獺祭と三菱重工業は4月28日、月面での清酒製造を目指す「獺祭MOONプロジェクト」の第一弾ミッションを完遂したと発表した。両社は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟のJAXAの実験装置内部で月面重力を模擬した環境において、人類史上初となる清酒のアルコール発酵過程を確認することに成功した。
ISS「きぼう」船内で発酵を終えたもろみは、地球へ帰還し、今年3月に獺祭の本社蔵にて清酒へ仕上げられ、予定していた「獺祭MOONプロジェクト」第一弾ミッションはすべて完了した。
なぜ宇宙で日本酒を造るのか?
「獺祭MOONプロジェクト」は、将来の月面生活におけるQOL(Quality of Life:生活の質)向上を目的とした、月面での酒蔵建造と獺祭の醸造を目指す取り組みだ。
同プロジェクトは2024年に始動し、将来的には2050年ごろの月面での酒造り実現を視野に入れた長期計画として位置付けられている。
2040年代に人類の月面への移住が実現する場合、長期間を月で暮らす中で、酒は生活に彩りを与える存在になると考えられる。水分を多く含むブドウと比べ穀物である米は軽いため月まで輸送しやすい特徴があることから、将来的に米と、月にあると言われる水を使い、月面で獺祭を造りたいという。
宇宙で発酵は成立するのか?
今回、ISS「きぼう」船内での醸造試験により得られたもろみを地上で分析した結果、アルコール度数が12%に到達していることを確認し、月面重力の環境下でも地上と同様の製造プロセスで清酒製造が可能であることが実験的に示された。
一方、軌道上のデータでは発酵動態が地上に比べて緩慢になることが確認され、重力条件が発酵速度に影響を与えることが示唆された。
また、日本酒特有の「並行複発酵」という複雑なプロセスが、低重力環境でも成立するかどうかを検証した点も、今回の実験の重要なポイントといえる。
つまり、低重力環境でも日本酒特有の発酵プロセスが成立する可能性が示されたことになる。
何が地上と違うのか?
地上の発酵では、液体内の対流や酵母の移動は重力の影響を受ける。一方、宇宙や月面のような低重力環境では、こうした対流が弱まり、酵母の分布や栄養の行き渡り方が変化する可能性がある。
今回の実験で発酵速度が低下した背景には、こうした重力の違いによる微生物の挙動変化があると考えられる。
この実験は何を意味するのか?
この結果は、発酵というプロセスが単なる温度管理だけでなく、重力環境にも依存していることを示した点で重要だ。
さらに今回の試験では、専用の醸造装置やセンサーを用いて発酵状態を管理しており、極限環境においても製造プロセスを制御できる可能性が示された。
製造プロセスを構成する要素を分解し、極限環境で再現することで、これまで見えにくかった要因を明らかにできる可能性がある。
宇宙での製造は、地上では見えにくいプロセスの本質を浮き彫りにする“実験場”ともいえる。
地上の製造業に応用できるのか?
宇宙環境での製造実験は、地上の製造プロセスを最適化するヒントにもなる。例えば、発酵や化学反応の効率を高めるための攪拌方法や環境制御の見直し、さらにはバイオプロセス全体の再設計につながる可能性がある。
極限環境での検証は、製造条件の“本質”を見極める手段として、今後さまざまな分野で応用が期待される。
こうした知見は、発酵や化学プロセスに限らず、製造業全体の工程設計を見直すヒントにもなり得る。



