大事なのは、結果だけではない。少なくとも、大人はそれを理解する必要がありそうだ。
受験シーズンが迫った2019年12月21日、『下剋上受験』の著者・桜井信一さんと、『ビリギャル』のモデル・小林さやかさんのトークイベント「本気で勉強すれば人生は変えられる」がサンケイプラザで開催された。
『下剋上受験』は、中卒の両親のもとで最難関の私立中学・桜蔭学園を目指した娘と父・桜井さんの二人三脚をつづったノンフィクション。書籍はベストセラーとなり、2017年にはテレビドラマ化もされて話題を集めた。
書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』は120万部を売り上げたベストセラー。タイトルどおり、偏差値30だった小林さんが猛勉強の末に慶応大学に合格したという実話が描かれている。『ビリギャル』とのタイトルで映画化もされ、こちらも大ヒット作となった。
「受験のカリスマ」と呼ばれる桜井さんと小林さんだが、意外にもこの日が初顔合わせ。試験の合否だけでなく、「プロセス」を重要視するふたりの話に約200人の参加者が熱心に耳を傾けた。
「受験は、環境を選択するチャンスだ」
小林さんが受験当事者であったのに対し、桜井さんは受験生の親と、その立場は異なる。しかし、「勉強で世界が変わった」という認識は共通している。
「受験しなければ地元の名古屋から出ることもなく、ヤンママになっていたかもしれない」と小林さんは言う。
「それはそれで楽しかったと思うけど、世界は圧倒的に小さかったはず。受験は、学歴を勝ち取りにいく手段ではなく、自分をどんな環境に置くかを選択するチャンスなのだと思う。慶応大学に入ったことで、出会う人の質は変わった。人との出会いは私の宝物だ」(小林さん)。
桜井さんは、娘が入学した私立中学には「キャビアのような子ばかりが揃っていた」と振り返る。娘は現在、医学部進学を目指し、浪人中だという。
「最初、私の娘だけが色を付けたイクラのように見えたが、難関中学に入ったことで、どんどん顔つきも変わっていった。周りの友達もみんな、大きな夢を本当に実現させそうな子たちばかり。うちの娘も短冊に『医者になりたい』と書くのではなく、具体的なビジョンを持てるようになったのは大きな収穫だった」(桜井さん)。
受験生に対して、周りの人々ができること
受験において、何より本人の努力が大事なのは言うまでもない。だが、同時に"環境"が結果を左右するのも事実である。
小林さんは、受験生に「ピグマリオン効果」を与えることが重要だと話す。ピグマリオン効果は心理学用語で、教師が生徒に期待をかけることで、生徒の成績が上がっていくことを指す。
「期待をこめれば人は伸びる。それは心理学では当たり前のこと。逆に『アンタなんか無理』『なんでそんなこともできないんだ』と責めることを『ゴーレム効果』といって、逆効果でしかない。親か先生、少なくともどちらかはピグマリオン効果を与えてほしい」(小林さん)。
さらに、「母は私に対して、『受かっても受からなくても、このプロセスは宝物だよ。結果はどうでもいい』と言ってくれた」と小林さんは紹介。「受験に失敗しても、それで終わりではない。日本は失敗を恐れる文化が強いけど、大人もどんどん挑戦して、失敗する姿を子供たちに見せて、プロセスの大切さを伝えてほしい」と主張した。
桜井さんは「子供のやる気は家庭で、勉強方法は塾で、その分担を忘れないでほしい」と訴え、「やる気がない子を塾に通わせて『成績が伸びない』と嘆くのはおかしい」と疑問視する。
「『どうすれば子供がやる気を出しますか?』とよく聞かれるが、その方法はひとつやふたつじゃない。子供のやる気は、そのままだと3日も持たない。親は、凧揚げの風となってやる気を支えないといけない。難関中学にたどり着くのは、そうして死力を尽くした親の子供たちなのだと思う」(桜井さん)。
勉強をするのは「自分のため」ではなく、「誰かのため」
小林さんは最後に「何のために勉強するのか、ということだけは忘れないでほしい」と力を込め、次のように締めくくった。
「私は常に、『勉強は自分のためではなく、誰かのためにするんだよ』と伝えています。女はエリートの男を捕まえれば一生養ってもらえるし、男は畑で野菜を育てれば死なずに生きていける。でも、いつか大好きな人ができて、結婚して、子供ができれば、その赤ちゃんは何もできない状態で生まれてくる。大人の能力が試されるのは、そのときだと思う。
色んな能力がないと、子供は育てられない。あらゆる動物がすぐに自立するなかで、人間だけは20年も保護しないと、子供が生きていけない。親は、命がけで子供を守ろうとするけど、そこで子供を守る土台となるのが知識。勉強は、誰かを守るための武器になる。
大人が思っている以上に、子供は勉強する『目的』を大切にしている。受験を頑張るのは大事だけど、何のために頑張るかということを丁寧に教えてあげてほしい」(小林さん)。