米宇宙企業スペースXは2019年7月15日、今年4月に起きたスペースXの有人宇宙船「クルー・ドラゴン」の爆発事故について、スラスターの酸化剤が漏洩し、ヘリウムの逆止弁に使っているチタン製部品と反応し、発火したことが原因とする調査結果を発表した。

同社ではこれを受け、米国航空宇宙局(NASA)とともに飛行再開に向けて対策を進めているが、宇宙飛行士を乗せた有人飛行の実施の見通しはまだ不透明だ。

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    宇宙を飛ぶクルー・ドラゴンの想像図 (C) SpaceX

クルー・ドラゴンの爆発事故

クルー・ドラゴン(Crew Dragon)はスペースXが開発中の有人宇宙船で、国際宇宙ステーションや月などに宇宙飛行士を運ぶことを目的としている。

米国はスペースシャトルの退役後、宇宙飛行士の輸送をロシアの「ソユーズ」宇宙船に依存しており、クルー・ドラゴンと、ボーイングが開発している「スターライナー」によって、「米国の地から、米国の宇宙船で、米国の宇宙飛行士を打ち上げる」ことの復活を狙っている。

クルー・ドラゴンは今年3月、無人での初飛行ミッションを実施。国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしたのち、地球への帰還も無事に果たし、ミッションは成功。この当時、6月には飛行中のロケットから脱出する「飛行中脱出テスト(in-flight abort test)」を、そして7月以降には有人の試験飛行も予定していた。

しかし、4月20日(米国時間)、フロリダ州ケープ・カナヴェラル空軍ステーションにある第1着陸場(Landing Zone-1)において、クルー・ドラゴンの試験中に事故が発生。機体は大きく損傷した。幸いにも、事故によるけが人はおらず、施設やその周辺への被害もなかった。

この試験は飛行中脱出テストに向けて行っていたもので、3月に無人飛行した機体を使い、スラスター(小型のロケット・エンジン)を燃焼させ、機能性を確認することを目的としたものだった。

クルー・ドラゴンには、軌道上での姿勢制御や軌道変更に使う「ドレイコー(Draco/ドラコとも)」スラスターを16基と、打ち上げ時の脱出に使う「スーパードレイコー(SuperDraco/スーパードラコとも)」スラスターを8基装備している。両者はともに推進剤にモノメチルヒドラジンと四酸化二窒素を使っており、ドレイコーは低圧ヘリウムで、スーパードレイコーは高圧ヘリウムで駆動する、ガス推し式エンジンである。

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    スーパードレイコーの本体。2基を1セットとし、クルー・ドラゴンの側面に4つに分けて装備されている (C) SpaceX

スペースXによると、この試験では、ドレイコーの燃焼試験には成功したものの、スーパードレイコーの燃焼開始直前に"異常(Anomaly)"が発生し、機体が破壊されたという。

初期的なデータ調査の結果、異常はスーパードレイコーに点火する約100ミリ秒前、推進系を加圧する段階で起きたという。このとき、酸化剤である四酸化二窒素に漏れが発生し、それが高圧ヘリウム配管に入り込んだ。そして、スーパードレイコーの起動時、すなわちヘリウム加圧開始時に、高速でヘリウムの逆止弁と触れ合い、弁に構造的な破壊を引き起こした。その結果、弁が発火し、爆発をもたらしたとしている。

この逆止弁はチタン製で、高圧の四酸化二窒素の中で両者が反応したと考えられるという。スペースXによると、チタンは何十年にもわたって、世界中で宇宙機の素材として使われていたが、高圧環境下で四酸化二窒素と反応することは想定していなかったとしている。

スペースXは、このシナリオをさらに詳しく調べるため、テキサス州にある自社の試験場で再現試験を実施。その結果、シナリオどおり両者が激しく反応することを確認したという。

これを受けスペースXは、スーパードレイコーのガス加圧システム内に四酸化二窒素が入り込まないようにするため、逆止弁の代わりにバースト・ディスク(ラプチャー・ディスク)を使うなどし、対策を実施するとしている。逆止弁は液体を一方向にしか流れないようにするための弁のことで、バースト・ディスクとは、あらかじめ決められた設定圧力がかかるまで完全にシール(密閉)する圧力安全装置のことである。

これらのリスク軽減策は、すでにNASAと連携して試験や分析を初めており、次の飛行までに完了する予定だとしている。また、燃焼試験と今回の異常により、豊富なデータが得られたとし、こうした教訓はスペースXのロケットや宇宙船の安全性と信頼性をさらに向上させるだろうとしている。

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    スーパードレイコーを噴射して浮上するクルー・ドラゴン(写真は2015年の試験のときのもの) (C) SpaceX

新しい打ち上げスケジュールはまだ不明

今回の事故により、飛行中脱出テストや有人飛行の実施スケジュールは一旦白紙となったが、スペースXでは複数のクルー・ドラゴンの生産と試験を並行して進めており、各機体のミッションへの割り当てを変えるなどし、計画への遅れを最小限にするとしている。

今回の事故前には、飛行中脱出テストには3月に無人飛行をした機体を使用し、その後、有人試験飛行(Demo-2)と有人での運用飛行(Crew-1)を、それぞれ新たに製造した機体を使って行う予定だったが、事故を受けて、飛行中脱出テストにはDemo-2用に製造した機体を使い、Demo-2用の機体は、Crew-1用に製造中の機体の一部を流用して組み立てるという。

ただ、飛行中脱出テストや、Demo-2やCrew-1の新しいスケジュールについては、現時点ではまだ発表されていない。米国内のメディアでは、Demo-2は今年の年末ごろになるだろうという見方が伝えられている。

なお、Crew-1にはJAXAの野口聡一宇宙飛行士が搭乗する可能性がある。

また7月18日に、スペースXはクルー・ドラゴン用のパラシュート試験の様子を収めた動画を公開。パラシュートの開発はかねてより遅れや欠陥が指摘されていたが、ひとまず完成しつつあること、そして今回の事故を受けてもなお、前に進み続ける姿勢をアピールしている。

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    今年3月、国際宇宙ステーションにドッキングするクルー・ドラゴン宇宙船。4月に事故を起こしたのは、このDemo-1ミッションで使われた機体だった (C) NASA

出典

UPDATE: IN-FLIGHT ABORT STATIC FIRE TEST ANOMALY INVESTIGATION | SpaceX
SpaceX Provides Update on Crew Dragon Static Fire Investigation - Commercial Crew Program
JAXA | JAXA野口聡一宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在の準備状況について
Crew Dragon Parachute Tests - YouTube
SpaceX Statement on Crew Dragon Test Stand Anomaly

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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