ついに発売となったマツダの新型コンパクトハッチ&セダン「MAZDA3」。2012年発売のSUV「CX-5」から始まった“魂動”デザインを深化させる新世代商品群の第1弾として期待がかかる。今回は、マツダが所有するちょっと古い欧州車との関係性なども含め、新型車に込められた思いや技術などについて考察してみた。

  • マツダの新型車「MAZDA3」

    マツダは5月24日、都内で新型「MAZDA3」の発表会を開催した(撮影:原アキラ)

チーフデザイナーが思いを馳せたメルセデス・ベンツ

MAZDA3の美しいフォルムを担当したのは、マツダ・デザイン本部の土田康剛チーフデザイナーだ。日本の美意識に基づいた「引き算の美学」でクルマから不要な要素をそぎ落とし、滑らかなボディの面を走る繊細な光の移ろいによって豊かな生命感を表現することで、独自の造形を創出した。デザインの秘密について細かく説明してくれた同氏だが、筆者がある質問をすると、表情が一気に和らいだ。

  • 「MAZDA3」のデザイナーと開発主査

    「MAZDA3」の土田康剛チーフデザイナー(左)と別府耕太開発主査

その質問とは、「マツダが今も研究用としてお持ちのメルセデス・ベンツ『W124』。現在、私もそのクルマに乗っているのですが、そこから何か、ヒントを得たのですか?」というもの。W124とは、1985年にデビューしたメルセデスのミディアムクラスセダン&ステーションワゴンで、「最善か無か」という当時のメルセデスの哲学を突き詰めた、最後のモデルとされている。

  • メルセデス・ベンツの「W124」

    マツダも研究用に所有しているというメルセデス・ベンツ「W124」

W124を話題にすると、即座に「あっ、カッコいいなー!」と応じ、眼鏡の奥の表情を緩ませた土田氏。「さすがに、デザイン面での親和性はありませんが」と前置きした上で、「ああいった“タイムレス”なもの、長い時間を経ても残るものは、素晴らしいと思っています。MAZDA3はボディーのリフレクションで勝負していて、持っていく場所や時間によって表情が絶えず変わります。長い時間をかけて味わえる“タイムレス”がキーワードです」とMAZDA3とW124の共通点について語ってくれた。

では、MAZDA3を何かに例えるとしたら? 土田氏によれば「和食」、中でも「江戸前寿司」がピッタリだという。江戸前寿司は見た目こそシンプルであるものの、ネタを寝かせて熟成させたり、食べてみると出汁が効いていたりと、職人が裏で手間暇をかけているところが身上だ。そのあたりを気にせず食べれば、ともすると、「醤油をつけて食うな!」と怒られてしまう。そういったこだわりがありながら、江戸前寿司を構成するのは、ご飯とネタだけと至ってシンプル。MAZDA3をデザインする上でも、そうしたプロダクトを心がけたそうだ。

  • マツダの新型車「MAZDA3」

    「MAZDA3」のボディーは、周囲の風景や光の反映(リフレクション)により表情を変える

「ナショナリティーとかバックボーンがないと、商品は必ず淘汰されます。家電がいい例で、日本製品は価格が安く、壊れない。だけどデザインがない。だから残らない。禅の精神までいってしまうほどの無味無臭は行き過ぎで、そこにエモーショナルなものをきちんと表現するところにチャレンジがあるんです」。シンプルでありながら奥深いMAZDA3の造形の秘密が、土田氏の言葉から透けて見えてくるようだ。