一般社団法人鉄道模型コンテストは7月27・28日の2日間にわたり、「鉄道模型コンテスト2019」を開催した。今回は東京ビッグサイト青海展示棟Aホールを会場に、全国の高校生らが作り上げた作品が一堂に会した。

  • 数ある出展作品の中、この作品が文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞し、ドイツ行きを勝ち取った(写真:マイナビニュース)

    数ある出展作品の中、この作品が文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞し、ドイツ行きを勝ち取った

「鉄道模型コンテスト2019」では、「第11回全国高等学校鉄道模型コンテスト」と「KATO T-TRAKジオラマコンテスト」の2種類のコンテストが開催された。前者は高校生を対象に、後者は18歳以上の個人を対象にしており、各参加者はそれぞれの規格に沿って作品を作り上げる。

イベント2日目(7月28日)、10時に開場して間もなく「全国高等学校鉄道模型コンテスト」の表彰式が行われた。このコンテストは「モジュール部門」「一畳レイアウト部門」「HO車両部門」の3部門に分かれ、HO車両部門では神戸市立科学技術高等学校、一畳レイアウト部門では岩倉高等学校が最優秀賞を受賞した。

モジュール部門の文部科学大臣賞(最優秀賞)には広島城北中・高等学校が選ばれた。これにより、同校は今後、ドイツ・シュトゥットガルトで開催される「ヨーロピアン Nスケールコンベンション」へと招待される。

  • 関水金属・KATO代表取締役社長の加藤浩氏(写真左)、全国高等学校鉄道模型コンテスト実行委員会理事長・廣澤廣氏(同右)の間に立ち、賞状、トロフィーと「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」そして「ヨーロピアン Nスケールコンベンション招待」の目録を掲げて撮影

優秀賞、最優秀賞の他にも、加藤祐治賞、ベストムービー賞、学生が選ぶナンバーワン賞などさまざまな賞が用意され、多くの参加校が賞を受賞した。審査委員長を務めた東京芸術大学美術学部講師の八木澤優記氏が講評を行い、「まずは構図を考えましょう。水平垂直になってしまうところをいま一度考えて、少し変化をつけていくだけでだいぶ変わります。それから色。写真に撮ってみて、白黒に置き換えて、白、グレー、黒がバランスよく入っているか、そういう視点でインパクトがあるかどうか検証してもらってもいいかなと思います。頑張ってください」と激励の言葉を贈った。

それでは、モジュール部門から各作品を見て行こう。モジュール部門最優秀賞を受賞した広島城北中・高等学校の作品では、生徒らの地元である瀬戸内の情景がジオラマにされている。各建物に関しては一から自作。海の部分は水の透明感と色を表現しつつ、消波ブロックに打ちつける波しぶきも再現している。その上で、各建物や街灯は電飾されており、展示中も暖かな光が灯っていた。限られたスペースの中で見どころが凝縮された作品と感じた。

  • 瀬戸内の海に沿った情景をコンパクトに凝縮。緩やかなカーブを描く海岸線を見ていると、まるで本当にその場の音が聞こえてくるかのよう。取材中、JR山手線で走っていたE231系「みどりのリラックマ電車」が通過し、模型ならではの場面を押さえることができた

白梅学園清修中高一貫部の作品は2層に分かれ、下段の住宅地や玉川上水がある密度の濃い情景を抜けると、上段の校舎に行き着くイメージになっている。校舎内には机といすも置かれているが、これらは生徒らが実際の大きさに沿ってスケール化し、すべて手作りしたとのこと。大変な作業を見事成し遂げた根気強さは尊敬に値する。

  • 下段は駅前の住宅街や玉川上水、上段は生徒らの通う校舎を再現。下段の密度の濃さに加え、上段の校舎窓から見える机、いすなど小道具のおかげでリアルな出来に

今回は台湾からも2校が参加。彰化縣立竹塘國民中學は牡蠣の養殖を行っている海沿いの風景、彰化縣立彰安國民中學は八卦山の大仏がある風景を表現。日本にはない台湾ならではの情景から生徒らの意欲を垣間見ることができた。

  • 彰化縣立竹塘國民中學の作品。海沿いの線路のそばには大きな風力発電機と灯台があり、立体感がある。線路手前では牡蠣の養殖が再現され、水牛を牽いて牡蠣を獲るとのことだ

  • 彰化縣立彰安國民中學の作品。坂の頂上に置かれた大仏はデフォルメされていてかわいらしい。草木が青々としており、明るい印象も感じられる作品になっている

続いて一畳レイアウト部門。最優秀賞を受賞した岩倉高等学校の作品を見学した。中央の駅から広がる街並みと、なだらかな山がまず目を引く。この作品では、線路に高低差があり、道路との立体交差も設けられているなど見どころが満載。初夏という設定もあり、奥の田んぼではビニールハウスが骨組みだけになっている点も細かい。大半の建物を紙で自作したとのことで、既製品にはないオリジナリティも感じられた。

