電子機器の電力問題を部品から考える

電力は現代の電子設計における重要な側面であり、エンジニアは多様なデバイスを活用して、エネルギー効率に優れたコンパクトな電源回路を設計しています。こうしたデバイスには、簡素なダイオードなどのディスクリート部品から、高度な半導体アーキテクチャを使用した精巧な電源管理ICまで、さまざまなものがあります。

効率的な電源回路を設計することは、必ずしも容易なことではありません。前世代の製品を上回る大きな電力を供給しながら、サイズは可能な限り小型にすることが求められます。しかし電力レベルが高くなるとより大量の熱が発生します。熱レベルが高いと長期的な信頼性が損なわれるため、熱の放散が必要になります。

熱と効率は反比例することから、電源回路ではほとんどの場合、効率が重要な課題になります。効率を向上させれば発生する熱も低減するため、必要な熱管理も少なくて済みます。これはエンジニアリングにおける明確な「Win-Win」になります。サイズが小さくなれば電力密度が向上し、BOMコストが削減されるとともに、運用コストも低下して信頼性が向上するからです。

電源回路で使用される部品は、全体的な効率に大きく影響します。このレポートでは、部品の主要なカテゴリごとに概要を示します。

ダイオードの役割

配管に例えると、ダイオードは逆流防止弁だと言えます。ダイオードは電流が逆方向に流れるのをブロックし、そのため電流は陽極から陰極へ一方向に流れることになります。

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    図1 ダイオードの種類

ダイオードは一般的に、交流電流(AC)を直流電流(DC)に変換するために使用します。このプロセスを整流と呼びます。整流を行うには、全波の「ブリッジ」構成で、4つのダイオードを連続して配列します(図2参照)。整流について考慮すべき重要なパラメータは、順方向定格電流(アンペア)と、耐えられる逆電圧です。ダイオードにはスイッチングの役割もあります。

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    図2 整流プロセスの回路図

図1のようにダイオードにはいくつかのタイプがありますが、その違いは、電流が流れたときの順電圧にあります。従来型のダイオードは電圧降下が最も大きく、損失とダイオードの熱放散が大きくなりますが、ショットキダイオードでは順電圧の降下が少なくなっています。そのためショットキダイオードでは損失が少なくなりますが、逆方向ブレークダウン電圧が低くなるというトレードオフがあります。

ダイオードがAC電流の導通と遮断を交互に繰り返す速度も重要です。従来型の材料で製造されたダイオードは、低速から高速までさまざまですが、ショットキダイオードはほとんどが高速です。

現在では、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの新しいワイドバンドギャップ半導体素材がダイオードに使用されています。それにより、主要な性能パラメータ(温度定格、順電圧、逆方向ブレークダウン電圧、速度)がすべて向上しています。現在これらのデバイスは高価ですが、生産量が増えることで単価が下がるでしょう。

ツェナーダイオードは専門性の高いダイオードであり、過渡電圧の遮断または高精度の電圧基準の確立に使用します。この独自のデバイスは指定された電圧まで逆電流をブロックしてから、電流を流します。ツェナーダイオードは、逆方向ブレークダウン電圧を基準に選択されます。

パワートランジスタの種類と役割

トランジスタは、電圧によって制御される半導体スイッチです。電流は、第3の(ベース)端子の電圧に応じて、「コレクタ」と「エミッタ」間を流れます。高電圧または低電圧でベースを駆動することで、電流をフルまたはゼロにするハードスイッチとして利用できます。ベースを中間電圧にすると、トランジスタはリニア領域で動作し、電流がベース電圧によって制御されます。

最もシンプルなタイプのトランジスタはバイポーラ接合型トランジスタ(BJT)であり、一般的に低電力の設計で使用されます。BJTには複数のパラメータがありますが、主なパラメータとしては、電流定格、ベースがオフになった場合のコレクタとエミッタ間の電圧に対する耐性、動作速度、電流利得(ベース電流とコレクタ/エミッタ間の電流の比率)があります。制御および転換された電圧の極性に応じて、BJTはNPNまたはPNPと指定され、図3のようにわずかに異なる記号で示されます。

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    図3 BJTの種類

別のタイプのトランジスタは、金属酸化膜電界効果型トランジスタ(MOSFET)です。これはBJTと同様に3端子のデバイスですが、端子が再指定されています。MOSFETでは制御ピンを「ゲート」と呼び、制御された電流が「ドレイン」端子と「ソース」端子間を流れます。主なパラメータはBJTと同様で、電流定格、ベースがオフになった場合のドレイン/ソース電圧に対する耐性、電力処理が含まれます。

電源用途で使用するMOSFETで特に重要なパラメータは、導通時にドレインとソース間で測定される抵抗です。これを「オン抵抗」と呼び、「RDS(ON)」で表します。オン抵抗によって生じるMOSFETの構造に固有の電力損失は、電源設計全体においても大きな損失となります。もう1つの重要なパラメータは、ゲートを作動させるための電荷です。これはゲート電荷と呼ばれ、「QG」で表します。この電荷はすべてのスイッチングサイクルで供給する必要があるため、高周波数の電源回路における損失に大きく影響します。

MOSFETで発生する損失は一般的にBJTよりも低くなるため、MOSFETは高出力の用途で使用されます。BJTよりも高周波数で動作することから、特に新しい高速設計で活用されています。MOSFETには4つの主要なタイプがあります。図4に示す2つのタイプ(NチャネルおよびPチャネル)に加え、エンハンスト型とデプレッション型のデバイスがあります。これらのタイプに応じて、デバイスの極性と、ゲートがノーマリオフモードとノーマリオンモードのどちらで動作するかが決まります。MOSFETはすべて、ドレイン-ソース間で双方向に導通できます。

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    図4 パワーMOSFETの種類

BJTとMOSFET技術を組み合わせることで、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)という別のタイプのトランジスタが作り出されます。IGBTにはゲートと共にコレクタとエミッタがありますが、比較的低速で旧式の製品であるため、多くの場合スイッチモードでのみ使用されています。周波数は通常50kHz程度に制限されていますが、電力レベルの増大(一般的に最大5kV/400A)にも対応できます。結果として、モーター制御、動力、大型のインバータなど、大電流の用途に使用される傾向にあります。

最後のタイプのトランジスタはサイリスタです。これは交流電流用トライオード(TRIAC)またはシリコン制御整流器(SCR)とも呼ばれます。その違いは、TRIACが双方向の導通が可能である一方、SCRでは単方向に限られる点にあります。これは図5にあるデバイスの記号で確認できます。どちらのタイプもゲートピンによって制御されるラッチスイッチであり、大電流の用途に適しています。

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    図5 IGBT、SCR、TRIACの回路図記号