2020年4月から「民法」の一部が改正されるのはご存じでしょうか。民法は、簡単に言うと生活の基礎となるルールを定める法律で、実は私たちの身近な生活に関わる多くの取り決めをしています。「こんなことも知っておかないとトラブルになるかもしれないの!?」というようなことも。改正された内容から一部を紹介します。

  • 120年ぶりの民法改正で、暮らしはどう変わる? ※画像はイメージ

今さら聞けない、「民法」って?

民法は、「生活の基礎となるルールを定める法律」です。

日常生活のなかでは、事業者対消費者、家族同士、友人同士というさまざまな間柄があります。普段は仲良しでも、何らかの事故や契約トラブルが発生するとお互いの立場は利害が対立する関係になってしまいます。対立すると、双方共に自分の言い分が正しいと主張するばかりで折り合いがつかない場合もありますね。

そこで双方の責任分配の基本的なルールを決めて条文化し、解決に役立ててもらうというものが民法です。

民法は次のように大きく5つに分けて構成されています。

第1編:民法総則
第2編:物権(所有権、占有権、抵当権など の担保物権についてのルール)
第3編:債権
第4編:親族(夫婦、親子に関するルール)
第5編:相続

上記5つの項目のうち、今年4月から改正されるのは、第3編の「債権」に関するルール。債権とは、簡単に言うと契約に関するルールのことです。

実は1896年(明治29年)に制定されてから実質的な見直しがほとんどされないまま現在に至っています。120年前と今では社会が大きく変化していますが、当時には想定されていなかった契約形態も、現在では実務のなかで取り扱われています。

そこで、現在の社会経済に合うように、約200の項目が改正されました。その中から身近な生活で知っておきたい3つを見ていきましょう。

「契約」はハンコがなくても成立する

契約といえば保険契約や部屋を借りるときの契約のように、書類に署名・押印することが必要だと思っている人は多いと思います。

しかし実は、特別の決まりがある場合を除いて書類は不要で、申し込みと承諾の意思の合意があれば、いわゆる口約束でも契約は成立します。

一例として、電話で1週間後の誕生日のためにケーキを注文したとしましょう。しかし急に誕生日パーティができなくなり、前日に注文のキャンセルの電話をしました。このとき、店のほうではすでに仕込み済み。ケーキ注文の契約書が存在し、署名・押印していなかったとしても、キャンセルには応じられないと支払いを求められることがあります。

意図するかしないかに関わらず、このような契約に関するトラブルは現実生活で多々あります。年初からの新型コロナウィルスの感染拡大によって、このような経験をされた人も多いかもしれません。

今回の民法改正では、この契約の成立について、条文で明記されました。契約は金銭にも関わる大切な事柄ですから、改めて確認しておきたいですね。

「約款」=「契約内容」になるケースも

「約款」とは事業者が契約内容や条件を画一的に定めた契約条項のことで、電気・ガスの契約や、預金や保険の契約など、さまざまな場面で用いられています。ショッピングサイトやポイントサイトなどの利用規約も該当します。

ショッピングサイトなどを利用する際、利用規約の内容を確認しないまま「同意する」ボタンをクリックしていませんか?

実はこれまで約款に関する規定はなかったものの、民法改正に伴い、不特定多数の消費者を対象に画一的に処理をすることが合理的な場合、約款の内容が契約内容となることがルール化されました。約款の内容を認識しないまま同意してしまうと、その内容で契約したことになってしまいます。

極端な例ですが、約款の確認を怠ったことで、ショッピングサイトを利用した際、サブスクリプション契約のように毎月商品が送られてきてしまったり、ポイントの有効期限が短すぎて、せっかく貯めたポイントが失効してしまったり、というようなことも考えられます。

消費者の利益を一方的に害する不当な条項は、その効力がない旨も改正民法に記載されてはいますが、お金を無駄にしないためにも知っておきたい条項です。

「意思能力」に関するルールが明文化

高齢化社会の急速に進行により、判断能力を有しない高齢者とともに、これらの高齢者を狙った悪質な販売契約なども増えてきています。

認知症や事故などで意思能力(判断能力)がない人が行う契約は無効であることは一般的なルールとして確立されていますが、このことを定めた法律はこれまでにありませんでした。そこで今回、改正民法で新たにルール化し、条文として明記されました。

ただし、例えば認知症の高齢者であったとしても、「外見だけでは判断能力のなさを知ることができない」と事業者に主張されるケースも想定されます。民法に規定されたとはいえ、トラブルが起こってからの対応では、証明に時間と労力を要してしまいます。成年後見人制度を利用するなど、事前の対策をしておけるといいですね。

そもそも民法は責任分配のルールを明確化した法律です。ルールを知っていれば適正な判断や対処ができ、自分や大切な人を守ることもできそうです。

暮らしの身近な部分では、いつどのようなトラブルに遭遇するかわかりません。120年ぶりに改正された民法の内容に関心をもち、トラブルのない生活を目指していきたいですね。

著者プロフィール: 續恵美子

女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター
ファイナンシャルプランナー(CFP)

生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢見て退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに--。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動している。エフピーウーマンでは、女性のための無料マネーセミナー「お金の(学び場)」を無料開講中!