退職金は、老後生活を支える重要なお金として位置づけられてきました。その退職金が、ピーク時の20年前と比べて1,000万円以上も減っているといいます。それは本当なのでしょうか。退職金の平均の推移や、今後この金額がどうなっていくのかの予測など、退職金の気になる点についてまとめてみました。

  • 退職金が20年前より"1,000万以上"減っている! この先どうなる……?

    退職金が20年前より"1,000万以上"減っている! この先どうなる……?

退職金の平均は右肩下がり

会社員にとって、リタイア後の生活水準にも大きく影響する退職金。では、退職金の平均はどのように推移しているのでしょうか。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、定年退職者(大卒・大学院卒、管理・事務・技術職)の平均退職給付額(退職一時金と退職年金の合計※、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)は、1997年の2,871万円をピークに、右肩下がりとなっています。

2018年にいたっては、1,000万円以上ダウンした1,788万円。「20年前より退職金が1,000万円も減っている」というのは、データを見ると明確です。1997年から約5年ごとの退職金の平均の推移は、以下のようになっています。

・1997年……2,871万円
・2003年……2,499万円
・2008年……2,280万円
・2013年……1,941万円
・2018年……1,788万円

年を追うごとにどんどん給付額が下がり、2013年にはついに2,000万円の大台を割っています。たった20年で1,000万円も退職金が減っているのですから、「私たちがリタイアを迎える頃には、どうなってしまうの?」と不安な気持ちにもなってしまいますよね。

退職金が減少している要因は様々ありますが、その一つとして、企業の退職給付制度が変化していることが挙げられます。たとえば、マイナス金利政策などによって運用状況が厳しく、給付制度を確定給付型から確定拠出型へ移行する企業は少なくありません。公的年金に頼り切れなくなっているうえ、退職金や企業年金もあてにできないとなると、いよいよ本格的に老後資金の準備に自助努力が求められる世の中になるでしょう。

※退職一時金制度のみの場合は退職一時金額、退職年金制度のみの場合は年金現価額

自分の退職金を把握している人は少ない

将来、公的年金の受給額減少が予想される中、退職金までもがこのように減り続けている状況では、ますます老後生活が心配です。近ごろでは、老後まで長い時間がある若い世代でも、リタイア後の生活に不安を抱える人は増えている印象です。しかし、不安ばかりが先立ち、実際に自分が受け取れる年金や退職金の額をきちんと把握していない人が多いという実状もあるのです。

日本FP協会の「世代別比較 くらしとお金に関する調査2018」によると、「自身が受け取る公的年金の金額をどのくらい把握しているか」という質問に対し、「金額を把握している」「金額をおおよそ把握している」と答えた人は、20代では18.5%、30代では24%、40代でも29.5%にとどまっています。

また、同調査では「退職金を受け取る予定があるか」という質問に対し、「受け取る予定がある」と回答した人は36.8%、「受け取る予定はない」と回答した人は63.3%となりました。そして、「受け取る予定がある」と答えた人のうち、受け取る「金額を把握している」「金額をおおよそ把握している」と答えた人は、20代で27.7%、30代では29.7%、40代でも28.4%となっています。

50代になると公的年金、退職金ともに金額を把握している人がぐっと増えます。公的年金の「金額を把握している」「金額をおおよそ把握している」人は54%、退職金の「金額を把握している」「金額をおおよそ把握している」人は60.2%となっています。

公的年金や退職金の正確な金額を若いうちから見通すことは難しいですが、おおまかな金額を知り、老後資金として不足する分は、自分で補うための準備を始める必要があります。まずは勤め先の退職金制度や年金制度を把握することから始めてみましょう。

退職金の額を知るには、会社の年金基金の担当者や、人事、総務などに直接問い合わせてみるのが一番正確な確認方法です。なお、確定拠出型年金に加入している場合は、年に一度以上、資産の運用状況を知らせる通知が届くはずですので、そちらを忘れずに見てみましょう。

今後の退職金はどうなる?

1997年のピーク時から、どんどん下がり続けている退職金。今後はどのようになっていくと考えられるでしょうか。

先述の通り、企業の退職給付制度は変化しています。退職金制度を廃止する企業や、退職年金を廃止し退職一時金のみとなる企業も年々増加しており、こうした退職金をめぐる企業の動向を見てみると、先行きには不安が残りそうです。また一般的な企業年金にあたる「確定給付年金」は、外部の金融機関に委託して積立が行われますが、退職一時金は、企業が自社積立を行っています。そのため仮に会社が倒産しても確定給付年金は確実に受け取れますが、退職一時金の場合、倒産や業績悪化で受け取れなくなってしまう可能性もあるのです。

さらに、近年多くの企業で採用されている「ポイント制」の退職金制度により、もらえる退職金が減る可能性もあります。これは勤続年数や役職、業績、資格などの「累積されたポイント×単価」で退職金が計算される仕組みの退職金制度です。つまり、これまでのように勤続年数が長ければその分退職金が増えるとは限らず、同期入社であっても、人事評価や昇進があるかないかなどによって退職金の額に大きな差が生じることを意味しています。ポイントが高ければ、それだけもらえる退職金が多くなる一方、ポイントが低いと退職金は少なくなるのです。

退職金制度にはこのような背景があることから、今の40代の人が定年を迎える頃には、退職金の平均が1,000万円を割ってもおかしくないという推計もあります。となれば、退職金をあてにした老後生活の設計は、今後難しくなると言わざるを得ません。

老後のために積立を始めてみよう

「老後資金2,000万円問題」をきっかけに、リタイア後のお金に関心を持ち始めた人は多いと思います。公的年金だけでなく、退職金も充分な額がもらえないとなると、不安は募りますよね。しかし、ただ不安になっているだけでは何も解決しません。現状を知り、不足するお金を把握したら、それを補てんするための行動を取りましょう。

たとえば、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」は、現役世代のほぼ全ての人が加入できる私的年金です。iDeCoは税制優遇に優れているため、お得に節税しながら老後資金をコツコツ積み立てていけます。残念ながら国や会社を頼りにするだけでは、老後の生活は厳しいものになる時代に突入しています。自分で備えることが必須となる世の中がすでに訪れているのです。