東京2020オリンピックへの、新型コロナウイルスの影響が懸念されています。開催や延期など、どのような結果になったとしても、感染症の正しい知識を持っておくに越したことはありません。医学博士の木村至信氏(以下、キムシノ氏)に聞きました。

  • スポーツ観戦時の感染症リスクの注意点は?

オリンピックなどで気を付けるべき感染症

オリンピックなどの国際的なイベントでは、国内に外国人が増え、人が大勢集まる場所が増えるという2点において注意が必要となります。特に、後者については、「一定期間、制限された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」を指す「マスギャザリング(※)」による感染症リスク増大の心配も。
※日本集団災害医学会の定義

キムシノ氏 「日本が夏なら、南半球の季節は冬。感染症のサイクルが違う南半球から、インフルエンザなどの感染症が国内に持ち込まれる懸念があります。また、アジアで流行するデング熱やジカ熱、アフリカで流行するマラリアなども心配ですね。海外で日常的に流行している風疹や麻疹、流行性耳下腺炎、結核などの流入にも注意が必要となります。

さらに、オリンピックでは、日本と習慣が違う外国人が多く訪れます。排泄物や咳、鼻水などの処理が適切でない場合、これらの中に病原体が入っていることもありえます。インフルエンザや新型コロナウイルス対策でやっていたことをそのまま続けて、手洗いや手指のアルコール消毒・保湿、マスクなどはずっと行いましょう。予防接種で防げるものは可能な限り行い、しっかり対策することも検討しましょう」。

観戦や日常生活で注意すること

耳鼻咽喉科医のキムシノ氏としては、「喉や鼻の粘膜の保護」の必要性を強く訴えています。粘膜の中でも喉や鼻など、「外に出ている」粘膜はウイルスや細菌の入り口になりやすいと、前回教わった通りです。

キムシノ氏 「喉や鼻は本来、自己免疫力を持つ器官です。ですが、乾燥したり炎症が起きたりするとそのパワーが落ちてしまいます。観戦中でも、十分な水分を取るように心がけましょう。大声を出して、つばを飛ばす、飛んでくるような応援の時は特に気を付けてほしいです。

観戦中や観戦後は、いくら気分が盛り上がったり、意気投合したりしても、知らない方とのハイタッチやハグなどは慎重にしましょう。いろいろと気を付けてほしいことを申し上げ、あまりおもしろくないかもしれませんが、身の安全と健康を守ることを第一にしてくださいね!」。

医師が行う予防法とは

昼はクリニック、夜は横浜市の夜間救急外来を担当するなど、多忙を極めるキムシノ氏。さらに、シンガーとして活動しており多方面で活躍中ですが、めったに風邪を引かないのがさすがプロ。ご本人はどんな予防法を実践しているのでしょうか。

キムシノ氏 「私はペットボトルの水にうがい薬を入れたものを持ち歩き、1時間に一回トイレでうがいと手洗いをしています。時間で決めた方が良いです。

あとは免疫力を上げるために1日2,000ミリグラムのビタミンCとヨーグルト200グラムの摂取はルーティンです。その他、靴下2枚履きで体温を下げないようにする、外出時は夏場でもマスク装着を心掛けています。毎日続けることが大事。慣れると面倒ではなくなり、やらないと気持ち悪いくらいになりますよ」。

新型コロナウイルス流行とオリンピック誘致を契機に、感染症と予防への社会的関心が高まっていますが、さらなる周知の徹底が必要と語ります。

キムシノ氏 「オリンピック会場でも、手洗いや消毒、マスクの呼びかけなども必要です。とても地味で根気のいることですが、必要不可欠の予防策と考えます。私が働く横浜市は外国人旅行者が多く、体調を崩した方をよく診察します。わざわざ観光に来たので、熱があっても、咳が出ても旅行を続けがち。私たちが海外に行った時も同様でしょう。

外国では、日本ほどマスクやこまめな手洗いの習慣がないところもあり、時には感染力の強い疾患を持つ方も普通に来日し、病原体を広めてしまうこともあります。こうした事情を踏まえ、オリンピック開催国としては、ホテルなどの宿泊施設では体調の悪い方へ病院受診を勧めること、近隣病院の周知などが求められます」。

※筆者注:衛生概念は国や人ごとに違い、マスクや手洗いを絶対視する意図ではありません。

取材協力 :木村至信(きむら・しのぶ)

女医。信州大学医学部卒業後、横浜市大医学部大学院にて医学博士取得。産業医・横浜市の往診耳鼻科医。夏バテの予防策や美肌、美声などについての監修仕事多数。 医師の傍らシンガーとしても活動中。