイッチングトランジスタ、関係するドライバや回路が永久的に損傷を受ける可能性があります。

入力電源を要求される出力電圧に変換するため、多くの場合、電源には降圧、昇圧、昇降圧といったスイッチングトポロジが使用されています。この電力変換手法は効率的で効果も実証されていることから、よく使用されていますが、スイッチング処理自体がEMIを発生させ、そのEMIが電源レールに伝わったり、放射されたりする場合があります。電源レールでのスイッチング過渡電圧には、従来のフィルタリング技術によって対処できます。しかし後述するように、高感度のモニタリング機器では、依然として回路の動作が過渡電圧により妨害されることがあります。放射ノイズによって回路設計は複雑になり、コストが増大する可能性が高まります。

たとえば、コンバータ回路の周囲に金属またはホイルによる遮蔽が必要になれば、新たな製造工程と部品コストが加わります。多くの場合、スイッチングレギュレータICの固定スイッチング周波数はおよそ1.5~1.8MHzです。この周波数はAM放送の無線帯域上端と重なるため、車載インフォテインメントの受信機のように、用途によっては問題の原因になる可能性があります。ただしこれは、問題を起こす可能性が低いスイッチング周波数のデバイスを選択することで解決できます。

Texas Instruments(TI)の「TPS6281x-Q1」はその一例です。このデバイスは車載用規格AEC-Q100に適合しており、デフォルトのスイッチング周波数は2.25MHzです。スイッチング周波数はレジスタを使用して1.8~4.0MHzの範囲で調節できます。スイッチング周波数を外部クロックと同期させることも可能で、コンバータ周波数が公称スイッチング周波数からプラス側に288kHzまでの範囲で不規則に変化する場合には、オプションで拡散スペクトル方式によって動作させることもできます。

フィルタリング技術を最大限駆使しても、高感度の測定はスイッチングコンバータからのごくわずかな干渉により影響を受けます。たとえば患者のバイタルサインモニタで行われる測定や、試験や計測を目的とする測定がそれにあたります。1.8~6.5V、750mAのTIの降圧型コンバータ「TPS62840」は、そのようなアプリケーションに適合する優れたデバイスです。標準60nAという低静止電流のこのデバイスは、STOPピンを使用してコンバータを一時的に停止させ、スイッチングノイズを完全に除去できます。コンバータの出力側に接続されたホールドアップキャパシタを使用して電力を供給することで、機器はノイズのない状態で動作を継続できます(図1参照)。この技術は、高感度の測定機能のサポートだけでなく、ワイヤレスリンクがわずかな場合のSN比の改善にも有効です。

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    図1:Texas Instruments TPS62840降圧型コンバータにおけるSTOP機能の概略 (出典:Texas Instruments)

設計の小型化

電子システムのために使用できるスペースは縮小する傾向にあります。これは産業オートメーション用装置でも、洗練された家電製品でも同様です。

工場のフロアスペースは貴重で、特定の製品に関係する制御装置を1つのコントロールキャビネットに組み込む必要が増えています。そのため多くの電源設計者や技術チームが、モジュール式の電源設計プロセスに目を向けています。

電子産業でもディスクリートかモジュールかを選択する場合があり、電源管理についても例外ではありません。高水準の機能統合の実現に加えて、モジュール式には製品化に要する時間が短縮される利点があり、技術チームにさらに専門性の高い電源設計者が投入された場合に生じる障壁を解消することもできます。

たとえば、DC-DCコンバータは産業規格の寸法に準拠する高密度のパッケージデバイスとして長く使用されてきました。電源モジュールの設計エンジニアは、部品のBOMと放熱特性の面で最適化されたコンパクトモジュール内に、スイッチングコントローラICだけでなく多数の関連部品も組み込むことに熟達しています。TIはこのコンセプトをさらに一歩進め、より大きな部品であるインダクタを実装面積内に組み込んだモジュールを開発しました。「TPSM82822」モジュールの寸法は2.0mm×2.5mm×1.1mmで、業界標準の10ピンMicroSIPのパッケージ形式で構成されています。これらの同期PWMモードを備えた降圧型コンバータには、1Aおよび2Aのバージョンが用意されており、軽負荷時の効率を向上させる省電力モードがあります。標準静止電流は4μAです。このモジュールは2.4~5.5VDCの入力電圧に対応し、出力電圧は0.6~4VDCの範囲で調節可能です。動作効率は標準で最大95%です。

TPSM82822を使用した設計の試作を支援する評価ボード「TPSM82822EVM」が用意されています(図2参照)。

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    図2:インダクタを内蔵したTI TPSM82822高効率降圧型コンバータモジュール向けTPSM82822EVM評価ボード (出典:Texas Instruments)

製造試験と検査における課題

通常、スイッチングコンバータICの多くは業界標準のQFNパッケージで製造されます。これは古くから使用されてきた便利な形式ですが、自動車産業での組み立て時に必要な目視検査技術には適していません(図3参照)。

左側そして上下の図から分かるように、標準的なQFNパッケージのハンダ接合部が、プリント基板上にあるデバイスの下に隠れて見えないことが多くなります。側面から直接見えるのはハンダのわずかな部分だけであり、それが目視検査試験を行う上で問題になります。

つまり、部品が下部でしっかりとハンダ付けされているか、それともドライ・ジョイントがあるかわかりません。この不確実性への対策として、TIは側面にめっきを施したカット部を設けた改良型QFNパッケージを開発し、目視検査が可能な接合部の範囲を拡大しました。この「ウェッタブルフランク」(図3右側参照)によりハンダ接合部が広がって見やすくなり、デバイス全体がプリント基板に確実に接着されているかどうかを確認できるようになりました。

本質安全電源設計に関する認証取得

産業用IoT技術の配備や他の工場オートメーションに関する取り組みにともない、工業用および業務用機器における電子システムの使用がますます増加しています。その中には、危険性または爆発性を有する液体やガスが関係するなどの使用環境が理由で、本質安全規格への適合が必要になる場合もあります。電源設計者にとってこれは技術課題になります。電力変換のプロセスには一般的に、ある程度の発熱や、機器によっては、部品間でアークが発生するレベルの電圧が生じたり、故障すると爆発の恐れがある部品が含まれているからです。

ATEX指令は、危険な環境における発火リスクを最小化する、または取り除くことを目的としています。どのようなガス、蒸気、ミストでも、その危険性は3つのゾーンに明確に分類され、電源ICの場合、発火の原因になるのは電気スパークや高表面温度であると考えられます。たとえばスマートガスメータの場合、最大許容温度はパッケージサイズに応じて244℃または275℃です。コンバータICを設計する際に、ピッチ間隔を広くし、リード線を設ければ、高湿度環境であっても電気的ストレスを軽減し、スパークの発生を抑えることができます。

また、最大許容温度に到達しないように、効率的な放熱が可能なパッケージ形式を設計する必要もあります。TIのTPS62840には、寸法3mm×5mm、耐熱強化型のHVSSOP-8パッケージを使用するタイプも用意されています。このパッケージではIC基板に銅板が接着されており、これによりIC本体から効果的に放熱することが可能になるため、最大温度の超過を回避できます。

まとめ

電源管理を取り巻く状況は常に変化しています。どんな設計においても電源は心臓部であり、機器の性能に影響を与えない電源の設計がますます重要になっています。今回示したのは、電源設計者や組み込みシステムの設計エンジニアが直面する技術課題のごく一部です。

著者プロフィール

Mark Patrick(マーク・パトリック)
Mouser Electronics(マウザー・エレクトロニクス)
テクニカル・マーケティング・マネージャ