獺祭と三菱重工業は4月28日、月面での清酒製造を目指す「獺祭MOONプロジェクト」の第一弾ミッションを完遂したと発表した。

両社は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟のJAXAの実験装置内部で月面重力を模擬した環境において、人類史上初となる清酒のアルコール発酵過程を確認することに成功した。

ISS「きぼう」船内で発酵を終えたもろみは地球へ帰還し、今年3月に獺祭の本社蔵で清酒へ仕上げられ、第一弾ミッションは完了した。

  • 宇宙空間での酒造りをイメージしたビジュアル 出典:獺祭/三菱重工業

    宇宙空間での酒造りをイメージしたビジュアル 出典:獺祭/三菱重工業

宇宙での発酵は成立するのか?

ISSでの実験により、低重力環境でも日本酒の発酵が成立することが確認された。

今回の醸造試験で得られたもろみを地上で分析した結果、アルコール度数は12%に到達していた。これにより、月面重力環境でも地上と同様の製造プロセスが成立する可能性が示された。

また、日本酒特有の「並行複発酵」という複雑なプロセスが、低重力環境でも成立する可能性が確認された点も重要だ。

一方で、軌道上のデータでは発酵動態が地上よりも緩慢であることが確認されており、重力条件が発酵速度に影響を与えることも示唆された。

  • ISS『きぼう』日本実験棟内での実験環境 出典:JAXA/NASA

    ISS『きぼう』日本実験棟内での実験環境 出典:JAXA/NASA

なぜ発酵速度は変わるのか?

低重力環境では、液体の対流や酵母の挙動が変化する。

地上の発酵では、液体内の対流や酵母の移動は重力の影響を受けている。一方、宇宙や月面のような低重力環境では対流が弱まり、酵母の分布や栄養の行き渡り方が変化する可能性がある。

今回の実験で発酵速度が低下した背景には、こうした重力の違いによる微生物の挙動変化があると考えられる。

  • ISSから帰還した、宇宙用に開発された清酒醸造装置 出典:獺祭/三菱重工業

    ISSから帰還した、宇宙用に開発された清酒醸造装置 出典:獺祭/三菱重工業

この実験は何を意味するのか?

発酵は温度だけでなく「重力」にも依存するプロセスであることが示された。

今回の試験では専用の醸造装置やセンサーを用いて発酵状態を管理しており、極限環境でも製造プロセスを制御できる可能性が示された。

製造プロセスを構成する要素を分解し、極限環境で再現することで、これまで見えにくかった要因を明らかにできる可能性がある。

宇宙での製造は、地上では把握しにくいプロセスの本質を浮き彫りにする“実験場”ともいえる。

地上の製造業に応用できるのか?

宇宙での実験は、地上の製造プロセス最適化にもつながる可能性がある。

発酵や化学反応の効率を高めるための攪拌方法や環境制御の見直し、さらにはバイオプロセス全体の再設計につながる可能性がある。

極限環境での検証は、製造条件の“本質”を見極める手段として、今後さまざまな分野で応用が期待される。

こうした知見は、発酵や化学プロセスに限らず、製造業全体の工程設計の見直しにも寄与し得る。

なぜ宇宙で日本酒を造るのか?

月面生活におけるQOL向上を見据えた長期プロジェクトだ。

「獺祭MOONプロジェクト」は、将来の月面生活における生活の質向上を目的とした取り組みで、月面での酒蔵建造と清酒醸造の実現を目指している。

2040年代の月面居住を見据え、2050年ごろの実現を目標とする長期計画だ。

米はブドウに比べて軽く輸送しやすく、将来的には月面の水資源を活用することで現地生産も視野に入る。

  • 宇宙実験を経て完成した清酒 出典:獺祭/三菱重工業

    宇宙実験を経て完成した清酒 出典:獺祭/三菱重工業