王座獲得24期の羽生善治九段を破ってベスト8へ

永瀬拓矢王座への挑戦権を争う、第68期王座戦挑戦者決定トーナメント(主催:日本経済新聞社)の1回戦が進行中です。5月21日には羽生善治九段-飯島栄治七段戦が東京・将棋会館で行われました。19連覇を含む王座獲得24期の羽生九段が王座復位に向け前進するのか、それとも王座戦挑戦者決定トーナメントに初進出した飯島七段がこの舞台で初白星をあげるのか、注目された一局は飯島七段が勝利を収めました。

振り駒で後手番となった飯島七段は、横歩取りへ誘導しました。横歩取りは最近減少傾向にあります。それは先手番の「横歩取り青野流」が強力で、後手が対策に苦慮しているためです。当然、それにも関わらず横歩取りを採用した飯島七段には用意の作戦があるはず。序盤から目の離せない展開になりました。

飯島七段の用意の策は、手損をすることによる待機作戦でした。まず飛車を自陣に引くことで青野流の急戦を封じます。速攻策がなくなったのを見てから再び飛車を浮いてまず1手損。その後、後手陣が万全の形になると、再び1手損をすることで最善形を保ちました。

一方、先手の羽生陣もすでに飽和状態。羽生九段は歩を打って攻めの手掛かりを作り、次に激しく攻めるぞ、とプレッシャーをかけます。これに反発するように飯島七段も攻勢をとって、全面戦争が勃発。横歩取りらしい激しい切り合いとなりました。

激しい戦いでリードを奪ったのは飯島七段でした。馬を切り飛ばし、先手玉付近に寄せの足掛かりになると金を作ります。羽生九段の反撃にあい、玉が四段目にまで露出するも、しっかりと金を打って凌ぎました。

苦しい形勢の羽生九段でしたが、ここから猛然と追い上げていきます。桂のタダ捨てから巧みな手順で、相手の飛車を取ることに成功。馬を攻防に働く好位置に引き付けました。さらには飯島七段の攻めに乗じてするすると玉を上部に逃がし、自玉までもが相手玉への寄せに参加する形を作り上げました。

はた目には逆転していてもおかしくないように見える局面。しかし、そこで飯島七段が底力を発揮しました。王手をかけつつ、自玉の詰めろを解除する桂打ちが絶妙手でした。それから歩の連打で羽生玉を一段目におびき寄せたのも、そつのない順。自玉の危機を回避してから馬を取って勝負あり。

その後も羽生九段は粘りますが、最後は飯島七段が自陣に引き付けた竜・馬、遠くからにらみを利かせる角の働きで126手で寄せ切りました。

この勝利で飯島七段は、王座戦挑戦者決定トーナメント初白星を挙げ、ベスト8に進出。次戦は久保利明九段-松尾歩八段戦の勝者と対戦します。一方の羽生九段は痛恨の一回戦敗退。今期王座戦での100期目のタイトル獲得はなくなりました。

初出場の挑決トーナメントで難敵を破った飯島七段
初出場の挑決トーナメントで難敵を破った飯島七段