ダイハツ工業は軽自動車「タント」をフルモデルチェンジして発売した。2003年の発売以来、広い室内空間と使い勝手がタントの強みとなってきたが、ダイハツは今回の新型で、そうした強みをさらに磨き上げた。注目は、車内における人の移動に「革新」をもたらすという「ミラクルウォークスルーパッケージ」だ。
「DNGA」の採用で“ミラクル”が実現
ダイハツによると、2003年に誕生した初代タントは、「スーパーハイト系」という軽自動車の新たな市場を生み出したクルマだ。2世代目のタントは、軽自動車として初めてピラーインドアを採用。ピラーとはクルマの側面にある柱のことで、これを前後のドアに収納し、乗り降りのしやすい車体側面の大きな開口を実現したのが2世代目タントの「ミラクルオープンドア」だった。3世代目のタントは後席の両側にパワースライドドアを採用し、さらに使い勝手を高めた。
新型タントでは、クルマの使い勝手を向上させるべく「ミラクルウォークスルーパッケージ」を導入した。このクルマの開発責任者を務めた田代正俊チーフエンジニアによれば、新型タントの車内では「革新的な移動動線」を実現できたという。
それでは、「ミラクルウォークスルーパッケージ」の何がミラクルなのか。その奇跡を生み出したのは、前後に540mmの幅で動かせる運転席のロングスライドシートだ。運転席を後ろにスライドさせれば、後席に積んだ荷物にアクセスしやすいのはもちろんのこと、そのまま立ち上がって、左右どちらのスライドドアからも外に出られる。この動線がミラクルなのだそうだ。駐車した時、運転席側が狭いとドライバーは降りづらいが、この機能を使えば、クルマの左側からでも簡単に降車できる。
田代チーフエンジニアには、初代と2世代目のタントで商品企画を担当した経験がある。2世代目でミラクルオープンドアを採用した際には、移動動線の改革も進めようと考えたそうだが、その時にはやり切れず、いつかは実現したいとの思いを抱いていたそうだ。
新型タントで移動動線を改革できた理由としては、このクルマから採用が始まったダイハツの新たなモノづくり「DNGA」(Daihatsu New Global Architecture)の存在が大きいと田代チーフエンジニアは語る。DNGAで新たに開発したプラットフォームでは、アンダーボディー、パワートレイン、シャシー、シートなど、クルマを構成する多くの要素を同時に刷新。これにより、軽量で高剛性なプラットフォームを実現し、クルマの基本性能を向上させることができたのだという。DNGAの第1弾がタントに決まった時、田代氏は「(2世代目を開発していた)当時は実現できなかったことを実現できる大チャンスだ」と感じたそうだ。
機能拡充も価格帯はキープ
このほかにも、タントには使い勝手や安全性に関するさまざまな改良点がある。例えば、助手席には「半ドア」を防ぐ「イージークローザー」を採用。同機能があれば強くドアを閉めなくても済むので、助手席に子供を乗せる時などには活躍が期待できそうだ。
クルマを降りる時にスイッチを押しておけば、戻った時に自動でスライドドアが開く「ウェルカムオープン」という機能も便利だ。特に、大きな荷物を両手で持って戻ってきた時などには、その効果を実感できるだろう。
安全面では、ダイハツの予防安全機能「スマートアシスト」に運転支援機能「スマートアシストプラス」を加えた「次世代スマートアシスト」を採用。従来からの「衝突警報機能」「衝突回避支援ブレーキ機能」「車線逸脱警報機能」などにプラスして、「車線逸脱抑制制御機能」「アダプティブドライビングビーム」「ブレーキ制御付誤発進抑制機能」などが加わり、全15個の機能がドライバーをアシストする。
「これらの機能を盛り込んで、価格帯はキープ」(田代氏)した新型タント。価格は「スマートアシスト」が付いていない「L」グレードの二輪駆動車(2WD)が122万400円と最も安く、「カスタム RS」というグレードが187万3,800円で最上級となる。月間販売目標は1万2,500台だ。ちなみに、ダイハツのHPで確認したところ、新型タントにとって1世代前のモデルとなる3世代目の価格は122万400円~165万7,800円だった。
背が高く、後席にスライドドアを備える「スーパーハイトワゴン」は今や、軽自動車市場の主流といえる商品だ。軽の販売総数のうち、約半分をスーパーハイトワゴンが占めるという。この市場ではホンダ「N-BOX」が圧倒的な強さを見せているが、ダイハツは新型タントで巻き返すことができるのか。こんな質問を投げかけてみると、田代チーフエンジニアからは「N-BOXと勝負するのではなく、お客さま一人ひとりを見て、最適なクルマを提供していきたい。その結果、台数がどうなるかはお客さま次第」(田代チーフエンジニア)との答えが返ってきた。