地球と月を往復する約10日間の飛行を終え、日本時間2026年4月11日、米国航空宇宙局(NASA)の「アルテミスII」ミッションが地球に帰還した。

巨大月ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)と新型有人宇宙船「オライオン」に4人の宇宙飛行士を乗せた初のミッションは、大きなトラブルもなく無事に終わりを迎えた。

そして、それは新しいミッションの始まりでもある。2027年には月着陸に必要な技術を試験する「アルテミスIII」が行われ、その先の2028年前半には「アルテミスIV」で宇宙飛行士が月面に降り立つことになっている。

だが、そこへ至るまでには多くの課題が残っている。

  • 地球に帰還したアルテミスII (C)NASA/Bill Ingalls

    地球に帰還したアルテミスII (C)NASA/Bill Ingalls

これまでのアルテミス計画の概要

アルテミス計画は、米国航空宇宙局が中心となり、欧州、カナダ、日本などと共同で進める有人月探査計画だ。これが実現すれば、人類が月面に立つのはアポロ計画以来およそ半世紀ぶりとなる。

ただ、アルテミス計画の目的は、単に人を月へ送り返すことではない。月で継続して活動し、その技術や経験を将来の有人火星探査へつなげることにある。

この計画を実現するため、地球を離れて月へ向かうための巨大ロケットSLS、宇宙飛行士が乗るオライオン宇宙船の開発や試験が進んでいる。さらに、月周回軌道から月面へ降りる月着陸船や、月面で活動するための新しい宇宙服の開発は、民間企業が挑んでいる。無人で機器や実験装置を運ぶ月着陸機も民間企業が積極的に参画しており、すでに複数機が打ち上げられ、月面着陸に臨んでいる。

アルテミス計画は、まず2022年に、無人試験飛行の「アルテミスI」が行われ、SLSとオライオンの基本性能が確かめられた。続いて2026年4月にはアルテミスIIが実施され、4人の宇宙飛行士が月をフライバイし、地球へ帰還した。

従来の計画では、2028年に「アルテミスIII」で2人の宇宙飛行士が月の南極付近に降り立ち、その一方で月を回る宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建造も進め、「アルテミスIV」以降はゲートウェイを拠点に宇宙船と月着陸船の乗り換えや科学探査の準備などを行い、継続的に月面探査を行う予定だった。

  • ゲートウェイの想像図 (C)NASA

    ゲートウェイの想像図 (C)NASA

有人月着陸は「IV」へ先送り、ゲートウェイは一時停止に

ところが、この計画の進め方は2026年2月に発表されたアルテミス計画のアップデート、そして3月に発表された「Ignition」によって大きく見直された。

まず、2027年に新たにミッションを追加し、その後は少なくとも毎年1回の月面着陸をめざす方針を示した。この見直しで、アルテミスIIIとIVの役割は大きく変わった。

新しい計画でのアルテミスIIIは、月面着陸ではなく、地球低軌道での技術実証を目的としたミッションとなった。宇宙飛行士はオライオンで地球を回る軌道へ入り、民間企業が開発した月着陸船との間でランデヴーやドッキングを試す。相手はスペースX、ブルー・オリジンの月着陸船のうち1機、または2機になる可能性がある。このミッションにより、オライオンと月着陸船を安全に近づけて結合できるか、結合した状態で運用できるかといった、月面着陸に欠かせない基本能力を実証する。

新計画におけるアルテミスIIIは、月面着陸ではなく、地球低軌道での技術実証を目的とするミッションになった。宇宙飛行士はオライオンで地球を回る軌道に入り、民間企業が開発する月着陸船とランデヴーやドッキングを行う。

月着陸船は、スペースXが開発している「スターシップHLS」、ブルー・オリジンが開発している「ブルー・ムーンMK2」のうち1機、または2機になる可能性がある。この飛行では、オライオンと月着陸船を安全に近づけて結合できるか、生命維持や通信、推進などに問題がないかといった確認を行い、新しい船外活動服の機能なども確かめる。月面着陸の本番に臨む前に、欠かせない基本能力をリハーサルする目的がある。

そして、アルテミス計画にとって最初の有人月着陸を担う役目はアルテミスIVへ移った。打ち上げは2028年前半を目標としており、4人の宇宙飛行士がオライオンで月周回軌道へ向かい、あらかじめ月軌道に投入された月着陸船とドッキングし、2人が乗り移って月の南極付近へ降下する。月面では約1週間にわたり、試料採取や観測、科学実験を行ったあと、ふたたび月周回軌道へ戻って残る2人と合流し、地球へ帰還する。どの着陸船が使われるかは準備状況によって決まる見通しだ。

NASAは、あくまで計画見直しであり、月面着陸の延期ではないとしている。実際、最初の月面着陸の目標時期は引き続き2028年前半とされている。

また、SLSの開発、運用方針にも変更がある。現在のSLSは、「ブロック1」と呼ばれる暫定的な仕様で、上段に「暫定極低温推進段」(ICPS)を使っている。従来はアルテミスIVから、より能力の高い「ブロック1B」へ移行する予定だった。

ブロック1Bの最大の違いは、上段を新しい「エクスプロレーション・アッパー・ステージ」(EUS)に置き換える点にある。EUSはICPSより大きく、燃料搭載量と推力は約4倍に増え、RL10C-3エンジンを4基備える。その結果、ブロック1では月へ向かう軌道に27tの打ち上げ能力だったのに対し、ブロック1Bは38tを送れるようになる予定だった。

しかし、見直しによって、NASAはSLS用の新しい第2段を用意し、その構成で標準化する一方、EUSの開発は取りやめるとした。また同時に、これまでは新しい移動発射台「ML2」も建造する予定だったが、これも中止となった。

  • SLSブロック1Bの想像図 (C)NASA

    SLSブロック1Bの想像図 (C)NASA

こうした新しい施策により、アルテミスIV以降、毎年少なくとも1回の月面着陸の実施するほか、さらに、有人月着陸船や月面への補給・輸送の仕組みに、民間企業の力と繰り返し使える宇宙機をこれまで以上に取り入れ、まずは6カ月ごとの有人月着陸をめざす方針を示した。

さらに、ゲートウェイについても建造を一時停止し、月面基地の建設に注力する方針を示した。ただし、ゲートウェイのために開発が進められてきたハードウェアや、日本や欧州などパートナーからの貢献は、可能な限り再利用するとしている。

月面基地の建設は、3段階で進める方針で、まず第1段階では民間企業による商業月面輸送サービスや月面車を活用して活動の回数を増やし、第2段階では半居住型の設備と定期補給を整え、そして第3段階では貨物も運べる有人月着陸船でより重い設備を運び込み、継続的な人の滞在へつなげるとしている。

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  • 月面基地の想像図 (C)NASA

    月面基地の想像図 (C)NASA