ベルギーの独立系研究機関imecは、300mm Si基板上にGaAsヘテロジャンクション・バイポーラ―トランジスタ(HBT)デバイスを、そして200mm Si基板上にCMOS互換GaN系デバイスを形成することに成功し、2020年1月10-13日に米国ラスベガスで開催された米IEEE Consumer Communications & Networking Conference(CNCC)2020の基調講演で紹介した。いずれも5Gおよびそれ以降の次世代通信(6G)向けのミリ波用RFフロントエンドモジュールに使うために開発された。

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    300mm Siウェハ上へのハイブリッドIII-V/CMOS集積。(a)はナノトレンチ形成(欠陥はナロートレンチ領域に捕獲される)。(b)はSi基板上へのHBT積層成長。(c)はHBTデバイスの構造模式図 (出所:imec)

5Gワイヤレス通信では、サブ6GHz帯域からミリ波帯域(およびそれ以上)に向けて、より高い動作周波数への移行が進んでいる。これらのミリ波帯域の導入は、5Gネットワークインフラストラクチャ全体とモバイルデバイスに大きな影響を及ぼしている。

モバイルサービスと固定ワイヤレスアクセス(FWA)の場合、アンテナとの間で信号を送信するフロントエンドモジュールはますます複雑化してきている。ミリ波周波数で動作できるようにするには、RFフロントエンドモジュールは高速(10Gbpsおよびそれ以上のデータレート)でしかも高出力でなければならない。さらに、モバイルハンドセットへの実装では、フォームファクターと電力効率に関して強い要求がある。5Gを超えると、これらの要件は高価なGaAs基板上のGaAs HBTを用いた現状の最先端RFフロントエンドモジュールであっても達成が難しくなる。

imecのプログラムディレクターであるNadine ollaert氏は「5Gを超える次世代RFフロントエンドモジュールを実現するために、imecはCMOS互換のIII-V-on-Siテクノロジーを探求している。imecは、フロントエンドコンポーネント(パワーアンプやスイッチなど)と他のCMOSベースの回路(制御回路やトランシーバーなど)の統合を検討しており、これによりコストとフォームファクターを削減し、新しいハイブリッド回路トポロジを可能にし、所望の性能と効率を確保しようとしている。 このため、Imecは、以下の2つの異なるデバイスを研究している。

  1. ミリ波と将来の6Gに向けた100GHz以上の周波数をターゲットにした「Si基板上に形成したInPデバイス」、
  2. (第1段階として)より低いミリ波を目標にして、さらには高電力密度を必要とするアプリケーションに対処するための「Si基板上に形成したGaNベースのデバイス」。

両方のデバイスについて、期待通りの特性を備えたデバイスの試作に成功したのでこれに基づき、動作周波数をさらに高める方法を特定した」とコメントしている。

imecは、InPベースのデバイスの実現に向けた最初のステップとしてGaAs/InGaP HBTデバイスを300mm Si基板上に形成することの成功し、貫通転位密度が3x106/cm2未満の欠陥のないデバイスを得たという。その性能は、Si基板上に形成した歪緩和バッファー層付きGaAsデバイスよりも良かったことから、次のステップとして、移動度がさらに高いInPベースのデバイス(HBT and HEMT)を試作する予定であるという。

さらに、imec研究者は200mm Si基板上にCMOSと互換性のあるHEMT、MOSFETおよびMISHEMTの3種類のGaN/AlGaNデバイスを試作。デバイスの微細化のしやすさと高周波動作時の雑音特性の見地から、MISHEMTがほかのデバイスよりもすぐれていることを確認したという。300nmゲート長でfT/Fmaxピークカットオフ周波数は50/40という値が得られ、この値は、すでに報告されているGaN-on-SiCデバイスでの値とほぼ同じだという。またimecでは、AlInNをバリア材料として用いてゲート長を縮小することも試みており、性能をさらに上げられるという感触が得られたほか、ミリ波帯の要求にあったデバイスの動作周波数を増加できるという感触も得られたという。

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    200mm Si基板上のGaN/AlGaNデバイスにおける電流利得のカットオフ周波数(fT)と最大電力利得(fmax) (出所:imec)