カーエレクトロニクスの進化は、CASEやACESという言葉で表されるようになってきた。いずれもAutonomy、Connectivity、Electricity、Shareという言葉の頭文字をとったものだが、要はエレクトロニクス技術とITを使って新サービスを実現するものである。この方向に向けて消費者が買いやすい価格で製造するための概念としてプラットフォーム戦略がある。ダイハツ工業は、クルマ作りにプラットフォーム戦略を採り始めた。

  • ダイハツ

    ダイハツの次世代のクルマを実現するプラットフォームとなるシャシー

プラットフォーム戦略とは、基本的な構造やソフトウェアを作り出し、この上にハードウェア部品やソフトウェア部品を追加・修正していくモノづくりの考え方である。基本構造は変えなくて済むため、顧客層や顧客に少しの部品の追加・修正だけでカスタマイズできる。少量多品種のモノづくりで、コストを上げずに顧客の欲しい製品に近づける考え方だ。

すでに世界の半導体業界では10年以上前から採用されており、手ごろな価格の製品を顧客に提供するために使われてきた。通常、集積化するトランジスタ数が数百万、数千万以上も含むような半導体LSIを開発するのに3~4年かかるが、プラットフォーム戦略を採ることで1年ごとに新製品を提供することが可能になる。例えば、画像処理LSIのベンチャーであるAmbarella社は創業間もないころからプラットフォーム戦略を使い、画像処理プロセッサの新製品を毎年発売してきた。

このプラットフォーム戦略をダイハツが採用することで、ダイハツは彼らのモットーとする「良品廉価」、「最小単位を極める」、「先進技術をみんなのものに」という3つの価値を提供していく。モノづくりの基本は良いものを作るだけではない。良いものを買える価格で提供することである。

ダイハツが基本とするプラットフォームの考え方は、軽自動車を基点に、ACES注1)などさまざまな展開を視野に入れた、一括企画・開発を狙う。すなわち最小単位のプラットフォームを開発し、スケールアップしていく。クルマのサスペンション、アンダーボディ、エンジン、トランスミッション、シートをプラットフォームの構成要素とし、これらを同時に刷新したものになる。だからこそ、ダイハツらしい良品廉価を追求しプラットフォームを再定義した。

新しいプラットフォームは、まず軽自動車から、新戦略を実現していく。しかも世界同時展開する。これまでは、日本で開発した商品や技術を後で新興国へ展開してきたが、これを日本と新興国と同時に進めていく。

ただし、プラットフォームといっても1台の基本構成ですべてを賄えるわけではない。ダイハツは3つの分野について3台のプラットフォームを目指す。軽自動車ゾーンとAセグメントゾーン、さらに上のBセグメントゾーンの3つだ。さらにこれら3つのゾーン内では上あるいはゾーンを超えるクラスの安定感と乗り心地を目指す。それぞれのセグメントゾーンに対して、ハッチバック、セダン、SUV、MPVといった車種を当てはめていく(表1)。

  • ダイハツ

    表1 ダイハツの4つのプラットフォーム

この3つのプラットフォームは、設計思想を共通化するため、それぞれのサイズを相似形で全車種を開発することに決めた。これは性能目標の達成と開発効率の向上を両立させるためだとしている。実は、この相似形の概念は、プラットフォーム開発では重要な考え方だ。

というのは、かつて液晶技術でシャープがSamsungに負けた理由は、Samsungが相似形で画面サイズを決めたのに対して、シャープは顧客ごとにサイズを決めていたためコストで勝負にならなかったからだ。製品をすべて顧客ごとに対応していては、大量購入の顧客ではない限りコスト的に太刀打ちできない。

ダイハツではこのプラットフォーム戦略をDNGA(Daihatsu New Global Architecture)と呼び、日本と新興国と同時に提供していく。新型車の投入ペースはこれまでよりも1.5倍にスピードアップできるため、2025年までに15ボディタイプ・21車種への展開を予定している。

注1) 日本ではCASEという言葉が多いが、米国ではACES(エイシスと発音)という言葉で表現することが多い。エースが複数いるという意味になるため、言葉としてのカッコ良さ、ポジティブな意味を含んでいる。また、最後のSはシェアリングを意味し技術ではないため、それを省略してACE(エース)としても意味は大きく崩れない

プラットフォームと同時に新技術も開発

プラットフォームに導入する個々の技術でもダイハツは再定義した。例えば、ボディの曲げ剛性は30%改善するように変更、その結果車体全体で80kgも軽量化できた。サスペンションの寸法もフロントとリアで変え、より安定にした。

エンジンやトランスミッションも改良した。エンジンでは点火を2回行うマルチスパーク技術を採用、高負荷時におけるシリンダー内の燃焼速度を速め、燃費性能を上げた。1回目の点火による放電エネルギーは時間と共に減少していくが、ゼロになる前にもう一度点火することで、火炎の伝搬速度が向上するという。

トランスミッション系では、従来のCVT(無段変速機)のベルト駆動に加え、より伝達効率の高い「ベルト+ギア」駆動とする「D-CVT(デュアルモード)CVT」技術を採用した。従来のベルト駆動では、トップギアからスピードを上げる場合の伝達が難しくなっていた。今回ギアを併用することで、従来だと変速比の幅が5.3だったが、これを7.3に広げることができた。この結果、ギアによる伝達効率が上がり、エンジンの最大トルクが従来の92Nmから100Nmに上がった。このことにより、低回転では駆動力が向上し、高回転ではエンジンの回転数を下げることができ静かな走行が可能になった。加えて、定地走行での燃費が向上した。60km/時走行時には約12%、100km/時だと19%も向上した。

  • ダイハツ
  • ダイハツ
  • ベルト走行の時はギアを切り離し(左)、安定走行に移るとギアで伝達する(右)

  • ダイハツ

    D-CVT技術によって伝達効率を向上 (出典:ダイハツ工業)

プラットフォーム戦略により、部品を共用化する割合である部品共用化率は75%以上となった。これによりサプライチェーンの安定化と低コスト化によって今後タイムリーな商品を提供できるようになる。この戦略に基づき、2019年7月には第1弾となる新型タントに採用する。加えて年内に第2弾の投入も予定している。