独創的な序盤作戦で三浦弘行九段を下す。次戦は永瀬拓矢二冠と対戦
4月6日に第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント(主催:産経新聞社)の準々決勝、▲山崎隆之八段-△三浦弘行九段戦が東京・将棋会館で行われました。結果は85手で山崎八段の勝利。準決勝へ駒を進めました。
自由奔放な棋風でファンの多い山崎八段。特にここ数局は初手から独創的な指し手が目立ちます。本局の2局前の棋聖戦▲山崎八段-△久保利明九段戦は▲9六歩!△9四歩▲7八銀!△3四歩▲6六歩!!というオープニング。3手目にはすでに前例がなくなっていました。本局の直前の王座戦▲山崎八段-△西田拓也四段戦でも初手は▲9六歩。△9四歩に▲5六歩~▲6八銀~▲5七銀と、これまたなかなかお目にかかれない立ち上がりでした。
本局は振り駒の結果、山崎八段が先手番に。どんな出だしになるかが注目される中、指された初手は▲7八金! この手をとがめるなら振り飛車にするという選択肢もありましたが、居飛車党の三浦九段は堂々と△8四歩。これにより大波乱の序盤とはならず、少し珍しい程度となりました。
後手が飛車先の歩を交換する間に、山崎八段は素早く二枚の銀を中央に活用。5筋の歩を交換したのちに、3筋から本格的な戦いを起こしました。4筋で銀交換となり、その銀を自陣に打ち込まれて銀金交換の駒損の上に、自玉の守り駒は金一枚になってしまいました。
局面が落ち着き、三浦九段が自陣の銀を活用した場面で、山崎八段が勝着とも言える一手を放ちました。それは自陣の駒をアクロバティックに活用するような派手な手でも、激しく敵陣に攻め込む手でもありませんでした。自玉の脇にじっと歩を打つ▲5九歩。相手の攻めが来る前に受けておこうという手です。
山崎八段が独創的な将棋で高い勝率を残せるのは、一見バラバラな陣形や、薄い玉形をまとめ切る力があるからこそです。歩一枚を投資しただけで、自陣を一手で引き締めた▲5九歩は、山崎八段の実力を表す好手でした。
そこからの山崎八段は一変、持ち駒の銀を打ち込み、敵陣に激しく食いついていきます。相手の反撃に乗じて大駒二枚も盤上の要所に活用し、優位を築き上げました。自陣には頼もしい5九歩がおり、この歩のおかげで相手から有効な攻めがありません。
三浦九段はやっとのことで山崎玉を左右から挟撃しますが、時すでに遅し。山崎八段は蓄えた駒を使って三浦玉を詰まし上げました。
勝った山崎八段は準決勝に進出。あと2勝で久々のタイトル戦登場となります。準決勝の相手は永瀬拓矢二冠。難敵が相手ですが、またしても自由奔放な作戦で観戦者を楽しませてくれることでしょう。