沖縄科学技術大学院大学(OIST)、国文学研究資料館、山形大学、弘前大学、名古屋大学(名大)の5者は4月10日、歴史文献と「炭素14(14C)」を用いた分析を組み合わせ、予測が難しく危険な「太陽プロトン現象」を効率的に探索する新たなアプローチを構築し、より多くの事象の特性を理解するための基盤を築くことに成功したと共同で発表した。
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(左)江戸時代に描かれた藤原定家の肖像。(c) 菊池与斎(パブリックドメイン)(右)藤原定家の日記『明月記』の江戸期写本。右側のページには、北の空に赤い光が見えたという記述が確認できる。(c) 国立公文書館(パブリックドメイン)(出所:OIST Webサイト)
同成果は、OIST 太陽地球環境・気候ユニットの宮原ひろ子准教授、国文学研究資料 研究部の山本和明教授、山形大 学術研究院 理学部担当/高感度加速器質量分析センターの門叶冬樹教授、弘前大大学院 理工学研究科の堀内一穂准教授、名大 宇宙地球環境研究所の堀田英之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本学士院が刊行する数学以外の自然科学の全分野を扱う英文学術誌「Proceedings of the Japan Academy, Series B」に掲載された。
太陽表面の爆発現象である「フレア」の発生に伴い、「コロナ質量放出」(CME)と呼ばれる磁気プラズマの噴出が生じる場合がある。これが地球圏を直撃すると、人工衛星の故障や地上の送電網への深刻な被害を誘発する恐れがあるため、近年は宇宙天気予報として太陽観測が非常に重視されている。また、今後はアルテミス計画によって有人月面探査の機会が増えることから、宇宙飛行士の安全を確保する上でも、こうした激しい太陽活動への警戒を強める必要がある。太陽活動の中で特に警戒すべき現象が、太陽フレアやCMEによって発生させる「太陽プロトン現象」だ。これは、放出された陽子(プロトン)が最大で光速の約90%という相対論的な速度にまで加速される現象であり、CME同様に地球圏へ到達すると極めて危険な存在となる。人類が数年以内に有人月面探査を再開させる予定である以上、こうした突発的な太陽現象の解明は喫緊の課題といえる。
そこで研究チームは今回、中世の記録を手掛かりに時期を絞り込み、青森県に埋没していたアスナロの木を用いて超高精度の14C分析を行うという新たなアプローチで、過去の太陽プロトン現象を詳しく調べたという。
これまでの調査では、数千年に1度しか起こらない極めて強力な現象に主眼が置かれてきたとする。それに対し今回の複合的な新手法は、比較的小規模で検出が難しい太陽プロトン現象を効率的に捉えるための基盤を提供するものだという。発生頻度が従来想定の10倍以上に及ぶ事象も対象となるため、今後より多くの現象を研究することが可能になり、発生条件の的確な推定に寄与する可能性があるとした。
陽子は正の電荷を持っているため、地球の磁場によって大半はそらされる。ただし、オーロラの発生源である太陽からの電子が流れ込みやすいように、両極付近は磁場が宇宙空間に開いているため、高エネルギー陽子は大気中に入りやすい。また、特に強い現象が発生した際には一部の陽子が磁場を突破し、大気中の原子や分子と衝突することもある。その結果として、放射性同位体である14C(半減期約5730年)が誕生する。
生成された14Cは大気中を地球規模で循環し、有機物に取り込まれる。埋没樹木などに含まれる14Cの濃度を測定すれば、過去1万年にわたる太陽活動の変動を特定できる。10年以上に及ぶ研究で開発された超高精度測定法により、従来は検出不能だったわずかな変動も観測可能となり、比較的小規模な太陽プロトン現象を検出する道が拓かれたとする。
しかし、この測定法は膨大な時間を要するため、分析すべき年代を絞り込む必要がある。そこで手掛かりとされたのが、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した公家・歌人の藤原定家(1162~1241)の日記『明月記(めいげつき)』だ。定家は西暦1204年2月、京都の北の空に「赤気」という赤い光を目撃したと記録している。太陽プロトン現象自体が直接オーロラを引き起こすわけではないが、オーロラを誘発する宇宙天気現象に付随して発生することが多いため、古文書の記録は有力な指標となるとした。
続いて、研究チームが青森県北部で発掘したアスナロを対象に、年輪に含まれる14Cの量を測定したところ、大規模な太陽プロトン現象の発生を示唆する急激な増加が確認された。規模自体は最大級のものより小さいものの、人類が直接観測した中で最大とされる1956年2月の事象よりも10倍以上大きなものだったとした。
年輪の成長パターンから年代を特定する「年輪年代学」と組み合わせた結果、この事象は西暦1200年の冬から1201年の春にかけて発生したことが判明した。これは、中国の文献に記された、赤い低緯度オーロラの観測タイミングとも一致している。
この高精度なデータによって太陽プロトン現象の検出に成功しただけでなく、当時の太陽活動サイクルを正確に再構築することも可能になったという。太陽プロトン現象は14C量を乱す要因にもなるが、今回の分析の結果、現在は約11年の太陽周期が当時はわずか7~8年と短く、太陽が非常に活発な状態にあったことが明らかにされた。発見された太陽プロトン現象は、こうしたサイクルがピークを迎えた年代に発生したものだったとした。
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14C記録に基づいて再構築された太陽周期に歴史的記録を重ねた図。オレンジ色の円はオーロラ観測時期、青と赤の星印は『明月記』などに記されていた数日にわたる低緯度オーロラ現象、黒のひし形は大きな黒点の出現を示す。矢印が、今回特定された太陽プロトン現象。(c) 宮原ほか(2026年)(出所:共同プレスリリースPDF)
なお、今回の調査では、数日にわたる低緯度オーロラの一部が、太陽周期の極小期付近で発生していたという予想外の事実も判明した。論文筆頭著者であるOISTの宮原准教授は、太陽表面の状態がどのような時にこうした現象が起こり得るのか、今後の研究で解明が進むことを期待するとしている。

