面倒、プチイライラ…テレワーク浸透のボトルネックを取り除いて

テレワークは導入すれば終わりではない。テレワークは働き方の一手段であり、それを続けていくことがキモになる。武藤氏は企業がテレワークを継続し、自社内に浸透させるには、面倒臭さや小さな苛立ちの払拭にかかっていると話す。

「例えば、オンラインの会議は対面の会議と比べて、事前に資料を作成して目を通す方がやりとりしやすいなど、ちょっとした違いを感じるものです。最初はそれを面倒に感じることもあるでしょう。でも、簡単に諦めるのではなく、まずは1カ月間などと決めて、毎日使い続けることが大事です。多くのことは、時が問題を解決してくれます」」(武藤氏)

煩わしさやイライラを解消できないと、それらを上回るメリットがあるにも関わらず、テレワークに参加しない人が出てくるという。

「調査をすると『テレワークは必要ない』と回答する人が一定数はいます。通勤する方が楽だとか、隣に人がいる方が相談しやすくていいとか、さまざまな理由でテレワークをやりたくない、と言うのです。

アフターコロナの世界では、そういった考え方の人たちが会社に戻ってきてしまうかもしれません。彼らの反発を抑えて、テレワークを“当たり前”にするには、テレワークに切り替えても、業務遂行は可能であったことや、テレワークによって得られた効果や副産物を成果として示すのが有効でしょう」(武藤氏)

武藤氏は「テレワークの成果を記録してほしい」と話す。定性・定量共に記録しておくことだ。大前提として、人は未知のものへの拒否反応を示しがちな生き物。しかし、「何か面倒くさい」「慣れるまでが大変」と捉えていても、それらを吹き飛ばすくらいの“果実”があるとわかれば、人は順応しようとするものなのだ。

「テレワークのベテラン」から学べること

最後に、試行過程を経て2013年10月、2パターンのテレワーク制度(直行前・直帰後型/終日利用型)を導入した、リクルートマネジメントソリューションズの取り組みを紹介したい。

導入当時は特定の等級(グレード)以上の社員を「自律的に働ける」と認定し、一部の社員からテレワークを開始(※)。「不公平」という声は上がらなかったが、「(対象を)拡大してほしい」という声は当初からあったという。

※育児短時間者に対しては等級制限・終日利用の上限なしとしていた。現在は、利用形態や頻度に関する全社ルールを廃し、各部門に定めるルールにて運用

同社のテレワークは「第15回テレワーク推進賞」で「テレワークによる経営効率の向上及び改善」への取り組みが高く評価され、優秀賞を受賞している。テレワークが上手く機能している背景を探るため、2年前に入社した広報担当の山野宏子氏にも話を聞いた。

「みんなで気持ちよく仕事しよう、という思いが全社的に共有されていると感じます。みんなが他者目線を持っていて、家庭環境やライフスタイルなど、各自の状況を知った上でコミュニケーションを取る習慣が根づいています。例えば、『今お子さんが家にいるんだよね』『身体が凝り固まるから、時々ストレッチしようか』など、それぞれが互いを気遣う姿勢があるのです」(山野氏)

出社勤務であっても、在宅勤務であっても、根底にあるお互いを思いやり尊重し合う風土が不可欠だということだ。

離れて仕事をしていても、信頼していることを示すため、サボっているか・仕事をしすぎていないかなど、疑うことはしない。全員が全員を「責任感を持って働く大人」と認識しているからこそ、余裕や余白を持たせたやりとりが成り立っている。

長年テレワーク実績を重ねてきた同社だけに、細かいTipsも存在する。参考までにいくつか見てみたい。

・テレワークに活かせるノウハウを社内で共有する
・会議参加者にはアジェンダを事前に共有する(会議前に読む)
・会議は質疑応答から始める
・参加人数が多いときは議事録/ファシリテーション係を分けて進行する
・議事録を画面共有し、結論やプロセスに参加者の齟齬がないかを確認する
・参加人数が4人以上の場合は名乗ってから発言する
・ファシリテーターになったら、相手の名前を呼びかけてから話をする
・資料に基づいた発言をするときは、最初にページ数を口頭で示す

2月以降、日本企業の働き方は急激に、大きく変化した。新型コロナウイルス感染症はすぐに収束する問題ではないからこそ、この先もウイルスと共に生きる中で、私たちの働き方は変わり続けることが予想される。

その中で「テレワークはできない」と頭ごなしに突っぱねていては、時代に取り残される可能性すら出てくる。「100%テレワーク」は叶わないとしても、既存の常識を取っ払って、部分的にでもできることはないか、思考することから始めてはいかがだろうか。