リコーは、コピー機やプリンタといったオフィス機器の開発・製造を行う企業だ。一般に、テレワークに対応しづらい業種としてあげられることの多い製造業ではあるが、コロナ禍の中では基本的に全社員に在宅勤務を求め、実際に首都圏のオフィスにおいては出社率を7%まで抑制したという。

テレワーク開始は、本格的な社会的接触削減の第一歩として小中学校の休校が開始された3月2日から。ただ、同社のテレワーク環境の整備は、2016年から開始されていたという。

「育児・介護をする人の終日在宅勤務と、外出時の直行・直帰や海外極との深夜対応等で業務の一部を自宅で行う部分在宅を開始したのが2016年4月です。そこから2年間制度を運用しましたが、当時は社員数1万人に対して200名程度の利用でした」と語るのは、リコー 人事本部 人事部 ダイバーシティ推進グループの長瀬琢也氏(上部写真)だ。(なお、取材はWeb会議で行った)

女性を中心に育児中の社員が利用者の8割以上を占めていた中、対象外である社員との不公平感や、通勤時間を別のことに使いたいというニーズが高まったことなどを受け、2018年度からは対象を全社員に拡大した。

「最初からあまり制限したくなかったのですが、マネジメントや生産性で不安の声もあり、2016年の導入時には効果がはっきり出る人を対象に小規模でスタートしたという状態でした。ニーズの高まりや、2017年に就任した新社長が働き方変革を重視しており、社長直轄の組織もできるなど、全社的に進める体制ができたことなどから2018年度からは全社員が利用できるようにしました」と長瀬氏。

テレワークは自宅だけではなく、最寄り事業所のサテライトオフィスを利用できるようにしたほか、2019年度からは外部のサテライトオフィスとも契約し、利用できる場所を拡張してきた。結果として、2018年度末には利用者数が3000人程度と大幅に増加。さらに普及施策を繰り返したことで、コロナ対応前には6000名ほどが利用するようになっていたという。

オリンピックに向けて頻繁なテレワーク強化日や啓発で社内普及

「生産性についての議論もしてきましたが、今は生産性が下がらなければいいと考えています。希望者が利用するので、ワークライフ・マネジメント面では非常にメリットがあります。リコーでは、時間と場所を自分で選択して働くことを目指しています。自分の生活や業務に合せた時間や場所で働くことが一番効率的で、一番生産性が高く働けるものだと考えており、フレックス制度等も併用して柔軟に自分で働く場所と時間を選んでほしいと考えています」と長瀬氏は語る。

自主的な選択による制度ではあるが、オリンピック対応としてリモートワークできる社員を増やす必要もあった。オリンピック開催時には本社を閉鎖し、本社に勤務する社員は全員リモートワークで業務を進める計画になっていたため、2020年夏までには体制を整えるべく、社内での普及活動が行われた。

また、7月のテレワーク・デイズには特別協力団体として参加。ほかにも、全社的にリモートワークを行う日を1~2カ月に1度の割合で設け、体験する機会を増やしながらテレワーク利用登録者を増やしていった。

「新入社員や製造の契約社員など一部は対象外でしたが、それ以外の社員はテレワーク希望時には年度単位で上司に申請することになっています。1人で自律的に働ける人なのか、テレワーク対応可能な業務なのかを上司が判断するわけです。2016年の開始時には月5日までの制限でしたが、2018年からは月10日、週3日までという制限に緩和しました」(長瀬氏)

登録した社員は前日までに勤務管理システムを利用して上司にリモートワークの申請を行い、当日は始業時に1日の業務計画を上司に連絡。終業時に進捗報告も行う。

「サボるのではないかという不安の声はありましたが、監視まではしたくありません。マネージャー向けのワークショップでは、リモートワークの考え方や部下にリモートワークを認める時の判断基準、リモートワーク時の勤務管理等についても注意点を話しました。実際に大きな問題は出ていませんが、サービス残業をしてもわからないという声には、業務量をきちんと見てくださいと伝えています」(長瀬氏)

さらに利用率向上と抵抗感払拭のために、全社的なテレワーク促進日にはマネージャー自身が率先してテレワークを利用するように促すなどしたという。

「やってみるとできた、問題なかったというマネージャーが多かったです。促進した効果はあったと思います。また、部門長がクールボス宣言という部下に向けてメッセージを出す取組を実施しているのですが、その中でテレワークに触れる人も多くいます。テレワークを率先してやる、自分との会議はテレワークでいいと部門長が宣言すると、部門の人もやりやすい雰囲気が出るので効果を感じています」(長瀬氏)