  • 畳一畳サイズには、その大きさを生かして多数の情景が作り込まれている。模型の鉄道に乗り込み、中からじっくり情景を観察したいとも思える作品になっていた

HO車両部門では、神戸市立科学技術高等学校の作品を見学。北陸を走った419系の、両端で異なる先頭形状が見事に再現されている。赤の車体に白いラインの国鉄色というのも興味深い点だった。

  • HOゲージサイズで419系国鉄色を出展。異なる2つの顔や、中間車の屋根の高さの違いを見事に作り分け、受賞に至った

他にも多数の作品を見学した。すべてを詳しく紹介することができず心苦しいが、それほどに各作品とも個性豊か。生徒自ら熱意をもって作品の魅力、工夫した点、思い入れなどを説明していた。皆それぞれが作品に対し、心からの愛情を込めて取り組んだことがうかがえた。

  • 大胆にも線路を池と地面に隠して平等院鳳凰堂を目立たせた作品や、京都市営地下鉄に乗り入れていなかった時代の京阪京津線を再現した作品も(制作 : 左から星稜中学校・高等学校、大阪府立佐野工科高等学校)

  • 自動で動くケーブルカーと伏見三十石船のある作品、西武池袋線の入間川橋梁をイメージした作品など、全く異なる情景だがそれぞれに良さがある(制作 : 左から奈良工業高等専門学校、関東学院中学校高等学校)

  • 左の作品では、横浜スタジアムをジオラマサイズで表現し、手作りで観客を並べたとのこと。線路はこの下に通っている。一方右の作品では、金沢の歴史ある街並みが隅々まで丁寧に作られている(制作 : 左から日本大学藤沢高等学校・中学校、関東学院六浦中学校・高等学校)

  • 一畳レイアウトでも、滝と川が目を引く情景や、山に囲まれた市街地など多種多様な情景が出展された。この市街地の裏は水田になっているのもポイント(制作 : 左から横浜富士見丘学園中学校・高等学校、城北高等学校)

次に「KATO T-TRAKジオラマコンテスト」の作品を見て行こう。このコンテストでは、世界的な統一規格「T-TRAK」のジオラマボードを使用した作品を競う。ボードは卓上サイズで、線路さえあれば自由な発想でジオラマを作ることが可能だという。

こちらはイベント2日目の15時25分頃から受賞者発表が行われ、東京メトロ銀座線渋谷駅で工事中の風景をジオラマ化した作品が最優秀賞に選ばれた。

  • 山手線の上にトンネル工事中の地下鉄銀座線が通り、さらに見上げれば渋谷ヒカリエがそびえ立つ。特徴的なM字の骨組みや複雑な街並みが上手く収まっており、目線を下げると本当に情景に入り込んだかのような感覚さえ覚える

制作者のペンネーム「kazubo」さんは、「主観で、ホームに立って日常の風景を感じてもらえるようなものをめざして作りました。レギュレーションは本来足枷なんですけども、それを逆に生かせないかと思って空間を切り取ったのが功を奏したという感じで、非常にうれしく思います」と感想を述べた。

他のT-TRAKジオラマ作品も見学した。卓上サイズのジオラマ上を鉄道ではなくバスの車両が周回する技巧派な作品や、関東の渓谷をイメージしたという緑の山深い作品など、作品それぞれに個性や深みがあり、どれも大きさ以上の見ごたえがあった。

  • 電車ではなくバスがジオラマ上をぐるぐる回り、動きのある作品に。片や渓谷イメージの作品では、生い茂る木々の奥に古い建物が見え隠れして面白い。どちらも見た目以上に大きさを感じ、素晴らしい作品だと感じた(制作 : 左からペンネーム「居眠富士狐」さん、ペンネーム「ハナブサリョウ」さん)

また、車両基地のトラバーサーを実物さながらに動かせる作品、さらには現在建設中の新駅・高輪ゲートウェイ駅の完成後の姿をジオラマにした作品も見られた。

  • 鉄道イベントをイメージして制作された作品。トラバーサーが動く非常に個性的な作品だ(制作 : ペンネーム「OYA」さん)

  • 高輪ゲートウェイ駅の作品からは、立体感や近未来感のある駅の姿を開業前に模型で再現する意欲を感じられる(制作 : ペンネーム「いっそん」さん)

2日間にわたり開催された「鉄道模型コンテスト2019」は無事に終了。数多くの素晴らしい作品たちを筆者も楽しみながら見学した。来年は初となる地方大会が福岡県で8月に開催され、本大会は11月に東京ビッグサイトで行われるとのことだ。次回の出展作品も大いに期待したい。