野口聡一 宇宙飛行士、スペースXの新型宇宙船でISSへ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年3月31日、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する野口聡一宇宙飛行士が、米宇宙企業「スペースX」の新型宇宙船「クルードラゴン」の運用1号機(Crew-1)でISSに向かうことが決まったと発表した。

3人の米国人宇宙飛行士とともに搭乗する予定で、打ち上げ時期は未定。野口宇宙飛行士は「(新型コロナウイルスの影響で)先が見えない孤立無援の状況ですが一日ずつ乗り切っていきたい」と話す。

  • クルードラゴン

    野口聡一宇宙飛行士が乗り込むクルードラゴン宇宙船と、着用する宇宙服 (C) SpaceX

野口聡一 宇宙飛行士

野口聡一(のぐち・そういち)宇宙飛行士は、1965年生まれで現在54歳。東京大学大学院を修了後、石川島播磨重工業(現IHI)を経て、1996年に宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選定された。

そして訓練を経て、1998年に米国航空宇宙局(NASA)のミッション・スペシャリスト(MS)として認定。米国やロシアなどでさらなる訓練を積み重ね、2001年にはスペースシャトルによる国際宇宙ステーション(ISS)の組み立てミッション「STS-114」の搭乗員に任命された。

その後、2003年にスペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故が発生。STS-114は、事故後最初のシャトルのミッションというきわめて重要な使命を背負い、2005年7月に打ち上げられた。

野口宇宙飛行士はこのミッションのなかで、安全確認のため、打ち上げ時にシャトルの外部燃料タンクのビデオ撮影を行うとともに、3回の船外活動のリーダーとして、軌道上でのシャトルの耐熱タイルの補修検証試験、ISSの姿勢制御装置などの交換や機器の取付けと回収など実施。3回の船外活動の延べ時間は20時間5分を記録した。

2008年5月には、ISSの第20次長期滞在クルーのフライト・エンジニアとして任命(のちに第22次/第23次に変更)。ロシアでの訓練を経て、日本人初となるソユーズ宇宙船のフライト・エンジニアとして、2009年12月に2回目の宇宙飛行に出発。ISSに約5か月間滞在し、「きぼう」日本実験棟のロボットアームの子アーム取り付け作業や実験運用などを実施した。

その後、3回目の宇宙飛行と2回目のISS長期滞在に向けた準備や訓練を行いつつ、2012年から2016年まではJAXA宇宙飛行士グループ長に従事。そして2019年7月、ソユーズMS-13の打ち上げ成功によりバックアップ・クルーを務めたのち、米国の民間企業が開発する有人宇宙船に搭乗してISSに滞在するための訓練を開始した。

そして訓練を経て、今回正式に、スペースXが開発しているクルードラゴン宇宙船の運用1号機への搭乗が正式に決定した。

クルードラゴン運用1号機には、船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとしてシャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)も搭乗する。野口飛行士はウォーカー飛行士と同じく、ミッション・スペシャリストを務める。

打ち上げ時期は未定だが、2020年第4四半期以降になる可能性が高い。その場合、帰還は2021年初めごろとなる。

搭乗決定に際し、野口宇宙飛行士は「スペースXのクルードラゴン搭乗に向けて訓練を始めました。スペースXは宇宙服だけでなくカプセルもスタイリッシュです。お楽しみに!」とコメント。

また、世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされていることにも触れ、「日本と同様にアメリカも自宅待機・外出制限でつらい毎日です。先が見えない孤立無援の状況ですが一日ずつ乗り切って行きたいと考えております。Stay home & Be safe!」とコメントしている。

  • クルードラゴン

    クルードラゴンを載せたファルコン9ロケットの打ち上げの様子。野口宇宙飛行士らもこのようにして飛び立つ(写真は今年1月、飛行中脱出試験時のもの) (C) SpaceX

クルードラゴン宇宙船

クルードラゴン(Crew Dragon)は、米国の宇宙企業スペースX(SpaceX)が開発中の有人宇宙船で、ISSへ宇宙飛行士を輸送することを目的としている。

NASAは2000年代から、ISSへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画を進めている。その背景には、当時ISSへの足として使っていた「スペースシャトル」が老朽化し、引退が迫っていたことや、民間の宇宙ビジネスを振興する目的、さらにNASAがISSより先の、月や火星の探査に注力できるようにするといった意図があった。

宇宙飛行士の輸送においては、スペースXとボーイングの2社を選定。NASAの資金提供や技術支援、安全審査を受けつつ、両社は開発に勤しんでいる。

スペースXが開発しているクルードラゴンは、2019年3月に無人での試験飛行を実施、宇宙飛行やISSとのドッキングなどの試験に成功した。また今年1月には、飛行中のロケットから緊急脱出する試験にも成功。現時点では今年5月中旬から下旬以降に、有人での試験飛行「Demo-2」が予定されている。

Demo-2が成功すれば、その後はNASAとの契約に基づく、定期的な宇宙飛行士の輸送ミッションが始まることになっており、今回野口宇宙飛行士らが搭乗することが決まったのは、その運用1号機(Crew-1)となる。

ただ、新型コロナウイルスの影響でNASAなどの業務にも支障が出ているうえに、3月24日には、クルードラゴンに使うパラシュートの試験に失敗。NASAによると、ヘリコプターを使って空中から投下する試験を行おうとしたした際に、ヘリコプターの飛行が不安定になったために試験装置を捨てたことから起きたもので、パラシュートそのものの設計ミスなどではないとしているが、こうした影響で、Demo-2の実施時期、またCrew-1の打ち上げ時期も遅れる可能性もある。

  • クルードラゴン

    国際宇宙ステーションにドッキングするクルードラゴンの試験機(2019年3月撮影) (C) NASA

【参考文献】

JAXA | JAXA野口聡一宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在搭乗機について
JAXA宇宙飛行士活動レポート 2020年3月:JAXA宇宙飛行士活動レポート - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA
NOGUCHI, Soichi 野口 聡-(のぐち そういち)さん (@Astro_Soichi) / Twitter
NASA Adds Shannon Walker to First Operational Crewed SpaceX Mission | NASA
NASA Update on SpaceX Parachute Testing - Commercial Crew Program

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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