数ある奨学金の中でも利用者の多い「日本学生支援機構奨学金」は、2020年度の高等教育無償化政策として、その制度が拡充されています。具体的には、授業料や入学金の減免に加え、給付型奨学金において、もらえる金額や条件などが引き上げられているのです。本稿では、日本学生支援機構の新給付型奨学金の内容や、今回どのような点が変更されたのかについて、解説していきます。

  • 「日本学生支援機構奨学金」の制度拡充を解説

    「日本学生支援機構奨学金」の制度拡充を解説

給付型奨学金はどう変わった?

日本学生支援機構奨学金は、経済的理由で修学が困難な優れた学生に、学資の貸与を行うものです。また、同奨学金には、貸与のほかにも、給付型の奨学金もあります。今回、制度が変更された給付型奨学金は、低所得者が大学や専門学校に進学するのを支援するものです。その内容として、「授業料や入学金の減免」にプラスして、「返済が不要な給付型奨学金」が拡充されています。では、新給付型奨学金は、給付の対象者や受け取れる金額はどのようになっているのでしょうか。

新給付型奨学金の対象者

給付型奨学金の対象者は、世帯の収入と成績に基準が設けられています。これまでの同奨学金の対象者が「住民税非課税世帯の成績優秀者など約2万人」だったのに対し、新給付型奨学金の対象者は以下のように変更されました。

・収入の基準
対象者は、年収380万円未満の世帯で、収入によって3段階に区分されています。
第一区分 : 住民税非課税世帯(年収270万円未満)…上限額を支援
第二区分 : 年収300万円未満…上限額の2/3を支援
第三区分 : 年収380万円未満…上限額の1/3を支援

なお、ここでの年収は「両親と本人、中学生の4人家族」という世帯を想定して割り出しています。実際の支援の区分は、世帯構成や年収などによって異なります。

・成績の基準
以下のいずれかに当てはまる人
(1)高校の成績が5段階で評定3.5以上
(2)学ぶ意欲のある人

まずは高校の成績が基準となりますが、評定3.5以上に達していない場合でも、高校での面談やレポートの提出により、学習意欲を確認します。成績だけに基準を絞らないことで、経済的に厳しい家庭にも学ぶ機会を広く設けようと試みられています。一方で、進学後には単位の取得状況や授業への出席状況などから、学習意欲が著しく低いと判断された場合には、支援を打ち切られることもあります。

なお、給付の対象となる学校は、一定の要件を満たした大学、短期大学、高等専門学校(4年・5年)、専門学校となっています。

減免される授業料や入学金

新給付型奨学金の対象者は、進学先の学校で申し込むことで、授業料のほか入学金の免除や減額を受けることができます。減免される金額は、第一区分では以下のように定められています。※金額の前半が入学金、後半が授業料(年額)

・国公立
大学 : 約28万円、約54万円
短期大学 : 約17万円、約39万円
高等専門学校 : 約8万円、約23万円
専門学校 : 約7万円、約17万円

・私立
大学 : 約26万円、約70万円
短期大学 : 約25万円、約62万円
高等専門学校 : 約13万円、約70万円
専門学校 : 約16万円、約59万円

第二区分や第三区分の人はそれぞれ、2/3と1/3に相当する金額が支援されます。たとえば、第二区分に当たり私立大学に通う人の場合、授業料の減免は第一区分の人の2/3となりますので、約47万円の支援が受けられます。

給付される金額

今回制度が拡充された新給付型奨学金は、授業料や入学金の減免とあわせて、給付される金額が増額しています。これは、今まではアルバイトをして生活費をまかなうことを前提とした給付だったのに対し、新給付型奨学金は、学業に専念できるだけの生活費を給付するとしたためです。これまでの給付額と変更後の給付額を比べてみましょう。

・これまでの給付型奨学金(月額)
国公立 : 自宅2万円 自宅外3万円
私立 : 自宅3万円 自宅外4万円

・新給付型奨学金(月額)※第一区分対象者

大学・短期大学・専門学校
国公立 : 自宅29,200円 自宅外66,700円
私立 : 自宅38,300円 自宅外75,800円

高等専門学校
国公立 : 自宅17,500円 自宅外34,200円
私立 : 自宅26,700円 自宅外43,300円

新給付型奨学金は、特に自宅外から通学する場合に金額が手厚くなっています。自宅外から通う学生は、食費や住居・光熱費などにお金がかかるため、給付型奨学金をこうした生活費に充ててもらおうというのが新制度の狙いです。授業料、入学金の減免とあわせると、非常に大きな支援が受けられることになり、教育費の捻出が困難な家庭でも、高等教育を受ける機会が格段に広がったと言えるでしょう。

現在奨学金をもらっている人や返済中の人への影響は

制度が大きく拡充された新給付型奨学金ですが、現在奨学金をもらっている人や返済中の人にはどのような影響があるのでしょうか。

まず、以前から給付型奨学金をもらっている人は、新制度に切り替えられる可能性があります。自身は条件に当てはまるかどうか、調べてみましょう。貸与型の奨学金(無利子・有利子)を借りている人は、新制度では給付型奨学金を受けられる場合があります。この場合も、条件に該当するか確認してみましょう。一方、これまで奨学金や授業料・入学金の減免を受けていなかった人も、新制度では利用できる可能性がありますので、こちらも確認が必要です。

なお、すでに奨学金の返済をしている人は、新制度が導入されたことによる影響は今のところありません。万が一、返還が難しくなった場合には、所定の手続きを速やかに行いましょう。

奨学金は返済時のことを考えて借りよう

返済が不要な新給付型奨学金は、経済的理由で進学を諦めざるを得なかった多くの人の希望となる制度です。一方で、貸与型の奨学金は、いずれ返済が必要となります。奨学金を借りる場合は、将来返す時のことも考えて借りるようにしましょう。